( 306063 )  2025/07/09 06:23:39  
00

徳島と米子の空港では、2025年7月5日に予言された「大災害」による影響で香港便が運休することになり、予言が外れたにもかかわらず地方には深刻な徒労感が広がっている。

徳島空港では、運航するグレーターベイ航空の搭乗客がほとんどおらず、運航率も低下した。

SNS上で広がった予言は科学的根拠がない「デマ」とされているものの、地方の観光業に対して深刻な打撃を与えた。

観光客誘致策の再考を余儀なくされたが、地方空港は競争が激化し、一度失った路線の復活は難しい状況である。

(要約)

( 306065 )  2025/07/09 06:23:39  
00

徳島空港で滑走路に向かうグレーターベイ機(画像:高田泰) 

 

 SNSでブームとなった2025年7月5日の「大災害」予言で徳島、米子両空港の香港便が運休することになった。予言は外れたが、国際定期便を失った地方には徒労感が広がる。 

 

 白い機体に青い尾翼をつけた香港発グレーターベイ航空のボーイング737-800型機が、予定より約30分遅れで滑走路に降り立つ。188席の旅客機なのに、入国手続きを終えて到着ロビーを出てきた乗客を数えると20人足らず。日本に壊滅的な災害が起きると予言された当日の7月5日午後、徳島空港(徳島県松茂町)香港便は閑散としていた。 

 

 ロビー警備の男性は「ほんまにきょうは少ないな」。空港ロビーでレンタカーを借り、急いで商談先へ向かうビジネスマンの後ろを、幼子の手を引いた家族連れが大きなキャリーケースを引きずって歩いてくる。家族連れの父親は「予言は信じていなかった。変な世のなかになったね」と笑っていた。 

 

 運航会社は香港の格安航空会社・グレーターベイ航空。日本では、徳島空港だけでなく、成田(千葉県成田市)、関西(大阪府泉佐野市など)、仙台(宮城県名取市など)、米子(鳥取県境港市)の4空港にも乗り入れている。徳島空港には2024年11月に就航し、週に3往復していた。 

 

 当初、搭乗率は55%程度で推移していたが、7月5日の予言が香港で広がったことから、搭乗率が低下して5月12日から週2往復に減便した。5月の搭乗率は損益分岐点を大きく下回る22%。予言の日が近づくなか、香港でさらに日本行きを避ける動きが強まり、米子空港の香港便とともに9月から運休することになった。 

 

 徳島県の後藤田正純知事は「科学的根拠のない風評被害で運休になるのは残念。運航再開は訪日客需要の回復状況を見ながら協議したい」、鳥取県の平井伸治知事は「秋以降どうしていくのか、(航空会社と)パイプを保ちたい」とコメントした。 

 

到着ロビーを出てきた香港からの訪日客(画像:高田泰) 

 

 問題の発端となったのは、漫画家のたつき諒さんが1999(平成11)年、夢で見た未来の日本を描いた漫画単行本「私が見た未来」。東日本大震災を事前に予見したとも受け取れる内容だったことから、SNSや動画投稿サイトで「予言の書」として注目された。 

 

 2021年に刊行された「私が見た未来完全版」では、2025年7月に巨大津波が日本を襲う夢を見たことが描かれ、その日付が作者後書きで5日とされている。これを受け、インターネット上では他の終末予言と絡め、日本に大惨事が起きることを推測させる動画が多数投稿された。 

 

 騒ぎが大きくなるなか、気象庁は記者会見などで再三、予言内容を「デマ」と断言したが、動画は再生回数を増やす一方。やがて騒ぎはデマの域を超え、現代文明が1999年7月に滅亡するとした20世紀末のノストラダムスの予言を彷彿させる社会現象となった。「私が見た未来完全版」は中国語版が出版されており、香港でもうわさがうわさを呼んでいたという。 

 

 こうした根拠のないうわさはSNS時代を迎え、急速に拡散されるようになった。社会心理学のオルポートの公式では、 

 

「流言やデマは証拠があいまいであるほど人々の憶測を呼び、急速に広がる」 

 

とされる。日中両国とも社会に閉塞感が漂うなか、近い将来の災害を想定することで今の不安から逃れようとする意識がデマを広げたのかもしれない。 

 

 5日が過ぎてもトカラ列島(鹿児島県十島村)の群発地震と絡めた終末予言の動画が次々に投稿されるなか、ネット上では安堵の声やデマ批判、予言が外れたことをネタにした笑い話などさまざまな声が上がっている。だが、国際定期便を失った地方はたまったものではない。 

 

 

香港便が9月で運休する徳島空港(画像:高田泰) 

 

 徳島、鳥取両県は人口減少が急速に進み、将来が危ぶまれる厳しい状況に陥っている。両県の推計人口は6月現在で徳島県約68万人、鳥取県約53万人。鳥取県は全国の都道府県で最少、徳島県も少ないほうから4番目に位置する。 

 

 円安を背景とした訪日観光ブームからも取り残されてきた。日本政府観光局がまとめた2024年の訪日観光客訪問率は、両県とも0.3%で全国42位。観光庁が集計した2024年の外国人宿泊数は徳島県が全国40位の約1万6000人、鳥取県が最下位の約7200人だ。 

 

 訪日客誘致で地方創生の負け組脱却を図るため、米子空港は2016年、徳島空港は2018年から国際定期便が乗り入れを始めた。コロナ禍で一時中断したあと、米子空港は韓国、台湾、香港の3路線、徳島空港は韓国、香港の2路線が就航している。 

 

 なかでも徳島空港は2路線とも2024年11~12月に就航したばかり。現地とのパイプを太くして訪日客をより多く受け入れようとしていた矢先だけに、徳島県観光政策課は 

 

「訪日客誘致策が仕切り直しになる」 

 

と対応に苦慮している。 

 

 コロナ禍後の訪日客は円安を背景に初来日する人が増えたからか、有名観光地が多い首都圏と関西に集中する傾向が以前より強い。アジアの航空会社はコロナ禍で手放した機材を確保し直し、旅客需要の大きい路線から乗り入れを再開中で、中部国際空港(愛知県常滑市)でさえ路線新設に苦戦している。 

 

 しかも、日本の地方空港は東アジア路線が飽和状態といわれる。そんななか、香港や中国は景気が減速し、日本より旅費が安い中国国内観光にシフトしつつある。地方空港が一度失った路線を復活させるには相当な苦労を要しそうだ。 

 

 野村総合研究所グループの木内登英エグゼクティブ・エコノミストは5月末、「大災害」予言騒動が沈静化できなければ、 

 

「日本のインバウンド需要を5600億円程度縮小させる可能性がある」 

 

と野村総研のオウンドメディア「&N未来創発ラボ」で指摘した。「大災害」予言が地方に残した傷跡はあまりにも大きい。 

 

高田泰(フリージャーナリスト) 

 

 

 
 

IMAGE