( 306600 ) 2025/07/11 05:51:13 0 00 日本の物価上昇率“堂々上位”
今回の選挙では物価高対策が最大の争点になっている。各党も“物価を下げる”とか“賃金を上げる”を強く訴えると思いきや、公約の柱には給付や減税が並んでいる。
そもそも“物価高にしても値上がりが急すぎる”という私たちの感覚は正しいのだろうか。 国内では消費者物価指数の分析に生鮮食品を除く指数(コアと呼ばれる)が用いられるが、国際的にはすべてを含めた総合指数で比較できる。生鮮食品も含めた総合指数の方が日々の生活に近いものだろう。
ご覧のように日本はここ1年ずっと主要7か国中“Aクラス”で、去年11月から半年以上イギリスと並んでトップか2位であることがわかる。私たちが物価の値上がりペースを急だと感じるのは世界的に見ても“正しく”、当然なのだ。 さらに総合指数には、実際は財布に影響がない「持ち家の帰属家賃」(持ち家の人も家賃を払うとみなす)が入り込んでいて、これを除くと日本は最近ずっと4%以上が続いている状況なのだ。 物価上昇に賃金アップが追いつかず日本の実質賃金は今年に入ってずっとマイナスになっている。賃金アップはまだまだ足りていない。その分、生活水準が下がり続けているということだ。
“貧困”エンゲル係数高く
その中で日本のエンゲル係数が高くなっていることが注目されている。2024年は28.3%と1981年以来43年ぶりの高水準になり、年ごとの上昇傾向が続いているからだ。
エンゲル係数は家計の消費支出(生活費)に占める食費の割合のことだ。食費には日常の買い物の食品だけでなく、酒類や外食なども含まれる。この係数によるエンゲルの法則は19世紀に提唱されたもので、世帯の収入が増えるにつれて食費の割合が下がっていくことが分かっている。 リッチな家庭では高級食材を買ってもなお負担の割合が小さく、カツカツな家庭では特売品でもさらに切り詰める方向へ。肌感覚でわかりやすい。
日本は元々エンゲル係数が高め、つまりカツカツだったのに、さらに上がってきて主要先進国でトップになった。さらに順位よりも大切なのは近年の上昇の傾向だ。日本は「貧しさ」で急速に先進国トップクラスの地位を固めつつある。 よく見ると、新型コロナの影響があった2020年からの1〜2年を除くと、高齢化や世界的な食料品価格の上昇で各国とも右肩上がり気味だが、日本は2014年ごろから先行して一段高になっている。 実際のところは同じ食生活をそのまま維持できない。「レストラン外食→デリバリー・中食→自宅調理」、「牛肉→豚肉→鶏肉」、「フルーツ→止める」といった“リストラ”を余儀なくされて、このありさまだ。 “貧困化”が進んでいる現実は率直に受け入れないといけないだろう。
640円⇒780円値上げ後メニューが間に合わず…旧価格の上に貼ってしのぐ(2月、都内)
エンゲル係数が上昇した要因はさまざまな見方があるが、収入の伸び悩みで生活費全体(分母)のパイが大きくならない中、食費が急激な円安などで膨らんできたことも挙げられる。 グラフの主要国で日本は食料自給率が飛び抜けて低く(38%)、農水産物の輸入は年間11兆円を超える。そして所得が低いほど食費に占める輸入品(生鮮品、加工品、原材料など)のウエイトが高くなるのが現実だ。豚肉と言えばカナダ・メキシコ、鶏肉はブラジル、エビはインド・ベトナム…こういった国名がすぐに連想できる人も多いだろう。 輸入物価は全体で見るとエネルギー価格下落傾向を受けて落ち着いた状態にあるが、食品に限ればまだ下がったと言い切れるところまで行っていない。
さらに輸入だけでなく国内要因でも、天候不順の影響や、今回の主食・コメのような事態による急騰が起きてしまう。そのうえサービスコストの転嫁による価格上昇も目立ち始めている。エンゲル係数に含まれる外食とりわけファストフードで、円安とのダブルパンチによる値上げが相次いでいるのは痛いところだ。
この生活水準の低下さらには“貧困化”から脱するために政治は何をすべきか。参議院選挙で各党とも給付や減税といったメニューを並べてきている背景は理解できる。 しかし、給付や減税が気休めにはなっても、その直接の原因である物価高騰を補うのは難しい、つまり根本的に解決にはならないことは、みんなわかっているはずだ。
だから心の底から喜べない。さらに自分たちが払う税金を戻したり減らしたりして生活費にしても、それで日本の財政状況がどんどん悪化、特に社会保障財源が乏しくなってしまう将来への不安を忘れることはできない。 それどころか給付や減税で金(マネー)を供給してまで消費を増やそうとすると、物価を押し上げる効果が理論的にはある。部屋が蒸し暑いからと室内の畳に打ち水をしてしまうようなものだ。結局ますます蒸し暑くなる。
日本で食費を安くするには輸入食品の価格上昇を抑えることが不可欠。今やっとそれが沈静化しつつあるので再燃させないことが大事で、引き続き円安方向にしないことが必要だ。財政状態を悪化させてしまう政策はその意味でも逆効果だ。
食料品(生鮮除く)上昇率はついに8%近くに
「基調的物価上昇は」…どこまで言い続ける 植田日銀総裁の会見(2025年6月17日、日銀本店)
そのうえで国内要因による価格上昇も加わって、国民に先々の物価高騰への不安が高まってきていることをふまえると、日本銀行がインフレの進行を防ぐために利上げで対応するべき時期に来ていると考えるのが自然だ。
日銀だって食料品価格の上昇を大いに気にしている。ブレ幅が大きい生鮮食品を除く食料品価格の上昇率は今年5月に7.7%にまで達しているのに無視できないだろう。
それなのに日銀の植田総裁は「基調的物価上昇率はやや2%を下回っている」と言う。 それはそれで根拠はあるだろうが、エンゲル係数が上昇する中で身の回りの値上げがあっても、ことごとく“例外”扱いにして「基調的」と言い続けるのだろうか。実際のところはトランプ関税のハチャメチャな動きが日本に悪影響を及ぼす可能性があるので身動きが取れないのだろう。
物価対策で今、最も本質的に対応できるのは賃上げ、それも生産性向上を伴った賃上げだ。それらに向けた各党の政策の具体性を見たうえで、さらに金融政策の考え方やトランプ関税への向き合いにもよく目を通したい。 (テレビ朝日デジタル解説委員 北本則雄)
テレビ朝日
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