( 306320 ) 2025/07/10 05:09:06 0 00 参政党の神谷宗幣代表(写真:時事/PIXTA)
世論調査で支持が急上昇した参政党。今やちょっとしたダークホースになっている。
NHK世論調査によれば、参政党の支持率は前回より+1.2ポイントの3.1%となり、野党の中で立憲民主党に次ぐ高い上昇率を示した。ちなみに、国民民主党は5.8%(+0.4)、共産党は2.9%(+1.0)、日本維新の会は2.1%(-0.4)、れいわ新選組は2.0%(+0.3)などとなっており、共産党や維新を超える支持率となっている(参議院選挙前トレンド調査、6月30日更新)。
日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査でも、立憲、国民民主は前回(12%)と変わらなかったが、参政党は7%(前回3%)と増加しており、NHKの調査と同じく維新(6%)、れいわ(5%)、共産(3%)を上回っている(日経世論調査、6月27〜29日実施)。
■「カルト」「低能」…集まる批判
しかし、その一方で、主にSNS上で参政党の政策や支持者に対して、「カルト」「低能」「知性の劣化」などといった批判が集まっている。平たく言えば、「参政党の支持者は頭が悪い」といった内容である。
要因は、国民主権や基本的人権を軽視した新憲法構想案や、根拠薄弱な情報の拡散などだろう。
例えば、新憲法構想案には、「国は、主権を有し、独立して自ら決定する」(第4条)や、「国民の要件」として「日本を大切にする心を有することを基準」(第5条)にするなどとある。
また、自民党の細野豪志衆議院議員が7月2日、X(旧Twitter)で「参政党の神谷宗弊代表の『多国籍企業がパンデミックを引き起こしたということも噂されているし、戦争を仕掛けるのも軍需産業』という日本記者クラブの党首討論会での発言は、国政政党としてはさすがに非常識。陰謀論の類だろう」とポストしたが、街頭演説などにおいても事実誤認と思われる情報を度々発信している。
■レッテル貼りで片付けるのも問題だ
だが、単なる蔑称やレッテル貼りで片付けることは大いに問題があると言わざるを得ない。この党勢拡大の背後にある真因に目を向けなければ状況を見誤るだろう。ポピュリズム政党の躍進には、必ず合理的な理由が存在する。何らかの策略に踊らされて支持や投票行動をしているわけではない可能性が高いのだ。
世界最大規模の世論調査会社イプソスのポピュリズムに関する動向調査の結果には、近年日本でポピュリズム政党が台頭している理由が明快に示されている。
それによると、「自国は衰退している」と感じている日本人は70%に達し、調査対象31カ国中で3番目に高い数値になっている(以下、“自国は衰退している”と感じる日本人9年間で約1.8倍に、イプソス「ポピュリズムレポート2025」/2025年6月18日)。
31カ国の平均である57%を大きく上回っており、調査を開始した2016年と比べて約1.8倍(30ポイント)の増加となり、「日本人の自国に対する悲観的な見方が強まっている」と指摘した。
また、「既存の政党や政治家は、私のような人間を気にかけていない」と感じている日本人の割合も68%と7割近くに上っている。2016年の39%と比べて29ポイントも増加し、9年間で約1.7倍になったという。
特に2019年から2021年にかけては48%から64%に上昇し、「コロナ禍を経て、その後、政治への期待感が回復していないことがわかる」とコメントしている。
2024年衆院選における国民民主党の大躍進が極めて象徴的であった。「手取りを増やす」をスローガンに掲げ、「103万円の壁」を178万円に引き上げることを主要政策として訴えた結果、比例代表では11ブロックすべてで議席を獲得し、獲得議席数は小選挙区(11議席)と比例代表(17議席)の合計28議席となり、公示前の4倍にまで膨れ上がった。
なぜか。それは国民民主党の玉木雄一郎代表が自著で語っているように、学生や若い会社員などからの声を直接政策に反映したからである。
「電気代を下げようと訴えたのは、学生さんの声がきっかけでした。ガソリン代についても、長崎に行った時、ガソリンスタンドの人に聞いた話から始まった政策」だとし、「普通の人たちの声が、どんなコンサルタントの意見よりも重要」と述べている(玉木雄一郎著、山田厚俊編『「手取りを増やす政治」が日本を変える 国民とともに』河出書房新社)。
