( 306110 )  2025/07/09 07:18:33  
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1971年4月に開業した1号店「箕面ショップ」の看板 

 

ミスタードーナツの期間限定商品「もっちゅりん」が、各店とも即完売!  販売時間とともに、熾烈な争奪戦が巻き起こっているという。一体どんな商品なのか?  そしてなぜミスドは好調なのか?  創業の地・箕面ショップで、実食しながら考えてみた。 

 「もっちゅりん」の注文時間は、各店でもバラバラ。筆者が訪れた大阪市内の某店では、最初に人が並んだのが11時25分のことだった。 

 

 外が雨ということもあり、11時40分の時点で10人少々だった行列は、店内に並ぶよう誘導。その直後から突然のように行列が伸びはじめ……11時55分の時点で80人を突破していた。 

 

■「もっちゅりん」とは、どんな味か? →「もっちゅりん」以外の形容詞ナシ!  

 

 さて、噂の「もっちゅりん」、味はどうか……食感・風味ともに初体験! もはや「もっちゅり」としか表現のしようがない。 

 

 ドーム状の容器に包まれた直径7㎝、高さ2㎝程の物体は、指で「ぐにっ」と軽く押しただけで跡が残るほどに柔らかく、生地としての弾力はしっかり残る。 

 

■気になる食感、お味は… 

 

 「ミスド・もちもち柔らか2大巨頭」(勝手に命名)である「ポン・デ・リング」「エンゼルクリーム」より格段に柔らかく、かつ生地を引っ張ると、生地のコシ・伸びや、生地そのものの香ばしさがあり……そう説明するのが馬鹿らしくなるほど、「もっちゅり」としか形容できない食感だ。 

 

 あえて言うと、生地がうまい!  おそらく塩だけかけて食べても美味であろう。さらに、中にくるまれている餅状の生地も、「あずき」が「あずき仕様」、「わらびもち」が「わらびもち仕様」になるなど、製造過程で相当に手間をかけている様子がうかがえる。 

 

 実際に食べたところ、「みたらし」だけ極端に食べづらかったものの、味や食感すべてに大満足できるものであった。 

 

 それにしても、この柔らかさの生地をフライにして、フレーバーをつけてドーム状の容器に収めて……トングで力を入れると潰れそうな「もっちゅりん」を扱う、キッチンの気苦労は相当なものと見た。 

 

 

 そして、美味しくいただいているうちに気づいた。「もっちゅりん」を待っていた人々は複数・集団での来店が多く、「オールドファッション」「エンゼルフレンチ」などほかの定番やコーヒーなどを、高確率で注文している。 

 

 かつ「もっちゅりん」品切れの一報を聞いた後も何らかの注文をする方が多く、1時間後にはショーケースがスカスカ、という繁盛ぶりであった。 

 

 どうやらミスタードーナツは、新商品を「話題性だけの打ち上げ花火」で終わらせないノウハウがあるようだ。 

 

 その強みを検証するとともに、「クリスピー・クリーム・ドーナツ」や、コンビニの「セブン-イレブン」などのドーナツとどう戦ってきたか、「ドーナツ業界・競争の大混戦」の歴史をたどってみよう。 

 

■「もっちゅりん」だけじゃない! ミスド「新商品大行列」の歴史 

 

 ミスタードーナツはほぼ途切れ目なく新商品を提供しており、「もっちゅりん」だけでなく過去には「祇園辻利」「ゴディバ」「ピエール マルコリーニ」などのコラボ商品が、発売とともに爆発的な話題を呼んだ。 

 

 そもそも、今の看板商品「ポン・デ・リング」も2003年の発売から売れすぎによる品不足が続いており、「人気で品薄」「希少価値」といったイメージでの集客は、ミスタードーナツにとって昔からお手の物・お家芸ではある。 

 

 しかも新商品は年に何度も発売されるため、「ピザならクリスマス」「フライドチキンなら夏休み」といった「ハレの日」(特別な日)が繰り返し訪れているようなもの。ドーナツはお世辞にも「ケ」(普通の日)の食事ではないものの、新商品を頼んだ日を「ハレの日」に変えさせる力があり、ドーナツなら他のハレ需要商品より気軽な価格で頼める。 

 

 さらに、全体的な傾向として「女性客は新商品好み」「男性客は定番商品好み」などの傾向があり、各店ごとにショーケースに並ぶ40種類程度の商品は、かなり広範囲な年代・世代の好みをカバーしているという。 

 

 だからこそ、新商品と定番商品をセットで頼む人々も多く、決して「もっちゅりん」だけが売れている訳ではない。テイクアウトだと、「お母さんは新商品目当て」「お父さんはフレンチクルーラーなどの定番」「子供たちはポン・デ・リングをちぎってシェア」など、家族でガヤガヤとドーナツを取っているうちに、気が付けば注文は十数個・持ち帰り箱は2つ目に突入していたりする。 

 

 

