( 303493 ) 2025/06/30 04:14:43 1 00 6月はプライド月間で、企業に対し「性的指向・性自認に関するハラスメント防止」の義務が明記された。
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( 303495 ) 2025/06/30 04:14:43 0 00 写真:graphica/イメージマート
6月はプライド月間。今月、「就活生に対するSOGI(性的指向・性自認)に関するハラスメントを防止する」企業側の義務が、「労働施策総合推進法」(パワハラ防止法)の付帯決議として明記されることが決まった。支援団体の調査によれば、この1年間で就職・転職を経験した当事者のうち「トランスジェンダーの74.0%、LGB等の27.3%が、採用選考時に困難やハラスメントを経験」している(認定NPO法人ReBit)。就活を経験したLGBTQ当事者と、支援団体の専門家らに話を聞いた。(取材・文:城リユア/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
写真:takasu/イメージマート
「面接では『男と女、どっちが好きなの?』『彼女いるの?』みたいな仕事と関係ない質問や、異性愛者であることを前提としたマイクロアグレッション(無意識の差別的な言動)をめちゃくちゃ受けましたね」
阿部さん(27歳・仮名)は、日によって自分を男性、あるいは男性・女性のどちらにも当てはまらないノンバイナリーだと感じるジェンダーフルイド(性自認が流動的な状態)を自認している。生まれた時に割り当てられた性は男性。小1の頃には男性として「俺」と自称することに違和感があったという。大学卒業後に1社を経て、昨年、転職活動をスタートした。
「その質問については、答えないです」
面接でジェンダーに関するぶしつけな質問にはそう伝えた。結果的に、複数の企業に落ちた。
「そこで迎合することが必要な会社は選ばないと最初から決めていました。『私はこうですが、受け入れられますか?』と、企業を見極めるスタンスでいいと思うんです」
阿部さんは転職活動前からカミングアウトしていた。力を入れてきた性的マイノリティーの格差是正活動の「自己PR」と、性自認の話は切り離せないからだ。「そっち系の意識高い人ね」と面接で冷笑されたこともあった。
「転職後は社内のDEI(多様性、公平性、包摂性)推進も担当していますが、上層部には『必ずしも売り上げにつながらない』などと理解がない人もいて、難しさを日々感じています」
LGBT向けの求人サイトを運営するJobRainbowの代表・星賢人さんはこう語る。
「10年以上前の就活生にはカミングアウトという選択肢すらありませんでした」
星賢人さん
エントリーシートから性別欄をなくし、私服で面接が受けられる会社が増えるなど状況は変わってきた。
「ただ、入社するまでどんな扱いを受けるのか分からず、不安を覚える学生はまだまだ多いです。なかには投資家に言われたから表面だけ“やってるふう”に見せている“レインボーウォッシュ企業”に入社してしまい、実際には研修なども進んでおらず、同僚にアウティングされて嫌な思いをするようなケースも。近年の課題です。先輩訪問などで内情をリサーチすることが非常に重要です」
トランスジェンダー男性のコウさん(25歳・仮名)は、ホルモン治療と胸オペを終えてから新卒採用に臨んだ。下半身の手術も進め、戸籍を女性から男性へ変えたかったが、治療費と時間の問題で難しかった。
「採用選考中は戦略的にカミングアウトせず、内定後に初めて伝えて企業側の反応をうかがいました。そう決めた理由は、性別移行中で今ほど男性の見た目ではなかった頃に参加した長期インターンシップの経験にあります。『男性の格好をしているけど、女性だよね?』と社長さんにハッキリ聞かれたんです。他の企業ではインターン内定を取り消されたことも。身分証で私の戸籍上の性別を知り、すぐ採用意思を覆され……ショックでした。実力で内定を獲得した後にカミングアウトして落とされたなら、それは会社の問題であって、自分を否定しなくていい」
トランスジェンダーの友人からは、男女どちらのスーツを面接で着るべきかよく相談される。
「自分が一番楽なほうを選ぶといいよとだけアドバイスしています。私は迷わず男性用スーツを選びました。少しは本当の自分として見てもらえるかなって……ささやかな希望」
写真:Spica/イメージマート
今勤務する会社には、内定後、「性別移行中なので定期的な通院が必要」だと医療的観点からカミングアウト。「私たちの会社にはいろんな理由で通院している社員がいるし、LGBTQに限らずどんな方であれ大丈夫です」という返信を読んで入社を決めた。
入社直前には「男女どちらのトイレを利用するか」などについて確認され、以下のようなやりとりがあった。
コウさん「手術して見た目も男性なので、男性として扱って大丈夫です。そのことは医療関係者以外には誰にも言っていないので必要性がない限り極力誰にも言わないでほしいです」
人事部「承知しました。しかし自然的な発生によってあなたの状況が知られることもあるので、そこはご了承ください」
「自然的な発生って何?」と混乱したコウさん。
「私の身の安全に関わる重要な問題です。発生しないように徹底してほしいとお願いして、今は配慮してくれています。世の中の人たちに当事者についてもっと知ってもらえれば状況は変わるのかな。足が不自由な方が車椅子を使うのを見て驚かないように、『あなたは女性のような感じだけど、本当は男性ですね』と淡々と扱ってくれる社会にいつかなるといいです」
提供:アフロ
