( 304715 ) 2025/07/04 07:01:01 0 00 自公維3党で合意した医療費改革の実態とは(左から前原誠司・日本維新の会共同代表、石破茂・首相/時事通信フォト)
本誌・週刊ポストが追及してきた年金改悪に加え、石破政権は野党と組んで「医療費改悪」まで推し進めようとしている。国民にさらなる負担を強いる、その驚くべき中身とは。
「今日より明日は良くなると実感できる日本を実現する」──石破茂・首相は国会閉会後の会見でそう語ったが、言葉とは裏腹に、やっているのは“今日より負担が重くなる”政策ばかりだ。
今国会で立憲民主党と組んで年金改悪を行ない、次は日本維新の会と組んで医療費改悪を進めている。自公維3党は国会終盤に「国民負担を軽減する」と全国11万床の病床削減やOTC類似薬の保険適用除外など医療費削減で合意。政府は6月13日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)に改革を「2026年度から実行する」と明記した。
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とくに国民への影響が大きいのがOTC類似薬の保険給付見直し(保険除外)だ。これが実施されると「国民負担軽減」とは正反対の大きな負担増になる。
OTC類似薬とは、解熱剤のカロナールやメジコンなどの咳止め、湿布剤、花粉症薬、アトピー薬などドラッグストアで市販されている一般用医薬品(OTC)と類似の保険薬のことだ。患者は医師の処方箋をもらって調剤薬局で購入するが、保険が適用されるため一般薬より安い。政府はこれを保険対象外にすれば医療費が1兆円削減できると主張している。
健康保険の対象外にすれば健保財政と国庫の負担は減る。だが、患者はこれまで調剤薬局で3割負担で買えていた薬を、今後はドラッグストアで高い値段の市販薬を買わなければならなくなる。健保財政は軽減されても、国民の医療費負担は増す。
どれだけ増えるのか。
胃酸の分泌を抑える「ガスター10」の薬価は1錠12.1円。病院で胃潰瘍などの治療のために毎日2錠服用と処方されれば30日分で726円。自己負担はその3割で薬代は217円だ。それに対して市販薬は12錠で1738円(メーカー希望小売価格)だから30日分なら8690円。保険適用が除外されると、毎月の薬代は何と約40倍にハネ上がる。また、湿布薬の「ロキソニンテープ」は、約36倍になる。
こうしたOTC類似薬の種類は7000品目とされるが、そのうちよく使われる薬について、保険適用除外で患者の負担がどのくらい増えるかを本誌が比較したのが別掲のリストだ。
気管支炎や蓄膿症などの痰のからみや鼻づまりをやわらげる「ムコダイン去たん錠Pro500」の価格(患者負担額)は約49倍、解熱鎮痛薬の「ロキソニンS」は約20倍、鼻炎・花粉症薬の「アレグラFX」は約9倍など、“今日より明日は負担が重くなる”ことがわかる。
症状に苦しむ患者にとっては薬代の負担増は死活問題だ。
今回の医療費改革に反対する全国保険医団体連合会の本並省吾・事務局次長が語る。
「今回の突然のOTC類似薬の保険適用除外は、軽微な症状に用いられ、町の薬屋でも買える薬は保険適用をやめても大丈夫だろう、という安直な発想から来ています。しかし、医療現場の実態はそうではない。難病の患者が副作用の対症療法として鎮痛剤などOTC類似薬を使うケースは多いし、アトピーなど治療が長期化する病気の患者は何年もOTC類似薬を使わなければならない。
そのため難病の皮膚病の患者家族は6月に厚労省に保険適用継続を求める要望書と8万5000人の署名を提出しました。その時の会見で、家族の1人は、息子が難病指定の皮膚病で医師に処方された50gの保湿剤を毎月50本など3種類の薬を使っていて、現在は1回の受診でかかる医療費は薬代含めて2000円ほどだが、保険適用除外になると薬代だけで1か月約6万円以上になると訴えていました」
OTC類似薬が市販薬より価格がはるかに安いのにも理由がある。
「OTC類似薬は長期にわたって決まった分量を使わなければならない患者がたくさんいます。製薬メーカーは大量生産でコストが抑えられる。必要で多く使われるから薬価も安いんです。それに対して市販薬は成分は同様でも宣伝費がかかるし、流通コストも処方薬より高い。安く作れるクスリの保険適用をやめ、患者に割高な市販薬を使えというのが今回の改悪なのです」(本並氏)
維新と自公は医療費削減について協議した際、現役世代の社会保険料を1人あたり年6万円軽減することを「念頭に置く」としていたはずだ。だが、政府の骨太の方針には、薬代値上げの2026年実施は盛り込まれているが、保険料6万円値下げは盛り込まれていない。
厚労省に聞くと「保険適用除外するかどうか決まっていないため、どうなるかわかりません」(保険課)と答えた。
維新に聞くと、「日本維新の会は現役世代一人当たりの社会保険料を年間6万円引き下げることを掲げています。今回、この目標額を『骨太の方針』に反映することが合意に至らなかったものの、改革項目を着実に実施することで、医療費の増大を抑制し、社会保険料負担の軽減につながります」と回答した。
国民にとっては保険料引き下げが先送りされ、負担増ばかり進められるようにしか見えない。
※週刊ポスト2025年7月11日号
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