( 304445 )  2025/07/03 07:36:08  
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Photo by Takahiko Hara 

 

 7月20日投開票と決まった参議院選挙。国民を直撃する物価高に各党はどう対応するのか。「物価高から、あなたを守り抜く」をスローガンに掲げる立憲民主党・野田佳彦代表に、ジャーナリストの池上彰氏と増田ユリヤ氏が直撃した。(ジャーナリスト 池上 彰、増田ユリヤ 構成/梶原麻衣子) 

 

● 悶絶しながら決めた 1年間の「食料品の消費税ゼロ%」 

 

 増田 参院選では各党とも消費税減税を訴えていて、立憲民主党は来年4月から食料品に限り消費税を原則1年間、ゼロにするとしています。財政健全化を訴えて、2012年の首相時代に消費税10%への引き上げを決めたあの野田代表が?と驚きました。 

 

 野田 悶絶(もんぜつ)しながら決めました。社会保障と税の一体改革に政治生命を懸け、社会保障を持続可能なものにするためのきちっとした財源の手当てが必要だと確信を持っていましたので、消費税の引き上げを実現したことは自分としては達成感がありました。 

 

 ただ、現在の物価高の中で最も生活を圧迫しているのは食料品で、25年に値上げが見込まれる食料品は2万品を超えます。まさに民のかまどから煙が上がらなくなってきている中で、最も効果があるのは食料品の消費税を時限的にゼロにすることだと判断しました。 

 

 ただし赤字国債を発行することなく、社会保障に穴を開けないよう原則1年と期限を決めて、財源も明確にしています。 

 

● 欧米では臨機応変に 変動させている 

 

 池上 今、悶絶しながら決めたとおっしゃいましたが、どういう意味ですか。 

 

 野田 消費税は、一度下げると上げるのが容易ではないといわれます。しかし欧米では臨機応変に、景気や経済の状況に合わせて変動させています。日本も同様に現実的な対応ができる国にしたほうがいいので、チャレンジしようと思います。 

 

 増田 1年間という期限を区切って食料品の消費税をゼロ%にするということですが、どのくらいの効果を見込んでこの数字にしたのでしょうか。 

 

 野田 食料品の消費税をゼロにすると、1人当たり年間約4万円程度の減税になります。24年の家計調査では、2人以上の世帯のエンゲル係数(家計の消費支出に占める食料費の割合)は28.3%で、43年ぶりの高水準ですから、効果はあるだろうと思っています。 

 

 

● 財源は1年で5兆円が必要 赤字国債は発行せずに担保できる 

 

 増田 具体的に、財源をどのようにお考えですか。 

 

 野田 1年間で5兆円程度が必要になります。この5兆円について赤字国債を発行しないということを宣言しまして、いろいろと計算をしました。 

 

 最も貢献できそうなのは、政府が積みすぎている基金ですね。単年度で使いきるのではなく、複数年度にわたって使っていくお金が基金として積み立てられていますが、政府が決めた「3年ルール」、つまり向こう3年間に必要な額を差し引いても、25年2月時点で約7.8兆円の積みすぎ分がありました。 

 

 そのほか、日本が買っている外国債券の利子である余剰金1兆円余り。加えて、隠れ補助金と呼ばれる租税特別措置による法人税関係の減収額は2.3兆円余り(22年度)。これらの一部を減収分に充てることで、5兆円はしっかり担保できるとみています。 

 

● 自民党「2万円給付」を バラマキと批判するが何が違うのか 

 

 増田 食料品の消費税減税は経済情勢に応じて、1年だけ延長可能としていますが、2年たってもこの状況が改善しなかった場合はどうしますか。 

 

 野田 基本的には、原則として1年、最長で2年でやり抜こうということです。理想としては食料品の消費税減税期間が終わったら、「給付付き税額控除」を隙間なく導入することを提案しています。さらに食料品の消費税ゼロ%が実行されるまでの間は、「食卓おうえん給付金」という形で1人2万円を一律給付します。つまり三段構えの対策です。 

 

 池上 自民党が言っている「一律2万円給付」はバラマキだと批判されています。それとどう違うのですか。 

 

 野田 立憲民主党は財源を明示しています。一般会計の予備費と特別会計の予備費から捻出し、さらに単なるバラマキにならないように所得が高い場合には所得税が発生する仕組みです。税収の上振れ分を使うという自民党の制度設計とは全く異なります。 

 

 増田 社会保障に関しては、先の国会で年金法案の修正案について自公と合意しています。 

 

 

● 年金法案の修正案を 自公と合意した内幕 

 

 野田 年金制度改革ですね。これは5年に一度、必ずやらなければならない修正であり、国会が始まる前に与野党で協議して重要なテーマを選ぶ四つの重要広範議案の中の一つでもありました。 

