( 304718 ) 2025/07/04 07:05:46 1 00 2024年の東京都知事選では、選挙ポスターが話題になっており、特に無関係な人物や動物が描かれたポスターが特徴的だ。
(要約) |
( 304720 ) 2025/07/04 07:05:46 0 00 2024年の東京都知事選では、選挙ポスター掲示板の大部分を1党が占拠するという異様な光景が見られた(編集部撮影)
7月3日に公示された参議院選挙。20日の投票日に向けて、選挙ポスターも掲示され始めている。
2024年の東京都知事選では、無関係の人物や動物が写った“やりたい放題”の選挙ポスターが話題となった。そういった極端な例ではなくても、一見、一律に見える選挙ポスターにも候補者の個性が表れる。
毎度、ポスターを見て「この人に票を入れたい」と直感する人もいるだろう。反対に、言葉では言い表せない違和感を覚えることもある。その差はどこから生まれるのか。
■「顔の角度」で印象は変わる
もちろん、投票の動機はポスターだけではないが、有権者にとっては重要な判断材料の1つである。そのため、立候補者たちは限られたスペースと一瞬の印象で有権者の好感度を得なければならない。
背景、表情、視線、照明、服装といった要素すべてが、無言のプレゼンテーションとして機能しているのだ。
こうした「見た目による印象戦略」は、政治だけでなく、ビジネスの現場にもそのまま応用可能だ。最近では、自社のホームページに社員の写真を掲載したり、名刺に顔写真を入れたりといったことが多くなされるようになってきた。
政治家だけでなくビジネスパーソンにとっても、プロフィール写真は“選ばれるかどうか”を左右する武器である。
ここからは、選挙ポスターの視点から導き出される“この人に任せたい”と思わせる外見づくりのヒントを、ビジネスにおける具体的な活用法として掘り下げてみたい。
まず注目したいのは、「顔の角度」である。
真正面を向いた写真は、誠実さや真摯な姿勢を象徴する。というのも、正面構図は「相手の目をまっすぐ見ている」状態であり、そこには逃げやごまかしの余地がないからだ。
正面から向き合う姿勢は、信頼を生む基本動作の1つであり、「まっすぐ評価を受け入れる覚悟」として映る。
また、「視線の演出」も同様に重要だ。
カメラを正面から見据える視線は、「誠実に向き合いたい」「対話を重視したい」というメッセージにつながる。名刺交換の場でしっかり相手の目を見て話すことが基本とされるのと同じで、視線の正面性は、自分の言葉や立場に責任を持つ人物像を際立たせる。
一方で、顔や身体をやや斜めに向けた構図は、思慮深さや親しみやすさを感じさせる。真正面から少しずらすことで視覚的な余白が生まれ、見る人との間に心地よい距離感が生まれる。またわずかに傾けることでポーズの硬さが取れ、立体感とともに温かみがにじみ出る。
視線の向きは、メッセージをより明確に伝えることもできる。たとえば右上に向けると、想像力やビジョンの広がりを印象づける。左下に目線を落とせば、自己との対話や省察の深さが感じられる。視線のわずかな違いが、理念や未来志向といった価値観を静かに伝えるのである。
注意したいのは、下から煽ったアングルだ。「威圧感」や「支配的な印象」を与える恐れがあるためだ。本人は「力強さ」や「リーダーシップ」を表現したつもりでも、見上げる構図は“上から目線”に通じやすく、特に有権者との距離を縮めたい場面では逆効果だ。
加えて、口角の非対称にも注意したい。「片方だけ上がった笑み」は、無意識に優越感や侮蔑のニュアンスを含んでしまうことがある。表情のわずかな“左右差”が、印象を大きく左右する。
これらは、ビジネス用のプロフィール写真にも応用できる。たとえば、人材紹介や広報・PR、クリエイティブ職など、共感や柔軟なコミュニケーションが求められる職種では、身体をやや斜めに構えた写真のほうが、視線の圧力を和らげ、親しみやすく対話に開かれた印象を与える。
一方で、医師や大手企業の管理職・経営層、金融機関の幹部といった、判断力や信頼性が重視される職種では、正面をまっすぐ見据えた構図のほうが、真摯さや責任感、確固たる意思を感じさせる。写真を通じて「信頼を委ねられる存在」としての印象を明確に伝える点で、より効果的である。
■何色の背景を選ぶべきか?
