( 304670 ) 2025/07/04 06:05:19 0 00 急速に姿を消しつつあるビジネス用固定電話 多様化するコミュニケーション手段だが…
仕事をする上で若者とのコミュニケーションに悩む中高年が多い、という記事がネットには時々登場する。そこには「電話をする前にメッセンジャーやLINEやメールで事前に内容を伝えてほしい」「電話は怖いからかけないでほしい」「メッセージに『。』を使うと威圧的に感じる」「おじさんが絵文字を使うのはキモい」などといった若者からの意見が掲載されている。そして大抵、この手の記事には「分かります!」という声はあるものの、「時代は変わったものだ……」などのコメントがつく。
2000年代前半ぐらいまでは問答無用で「電話がかかってきたらすぐ出ろ!」「メールを受け取ったらすぐ返事しろ!」というオラオラ系のビジネスマナーが幅を利かせていたが、最近では個々人の快適なコミュニケーションスタイルを尊重し、周囲がその人に合わせてあげているように感じられる。
当然、30代以下からは「電話は怖い。かけないでほしい」はけっこうな確率で言われる。そんな状況下、仕事仲間の情報共有手段としてLINEのグループメッセージを使う人も多いだろうが、なんと、「LINEはすべてプライベートで使うものであり、仕事の相手には使いたくないのです」と言う若い社員がいたそうだ。その人はLINEの音声通話にしても、抵抗感があるからやめてほしい、と言う。もしもLINEを使いたいのであれば、百歩譲って会社からスマホを支給してもらいたい、と。でもその会社はケチだから支給してくれないそうなのだ。
現在の40〜60代であれば、仕事でメールを使うことは普通のことだった。メールの場合、メーリングリストに「とりあえず関係する人全員入れておこう」のような気持ちから30人ぐらいを入れてしまい、頻繁に自分とは関係ないメールが飛び交うような状況があった。
多くのプロジェクトというものは、30人いたとしても、実際に手を動かし、会議を重ねるコアメンバーは5〜6人程度である。関係する人の部署の上司や、事務担当、若手なども含めて全部入れてしまうから大規模メーリングリストになり、いつしか未読メールが増え続け、本当に大事なメールを読まなくなる、といった弊害もあった。基本的に「念のため関係者全員に送っておこう」という使われ方をしていたのである。「送った証拠」を多くの人に残しておく、という意味合いもあった。
一方、LINEやfacebookのDMグループ、さらにはSlack等のアプリは本当に必要な人員にのみ送るような傾向がある。何しろ即座に反応することが求められたりもするからだ。となると、あまりかかわっていない人からすれば「決まったことをメールで送るだけでいいんで、私はグループから外してもらえますか?」なんて言いたくなる。だからこそ厳選されたメンバーでサクサクと情報のやり取りをするようになるわけだ。
では、前出の「LINEはイヤだ」の人の場合は果たして何を使えばいいのか? 答えは「会社のメールだけにしてほしい」だ。とにかく自身のスマホに仕事関連のメッセージや関係者の名前が表示されることすら嫌悪感があるのだという。というわけで、この若者が加入する前はLINEでメッセージのやり取りをしていたという、あるプロジェクトチームは、連絡手段を急遽メールに変更。メンバーからは「不便だ」「アノ人がLINE使えば済む話なのに…」という意見はあったものの、このグループで一番エラい人が「メールでいいと言ってるのだからそうしよう。何かが苦手な人に苦痛を与える必要はない」と切り替えたのだ。
あとは、メールやLINEは不可で、ChatWorkを指定する人もいるという。もちろんその人の流儀なので尊重するものの、無料のユーザーは直近40日前までに投稿されたメッセージしか見られない。過去のメッセージを見たいと思ったら、その相手に「アノ時何を書いたか送ってもらえますか」といった若干間抜けな展開になる。
ここで思い出すのが、2010年頃のTwitter(現X)である。当時日本でTwitterを使う人はそれほど多くなく、利用者は時代の最先端的な扱いになっていた。だから現ユーザーで「2006年10月からXを利用しています」などと表示される人はこの「古参感」を大切にしているのでは。
2010年当時のアーリーアダプターで、ネット業界の著名人的な人々は「あ、私メールは見ないんですよ。TwitterのDMで連絡いただけますか?」と言うことがあった。今で言うインフルエンサーのため丁重に扱う必要があり、その仕事相手も慣れないTwitterのIDを開設し、「メールでいいじゃないかよぉ……」なんて思いながらDMを使っていたのだ。しかし、この人はTwitterを見る習慣があまりなく、つい見落としていて「なんで返事くれないんですか!」と怒られてしまう。
かくしてコミュニケーションツールは各人の心地よいやり方があるが、全員が徹底すべきことは「知らない番号・非通知設定の番号・海外発の番号は出ない」である。何しろ特殊詐欺が猛威を振るっているだけに、ここは徹底した方がいい。もちろん、ビジネスでスマホを使っている人は出る必要があるわけだが、それは会社契約にし、個人のプライバシーに関与できないようにすべきである。冒頭の「LINEはイヤだ」という若者も、本能的にこのセキュリティ対策を実践しているのかな、とも思う。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。
デイリー新潮編集部
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