これは、サイレント・マジョリティのうちの、とりわけ「忘れられた人々」をかなり意識した手法といえる。「忘れられた人々」とは、「失われた30年」とともに少しずつ不利な境遇へと追いやられていると感じている人々であり、現在の生活から転落する不安にさらされている人々までを含みながら拡大しつつある。
■「ハイブリッド型のポピュリズム」
筆者は、国民民主党の大躍進を分析した記事(玉木氏「不倫報道」も無傷? 国民民主が大躍進の訳)で、「ハイブリッド型のポピュリズム」と名付けた。人気取り型のポピュリズムと反既得権型のポピュリズムという2つを上手く組み合わせた点が絶妙だったからだ。
要するに、「103万円の壁」を事実上のシングルイシュー(単一論点)政策とすることで広く国民に訴求しながら、国民重視の裏返として(国民民主党の公約に否定的な立場を取る)メディアや政党などに対する批判を展開していくスタンスである。
筆者は、前出の調査の「自国は衰退している」「既存の政党や政治家は、私のような人間を気にかけていない」と感じる人々のうちの一定数が国民民主党を押し上げたとみている。
振り返れば、2019年参院選で台頭したれいわ新選組、NHKから国民を守る党(当時)が先駆けであった。ポピュリズム政党が国政の舞台に押し上げられるのは、このままでは自分たちが「忘れ去られてしまう」という焦燥感からである。参政党が掲げる「日本人ファースト」は、排外主義というより前出の調査における「自国は衰退している」「既存の政党や政治家は、私のような人間を気にかけていない」という感情からの反動なのだ。
その内実は「わたしたちをもっと大切にしろ」ということであり、自尊心の回復が目指されている。それがより鮮明になる限りにおいて外国人というカテゴリーが持ち出されているような印象がある。そこには、自民党がもはや保守政党の体をなしていないことや、先の見えない物価高と相次ぐ増税という経済的な被災によって、国民生活が破壊されているにもかかわらず、国民に寄り添った政策を何ら実行しないことへの強烈な不信と不満がある。
社会を「希望の分配のメカニズム」と捉えた人類学者ガッサン・ハージは、希望の不足によってあらゆるところに脅威を見出すような「防衛的な社会」が生まれると主張したが、それを「憂慮すること」「憂慮する人々」という言葉で言い表した。「操作されている」「剥奪されている」といった疑心暗鬼の高まりだ(『希望の分配メカニズム パラノイア・ナショナリズム批判』塩原良和訳、御茶の水書房)。
■参政党の政策は「憂慮する人々」へのアピール
つまり、国家や政治家は、まともに働き納税している人々に報いるどころか、さらなるリスクと負担を押し付けようと目論んでおり、将来に希望の持ちようがない。このような収奪的な構造の固定化と関係性は、国民であることがむしろネガティブな意味合いを帯びてしまう。
参政党の“3つの柱と9の政策”にある「日本人を豊かにする」「日本人を守り抜く」「日本人を育む」という表現を見ると、政策の主語にすべて「日本人」が入っているのは、まさに「憂慮する人々」へのアピールであり、ポジティブへの反転を意図している。
前出の記事で紹介した反既得権益型のポピュリズムは、エリートや既存の政党を一般の民衆と敵対させる構図を作るところに特徴があるが、参政党の場合、エリートや既存の政党の向こう側に潜むラスボスのような「外国勢力」が持ち出されることが多い(神谷代表の過去の著作では「国際金融資本」「ビッグ・ファーマ」などと名指しされている)。
「防衛的な社会」については、ハージは、「彼・彼女らは、自らと自らが属するネイションの関係が脆弱であることに由来する恐怖を、異邦人と分類されるあらゆる人々に対して投影する」と述べているが、ここには国民自体が「内なる難民」と化しつつある現状が露呈している。
と同時に、このような事態が出来したのは、やはりこの「失われた30年」を抜きに考えることはできない。
そう、ポピュリズム政党の台頭は、いわば社会の危機を告げ知らせる「炭鉱のカナリア」なのだ。それによってわたしたちはむしろ問題の本質に立ち戻らなければならない。
真鍋 厚 :評論家、著述家
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