( 304880 )  2025/07/05 05:16:44  
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JR吉祥寺駅前で街頭演説に臨んだ山尾志桜里氏(写真:東京スポーツ/アフロ) 

 

 「悪名も含めての抜群の知名度があり、今後の展開次第では当選圏に届く可能性もある」 

 

 選挙アナリストの間でそんな声が出始めているのが、参議院東京都選挙区に無所属で立候補した、山尾志桜里(本名・菅野志桜里)元衆院議員(50)だ。同選挙区に候補者を擁立した各党・政治団体の選挙戦略にも影響を及ぼす可能性があることから、その動静が政界で注目されている。 

 

■無理筋の挑戦だがどんでん返しの可能性も 

 

 同選挙区では、4人の現職(自民党1、立憲民主党2、共産党1)を含め、各党・各政治団体がこぞって候補を擁立している。改選6に欠員補充の1議席を加えた計7議席に32人が立候補した激戦区で、今回の参院選での最注目区となりそうな状況だ。 

 

 そうした中、都内約1万4000カ所に設置されたポスター掲示板で、公示日に山尾氏のポスターが張られたのはごく一部にとどまっている。公示直前に出馬を決断したため、ポスター貼りなどを担当するスタッフらの数が限られているのが理由とされる。 

 

 「主要政党だけでなく、ほとんど知名度のない政治団体でも、公示日にほぼ都内全域で候補者のポスター貼りを終えたケースもある」(選挙アナリスト)だけに、山尾陣営の出遅れが目立つ。 

 

 同選挙区のこれまでの選挙戦を見る限り、「完全無所属での挑戦は論外」というのが関係者の中での常識だ。その一方で、「何が何でも政界復帰を目指す」という山尾氏の執念と、なりふり構わず“ドブ板”に徹する街宣活動が、一部有権者の胸に刺さる可能性を秘めている。 

 

 「今後の展開次第では、他陣営やメディアも無視できない存在となる」(前出の選挙アナリスト)との見方もあり、多くのメディアは投開票直前まで「山尾ウォッチ」を続ける構えだ。 

 

 内定していた国民民主党からの公認での比例代表への出馬が、土壇場で取り消しとなり、出馬の権利を失いかけた山尾氏。だが、公示直前の7月1日に無所属での出馬を表明。直ちに長年住み続けた吉祥寺の事務所を出発点として、選挙活動をスタートさせた。 

 

 公示日の3日午後1時、JR吉祥寺駅前で選挙戦の第一声に臨んだ山尾氏は、演説の冒頭から国民民主党との一連の経緯に言及。集まった数十人の聴衆に対して、まず「吉祥寺での第一声は予想どおりですが、無所属での第一声は予想外だった。(右でも左でもない)中道の政治を諦めることがどうしてもできなかった」と語りかけた。 

 

 

 そのうえで、「2020年の結党時には、リベラルから穏健保守までを包摂していく改革中道政党だと結党メンバーで誓い合ったのに、選挙を前にして右旋回から逃れられないという状況を教えてくれたのが国民民主党だった」と、出馬に至る経緯を説明した。 

 

 それを踏まえて「無所属でも中道政治の実現ができるのか何度も自分で問うたが、無所属だからできると決意できたので、ここに立っている。(私のように)皇室や憲法の問題を選挙で正面に掲げる政党はほとんどない。私は皇室と憲法の問題をしっかり訴えていきたい。右も左もとらわれず、ど真ん中の中道にかけるみなさんの思いを、私の選挙で見える化する17日間の戦いにしたい」などと、拳を突き上げながら熱っぽく訴えた。 

 

■汗だくで聴衆に分け入り固い握手を交わす 

 

 山尾氏の第一声には、約30人の報道陣が駆けつける一方、聴衆は当初、十数人にとどまった。その中で山尾氏は「もし私を無所属で国会にもう一度送っていただいたら、『保育園落ちた』の9年後、2025年の子育て政策を必ず前に進めます!」などと約25分間、よく通る声で訴え続けた。 

 

 演説を終えたときは汗だくで、化粧も崩れていた山尾氏だが、すぐさま聴衆に分け入り、「よく来てくれました。ありがとう」「暑い中、ありがとうございます」などと満面の笑みで一人ひとりの手を握りしめ、サインや写真撮影の求めにも快く応じていた。 

 

 第一声終了後に記者団の取材に応じた山尾氏は「基礎票がゼロで難しい戦いだが、無所属でしか訴えられない国の政策があり、大事なことを正面からストレートに訴える勝負をしたい」と決意を表明した。 

 

 演説の冒頭で国民民主党に触れた理由については、「最近まで国民民主の候補者として事務所を構えていた。地域の方々に、なぜなのかという経過をお伝えしたかった」と説明するにとどめた。 

 

 そもそも山尾氏は、民進党の衆院議員だった10年前、衆院予算委員会で当時の安倍晋三首相(故人)に対し、「保育園落ちた、日本死ね」と悲嘆するWeb上の声をぶつけ、一気に「野党の女性議員の星」となり、党幹部に上り詰めた“異才の女傑”だ。 

 

 

 ただ、周囲からは「お高くとまった美魔女(35歳以上の年齢を感じさせないほど若々しく美しい女性)」と受け止められた。その印象が中央政界での反発にもつながっていたのは否定できない。  

 

 公認内定取り消しにもつながったとされる国民民主党からの出馬会見でも、焦点だった「不倫問題」に関して頑なにも映った説明ぶりが、「相変わらずの山尾氏」という批判とともにSNSでの炎上を招いたのは事実だ。 

 

 一方、3日の第一声での立ち居振る舞いを見る限り、「“ズタボロ”になってドブ板で訴える女性候補になりきっていた」(取材記者)ことで、これまでの悪印象を払拭した格好ではある。 

 

 とはいえ、こうした山尾氏の“大変身”にもかかわらず、現状では選挙戦の厳しさは変わりそうもない。選挙関係者の間では「今回は改選数が1つ増えて7議席となり、当選ラインが下がるが、それでも50万票は必要。徒手空拳の無所属では、同情票だけで当選圏内に入るのは極めて厳しい」(別の選挙アナリスト)との見方が支配的だ。 

 

■「30万票の限界」を突破できるか 

 

 しかし、大乱戦が予想される今回の「首都決戦」における各候補の選挙戦略を分析すると、「山尾氏の“意地の出馬”が各有力候補の戦略を揺さぶっている」(同)との指摘も出始めている。 

 

 過去の東京都選挙区の選挙結果を振り返ると、山尾氏のような知名度のある元議員が出馬した場合でも「30万票が限界」というのが常識だった。しかし、山尾氏のように、タブー視されてきた「皇室と憲法」を掲げて挑んだ有力候補は、これまではいなかった。だからこそ、NHKや民放各局の多くが山尾氏の第一声の映像を取材・放映したわけだ。 

 

 「今後も同様の状況が続き、各メディアの東京都選挙区の情勢調査で山尾氏の支持拡大が目立てば、これまでの『30万票』という限界を突破して、当選圏に迫る可能性も出てくる」(政治ジャーナリスト)との見方が広がっている。 

 

 ほかの政治家にはない「異例ずくめの曲折」を乗り越えて再起を期す山尾氏。開票日の7月20日夜に歓喜の涙を流すのか、落胆して去るのかは、まだ誰もわからないのが実情だ。 

 

泉 宏 :政治ジャーナリスト 

 

 

 
 

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