では、照明のあて方はどうすべきか。
明るく均一に照らされた顔写真は、候補者や人物の表情を明瞭に伝え、「透明性」「誠実さ」「信頼感」といった印象を醸し出す。一方、照明が不十分で顔に影ができてしまうと、「暗い」「不信感」「疲れて見える」など、ネガティブな印象につながりやすい。
この原理もまた、ビジネスの場面にそのまま当てはまる。たとえば、プロフィール写真が暗かったり、照明が甘かったりすると、「活力が感じられない」「存在感に欠ける」といった印象を持たれるおそれがある。
逆に、顔全体を明るく均一な光で照らすことで、表情がくっきりと伝わり、清潔感や安心感を印象づけることが可能になる。
陰影のある顔写真はスタイリッシュではあるものの、選挙やビジネスのプロフィール写真においては適していないと言える。
さらに、背景の選び方も見逃せない要素だ。
シンプルな背景は、顔や名前、キャッチコピーといった「伝えるべき情報」を視覚的に際立たせる効果がある。背景に複雑な模様や強い色があると、視線が分散し、主役である人物やメッセージの印象が弱まってしまうためだ。
選挙ポスターにおいて、無地やぼかし処理された背景が多く使われているのも、視線を人物や言葉に集中させるための工夫といえる。こうした背景は、文字情報との競合を避けるという点でも有効である。
ビジネスでのプロフィール写真でも、同様の原則が当てはまる。ただしここで重要なのは、背景の「色」そのものが伝えるメッセージに深く関わってくるという点である。
白や淡いグレー、ベージュなどのニュートラルカラーは、清潔感や開放感を与え、幅広い業種で無難かつ安心感のある印象をつくりやすい。反対に、濃いネイビーやボルドーなど重厚な色は、威厳や信頼、伝統的な安定感を印象づける。
注意したいのは、「伝えたい印象と背景色が一致しているかどうか」という点。たとえば、「未来志向」「革新性」「若々しさ」といったキーワードで自らを語りたい場合に、重厚感のある暗色系の背景を選ぶと、視覚的なメッセージとコンセプトに齟齬が生じる。
逆に、堅実さや伝統に基づく信頼を前面に出したい場面で、あまりに軽やかな色や装飾的な背景を使えば、印象の一貫性を損ねかねない。
写真は一瞬で印象を決めるメディアである。伝えたい印象と背景の色が一致しているかーーその視覚的整合性こそが、“伝わる写真”を生むカギである。
■「ラーメン店主のポーズ」は注意が必要
相手の目線に対して身体を開くような、顔や首、胸などの急所をしっかりと見せたポーズは、信頼感や安心感を伝え、話しかけやすい人物という印象を与える。
しかし、よくラーメン店主の定番写真となっている“腕組みポーズ”のような、無表情で腕を胸の前で組んだ姿勢は、「防御的」かつ閉ざされた印象と受け取られることが多く、選挙ポスターやビジネスで採用するには、印象戦略の観点から注意が必要だ。
ただし、すべての腕組みが悪いわけではない。
柔らかな笑顔を伴う腕組みは、自信を感じさせることができ、「頼れそうな人」という印象につながる場合もある。また、やや視線を外し、力を抜いて自然に腕を組んだポーズは、「内省的」「思慮深い」印象を与えることもある。
重要なのは、腕組みが表情や全身の雰囲気と調和しているかどうかだ。笑顔やリラックスした姿勢と組み合わせれば、腕組みも閉鎖的ではなく“安定感”や“落ち着き”を演出するポーズとして活用できる。
■「白シャツ×ダークスーツ」の写真が多いワケ
スーツやインナーの色・質感・シルエット、アクセサリーやネクタイといった服装も、印象を大きく左右する非言語メッセージである。たとえば、暗い色味のスーツやネクタイは、安定感や重厚さ、落ち着きといった印象を与え、明るい色味は、柔軟さや親しみやすさ、開放的な雰囲気を演出する。
さらに、色の強さも印象に影響を与える。白シャツ×ダークスーツのような強いコントラストは、輪郭が際立ち、リーダーシップや力強さを印象づけやすい。選挙ポスターの男性候補者にこのような服装が多いのも、リーダーシップをアピールしたいという表れだろう。
一方で、ベージュ×ライトグレーのような弱いコントラストは、柔和さや協調性、自然体な印象を醸す。
女性の装いにおいて頻繁に用いられるパールのアクセサリーも、粒の大きさや質感によって、繊細さや芯の強さといった印象が変わる。定番のアイテムであっても、その見せ方で伝わるメッセージは異なる。
服装はボディランゲージ同様、自分が「誰に」「何を」伝えたいのかを可視化する戦略的なツールである。その組み合わせ次第で、信頼感・決断力・誠実さ・知性・親しみやすさといったメッセージを、言葉以上に明確に伝えることができるのだ。
プロフィール写真は、たった1枚でその人の仕事観や姿勢を語るメディアである。装いだけでなく、顔の向きや視線の向き、背景にさえ、その人らしさが静かに映し出されている。私たちは気づかぬうちに、日々のあらゆる場面で“無言の選考”を受けているのかもしれない。
だからこそ、どんな写真を選ぶかは、自己紹介の一部であり、仕事へのスタンスを語る手段でもある。時間をかけて言葉を磨くように、1枚の写真にも意図を持たせたい。
安積 陽子 :ニューヨーク州立ファッション工科大学主任講師/国際イメージコンサルタント
|
![]() |