「どの業界も大手企業は比較的、対応が進んでいます。ただ、大手に入れるのは学歴やアピールできる武器がある人が多い。LGBTQだからといじめられ、うつ病などを発症したり、不登校で学歴が低くなったりした当事者は少なくありません。そうすると、大手を目指すハードルが高くなってしまいがちです」と前出の星さんは言う。
民間調査によると、過去1年におけるLGBTQの不登校経験者数は、「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(文部科学省/2023年度)」の全国平均と比べ、中学生は3.5倍、高校生は4.3倍にのぼる(認定NPO法人ReBit/2025年)。
そんな課題に光をあてうる取り組みを始めた会社もある。メルカリは2020年から「IT業界のマイノリティー」とされる女性やLGBTQ当事者を対象にエンジニア育成プログラムを実施しており、16歳から応募が可能だ。
「いきなり選考だけを実施すると、ふるいにかけられたエリートしか残らない。このエンジニア育成プログラムは、さまざまな背景や事情によりチャンスが巡ってこなかった人たちが学ぶ場を設け、スキルトレーニング修了後、選考を経てインターンシップに進める道を開いた。インパクトのある試みとして注目しています」
独自の施策を進める会社があるなかで、さらに星さんは、当事者が働きやすい職場を見つけるためには、「LGBTQフレンドリーであることが、自分にとってどれくらい優先順位が高いのか」の自問自答も重要だと指摘する。
「LGBTQフレンドリーであることを優先しすぎて、気の乗らない業界・業種を選んでしまい、活躍できないケースもたくさん見てきました。また、ワーク・ライフ・バランスのとりやすさや、メンタルヘルスのサポートの有無、キャリアを築きやすい職場なのかなど、幅広い視点で自分にフィットする企業なのかを見極めていくことも大切です」
松中権さん
「企業が、他社などを巻き込んで“社会を変えていく力”に注目しています」
そう語るのは、一般社団法人work with Prideの代表・松中権さん。性的マイノリティーが働きやすい職場環境を整えるための取り組みを実施しているかどうかを評価する「PRIDE指標」を運営している。2016年当初、応募企業は82社だったが、2024年にはグループ応募を含めて968社に。
4年前には組織内にとどまらない社会的な活動を評価する「レインボー認定」を新設した。どんな企業が認定されているのだろうか。
たとえば「PwC Japanグループ」は「健康診断を受診しづらい当事者が多い」という課題を解決すべく、同グループの健康保険組合の全被保険者に配布する医療機関一覧に、レインボーマークをつける取り組みを進めている。「トランスジェンダー対応のある健診機関」の統一基準を策定し、情報公開した。2025年4月時点で約120の医療機関が基準を採用している。
「PRIDE指標」認定企業のうち約8割は大企業だ。中小や地方企業に取り組みを広げていくにあたり、松中さんは「国や自治体からの発信や、法整備も重要」だと実感している。
「会社の福利厚生や仕組みは、婚姻制度などの日本の法制度とひもづいているし、一つの企業ができることには限界があります。だからこそ企業同士が連携してスタンスを世の中に表明していく動きに、今とても期待しています」(松中さん)
今年1月、トランプ米大統領がDEI施策を縮小・廃止する複数の大統領令に署名した。松中さんの元にも、アメリカ本社の方向転換に困惑する日本オフィスの担当者たちの声が複数届いたという。
「ここで歩みを止めてどうするんだと、皆さんすごくポジティブな意見を交わしていたのが印象的でした。DEIという言葉が難しいならプロジェクト名を工夫する、本社に『海外はオフィスの判断で進めていい』と言質を取って、継続を宣言する。そんな担当者の姿に勇気をもらいました」(松中さん)
写真:アフロ
非当事者の学生にとっても、LGBTQフレンドリーな企業は魅力的に映っていると、前出の星さんは分析する。
民間の調査では、8割以上の学生が「D&Iを推進する企業は好感が持てる」と回答した(学情/2024年)。
「LGBTQに関して取り組んでいる企業はジェンダーに関するちゃんとした知識を持っているという評価なんです。『男女の役割分担』や『らしさの押し付け』もしないだろうと期待されるのでは。『女性活躍』を掲げていると今更感が強く、かえってまだ課題が残っているのかもしれないと感じる学生も多いんです」
「よくゲイの方が『彼女いるの?』『結婚は?』と聞かれ、『彼氏がいるんだけどな、結婚したくてもできないんだよな』とモヤモヤすることと、女性が『結婚しないの?』『子どもは?』と尋ねられて辟易することは、『らしさの決めつけ』という課題で根っこはつながっています。これを解決すれば、みんな働きやすくなるよね! というのが今の若い世代の感覚なんです」
星さんは就活生にエールを送る。
「かつて、産休・育休後に復職できる社会は当たり前じゃなかった。行動した女性たちがいるから現在があるんです。今、自分が感じている不安は、世の中全体の課題かもしれない。抑圧してしまえば、次世代に負の遺産を引き渡すことになりうるかもしれません。人権を軽んじる会社を選ばない、そうすればその会社には人が集まらなくなる。就活というアクションを通じて世の中を変えていけるという自覚をもって、学生さんには自分らしい道を切り開いていってほしいですね」
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」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。人間関係やからだの悩みなど、さまざまな視点から「性」について、そして性教育について取り上げます。子どもから大人まで関わる性のこと、一緒に考えてみませんか。
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