 

 通常であれば予算審議が終わったのち、速やかに議論するのですが、与党から具体案が何も出てこなかったんです。そこでお尻をたたいてようやく案が出てきたのが5月末。 

 

 しかし中身を見たら、一番大事な基礎年金の底上げの部分が抜けている。形だけ法案を提出して、「やった感」を出そうとしたのでしょう。年金議論から逃げるようでは政権担当能力が疑われますから。そのため私は「これじゃ、あんこの入ってないあんパンじゃないか」と批判しました。 

 

 このまま終わらせては意味がないと、我々が修正案という形であんこを詰める役回りを担いました。どなたにとっても老後の年金の問題は重要ですから、修正案を立憲民主党が出し、修正協議をしたというわけです。 

 

● 選挙後の自公との大連立を にらんでの動きなのか 

 

 池上 与野党はさまざまな法案や政策で対立しますが、年金制度改革について立憲民主党は協議に参加して合意に至った。これは参院選後の政局をにらんで、一緒に協議したように見えるのですが。 

 

 野田 それは違いますね。先ほど重要広範議案は四つあると言いましたが、年金のほかにサイバー防衛と教員の働き方と給与を決める給特法についても修正協議をして法案を成立させています。 

 

 池上 参院選後、与党が大幅に議席を減らした場合には大連立があるのではともいわれています。 

 

 野田 我々は三段跳びで政権取りを目指しています。昨年10月の衆院選で50議席増やしたのが「ホップ」、参院選で改選議席数の与党過半数割れまで持ち込めれば「ステップ」となり、次の「ジャンプ」に大きくつながります。その時に政権を取りにいく。基本的には単独政権を目指しますが、足りない場合にはどこと組むか、臨機応変に考えたいと思っています。 

 

 増田 物価高対策の必要性はもちろん、選択的夫婦別姓に関する考え方なども、本来、立憲民主党と国民民主党は考えが近いのではないかと思いますが。 

 

 野田 特に選択的夫婦別姓については一緒にやりましょう、うちも賛成しますよとまで言ったのですが、すり合わせがうまくいきませんでしたね。 

 

 

● 国民民主党が 一番近い存在 

 

 池上 本来はかつての社会党右派と社会党左派のようなものですから、一緒になれば大きな勢力になるのに。 

 

 野田 自分は左派ではなくて、ど真ん中だと思っているんですけど、おっしゃったような歴史はあり、社会党右派と社会党左派は基本政策で一定の合意をしていました。 

 

 今後何か政局が動くときには、一番近い存在は国民民主党であると私は思っています。比例代表もありますし、お互いに存在感を示したいので、選挙中はなかなかそうはいかないかもしれませんけど、そうは言いながらも今後の政局を考えたときには一番近い存在であるということは意識しながらやっていきたいと思います。 

 

 池上 なかなか貴重な発言が出ました。その国民民主党はSNSや動画での発信が支持率増につながっているようですが、立憲民主党は対応が少し遅れているのではないですか。 

 

● SNS頼みの支持率増は 逆風に弱い 

 

 野田 率直に言って、そうだと思います。 

 

 池上 お認めになった。 

 

 野田 特に私がそういうものが苦手なので、得意な若手を登用したり専門家の方のご意見を伺ったりしながらSNSでも奮起していきたいですね。 

 

 池上 野田さんと言えば、毎朝の駅頭挨拶ですよね。 

 

 野田 39年、できるだけ毎朝やり続けてきました。今、通勤時にすれ違うのは私よりも若い世代の人たちばかりです。しかしじかにメッセージを渡し続けることで確実に届いていて、配布ビラの枚数も、毎年増え続けているんです。これは間違いなく効果があります。 

 

 増田 でも、地道なものはやっぱり勝つという信念がおありだということですよね。 

 

 野田 逆風の時に助けてくれるのは、SNS以上にやはりじかに接している方々です。SNSだけだとうまく流れがつくれたときにはぐんと急上昇するかもしれないけれど、たぶん逆風のときには一気に落ちていく可能性があります。 

 

 最近、駅頭に立つ時も、マイクを握って演説するよりはビラを配るんです。その方が、人が寄ってきてくれるんですね。広報よりも広聴だと言っていますが、有権者の方々が日々、何に困っているのか。勇気を出して近寄ってくださって、何を訴えようとしているのか。 

 

 そのメッセージを受け取って政治に反映していくことが政治の原点ですから、SNSでの発信にも力を入れつつ、駅頭挨拶は今後も続けていきたいと思っています。 

 

 (ジャーナリスト 池上 彰、増田ユリヤ 構成/梶原麻衣子) 

 

池上 彰/増田ユリヤ 

 

 

 
 

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