 「話題の新商品を気にかけさせてしまう」「幅広い客層に対応できる」「テイクアウトに強い」これが、来店客に多量注文をさせてしまうミスドの販売戦略……という名の魔法だ。 

 

 さらにミスタードーナツは、店内で生地から作るためにロスが発生しにくく、余った食材も通常メニューではない「ファンシードーナツ」(例:ハニーチュロ+余りのチョコソースで「チョコチュロス」など)として、無駄なく売りさばくノウハウが完成している。 

 

 新商品発売は、店にとっては「新商品目当てで来たのなら、他の味も覚えて帰ってくださいね!」と誘導できる絶好の機会でもあり、ドーナツを選ぶ楽しさを覚えた顧客は、あらたな常連客となる。ミスドの「新商品の発売ごとに顧客をつかむビジネスモデル」は、そう考えるとかなりよくできている。 

 

■ライバルは多いのに、なぜ「ミスド」一人勝ち?  

 

 それにしても、なぜ「ドーナツといえばミスタードーナツ」なのだろうか?  

 

 これまで世界的なチェーンだと、ミスタードーナツ以外に「ダンキンドーナツ」「クリスピー・クリーム・ドーナツ」などが日本進出を果たしている。またセブン-イレブンも2014年からレジ横でドーナツを販売、2024年から「お店で揚げたドーナツ」を展開している。 

 

 ドーナツ店の国内市場はここ6年で5割以上も成長する中、ミスドにはライバルがいっぱいいるのではないか?  実際には、日本の市場で継続して戦えているのは、ミスタードーナツだけだ。 

 

 その理由としては、「ドーナツやお店を日本ナイズできたこと」であろう。「甘い・大きい」モノが多いアメリカのドーナツに対して、ミスタードーナツは「甘くない・小さい」といった日本人向けのドーナツを開発、定着させてきた。 

 

 ミスタードーナツは、1983年に「ミスタードーナツ・オブ・アメリカ」から権利を買い取ったために、独自で開発商品ができる。代表的商品「ポン・デ・リング」も、日本人ならなじみ深い「お餅のようなモチモチ食感」を狙ったものだ。一方で、日本に進出した「クリスピー・クリーム・ドーナツ」などは、こういった「日本ナイズ」ができなかったからこそ、ブームが去ったあとに衰退に見舞われたのだ。 

 

 

 近年では、アメリカでも健康志向の高まりから、世界最大手のダンキンドーナツでさえ、「甘い・大きい」ドーナツ以外のラップサンドなどを拡充、2019年に屋号から「ドーナツ」の看板を降ろしている(現在の屋号は「ダンキン」)。 

 

 さらに、日本ではダスキンの効率良い経営とクレンリネスのノウハウを導入できた。だからこそ、同時期に進出した「ダンキンドーナツ」や、「クリスピー・クリーム・ドーナツ」の拡大を許さなかったのだろう。 

 

■セブンのドーナツ相手には苦戦 ちょっとした”自滅”も?  

 

 一方でミスタードーナツは、2014年に登場した「セブンカフェドーナツ」相手には苦戦した。店舗数はセブン-イレブンのほうが圧倒的に多いうえに、安価なコーヒーとのセット買いで、ミスタードーナツに行くまでもなく顧客を満足させてしまった。 

 

 ただ、最終的には競争にならず、セブン-イレブンのドーナツは2017年に撤退。同社は2024年から、急速冷凍の生地を店内で揚げて提供するドーナツを提供している。 

 

 ドーナツとしての美味しさ・質の問題もあって定着しなかった「コンビニ・レジ横ドーナツ」だが、ミスタードーナツは対抗するように「100円セール」連発で顧客を囲い込もうとして、収益悪化で4年連続赤字に沈んだ。いわば「自滅」に見えなくもない。 

 

 その後ミスタードーナツは、「ミスドゴハン」による単価向上・ドーナツ一本足打法からの脱却で赤字体質から脱却。居心地の良さを向上させたカフェ型の店舗改装で「居心地が良い店」としてのブランド力を向上したところで、コロナ禍によるテイクアウト特需に乗って、一気に業績を回復した。 

 

 ミスタードーナツがたどった「ドーナツ戦争・生き残りへの道」は、偶然や幸運に見える。しかし実際は、適した商品を開発して、適した店を作っていただけで、結果として競争相手に勝利しているのだ。 

 

■いちど閉店も、要望で復活 ミスドと箕面の深すぎる関係 

 

 そんなミスタードーナツの「もっちゅりん」を食べるなら……筆者は、1971年4月に開業した1号店「箕面ショップ」でも食べてみることにした。 

 

 この店は、当時の「ダイエー箕面店」の一角に開業、当時は「1時間4000個」というとてつもない売れ行きを記録したという。その後、2001年の「ダイエー」閉店とともに閉鎖となったものの、地元の署名運動や嘆願書などが実を結び、跡地に建設されたビルの1階に入居するかたちで再開を果たした。 

 

 

 
 

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