( 306605 ) 2025/07/11 05:58:03 0 00 大量閉店が話題となった「天下一品」。もっとも、昨今では都市型のラーメンチェーンは苦しく、郊外型のチェーンのほうが勢いがある(筆者撮影)
「天下一品」大量閉店のニュースが世間を騒がせた。
6月30日に東京を中心とするいくつかの天下一品が同時に閉店したのだ。背景には、その運営を行っていたフランチャイジーの事情があるだろうと予測されている。
しかし、そもそもの話、現在のラーメンチェーンを見ていると、都市部が苦しい。勢いのあるラーメンチェーンはどちらかといえば郊外型のラーメンチェーンなのである。
■勢いのあるラーメンチェーンは「郊外型」
今回閉店した天下一品は10店舗。東京を中心とする店舗だ。実は、昨年にも東京周辺の天下一品が大量閉店しており、2年連続で都市型の天一が減少している。
そもそも天下一品自体、どちらかといえば都心に多く立地しており、大雑把にいえば「都市型ラーメンチェーン」といえる。
一方で好調なのが「郊外型ラーメンチェーン」。日本ソフト販売株式会社が発表しているラーメンチェーンの店舗数ランキングでは、天下一品は9位。実は、昨年は8位だったのだが、この順位を抜いたのが「丸源ラーメン」だ。
都心部の人にはピンと来ないかもしれない。ロードサイドを中心に店舗を展開するラーメンチェーンで、2025年4月の段階で225店舗を擁する。運営会社である物語コーポレーションの業績も好調。2025年6月期第3四半期決算では、売上高は前年同期比で14.8%増加している。
さらに、天下一品をジリジリと追い詰めるのが「山岡家」。こちらも典型的な郊外型のラーメンチェーンで、現在189店舗。現在、天下一品が200店舗なので、あと10店舗ほどで追いつく計算だ。
運営会社の丸千代山岡家はここ5年で経常利益は約12倍、純利益に至っては約20倍である(2021年1月期と、2025年1月期を比較)。現在にしては珍しく24時間営業なのも好調の要因で、深夜に訪れると、驚くぐらいの行列ができている。丸源ラーメン以上に勢いがあると言えそうだ。
これ以外にも、ここ数年での店舗の増加率が高い店として、田所商店や町田商店などがあるが、田所商店は千葉県千葉市の花見川区、町田商店は東京都町田市と、郊外を中心として発展してきた店である。
一方で、苦しいチェーンは苦しい。「リンガーハット」は2021年7月の597店舗から2025年7月は552店舗と、じわじわと店舗数を減らしている。また、一時期業績不振が話題となった「幸楽苑」は最盛期は500店舗を超えていたものの、2025年7月は351店舗と漸減が続いている。
ともに都市部、フードコート、ロードサイドなどに出店しているが、撤退が目立つのは都市部の店舗だ。
■ラーメンチェーンを苦しめる「コスト高」
都心部が苦しいのには、家賃や人件費、さらに食材費の高騰がある。
帝国データバンクが発表している「ラーメン原価指数」によれば、2020年を100としたとき、2024年のラーメン原価は129で、5年で3割ほど上昇している。
「これまで割安だった豚肉や背脂などの具材に加え、麺や海苔、メンマなど、スープづくりから具材に至る幅広い原材料で価格が大幅に上昇した」ことがその背景にある。食材費などは都心部と郊外で変わらないが、家賃は当然都心部のほうが高くなる。それだけ、経営が厳しいわけだ。
では都心部ではラーメンの値段をあげればいいじゃないか、となる。事実、ラーメンライターの井手隊長氏が唱えた「ラーメン1000円の壁」という言葉が広く浸透し、それに背中を押される形で値上げに踏み切ることができたラーメン店も多かったはずだ。
ただし、結果として「とは言え、最近のラーメンは高すぎないか?」という感情が消費者の間に生まれるようになったのも確か。その値段はジリジリ上がってきているが、限界も近づきつつある。
そうなると、いよいよ考えるべきは原材料を含めたコストをいかに少なく抑えるのか、ということ。郊外は都心部に比べれば家賃や人件費が下がる。そうなれば、地方郊外に店が増えることは必然だといえよう。
加えて、すでに都心部では個人店を中心としてラーメン店がひしめき飽和しており、そうではない場所を求めて郊外部への出店が増えているという事情もあるだろう。
■「外食の郊外化」が進んでいる?
チェーンを中心として外食企業の動態を追っている筆者からすると、ここ数年での都心部でのランチ価格の上昇はすさまじいものがある。
一昔前(といっても数年前)は、「都内でランチだったら1000円ぐらいは見とかないとね」と言っていたのが、いつの間にか1000円は余裕で超え、1500〜2000円が普通になってきた。別にその現状に強く異を唱えるわけでもなく適応しているが、よくよく考えればその上がり方はすごいものがある。
一方、郊外に目を向けてみるとむしろ客単価が高くてもかなりの客が入り、にぎわっている店も多い。
東洋経済の記事でも書いたが、丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスが展開する「コナズ珈琲」などは平日に行っても1時間以上待つことは普通。ただ、それぞれのメニュー単価は高く、「少し高級でもゆったり過ごせる場所」としての強いニーズがある。筆者はコナズ珈琲について、女子会や休日の食事など、どちらかといえば「ハレ」の場での需要があるのではないかと感じている。
今話題にしているラーメンチェーンもそうで、日常的に簡単にラーメンを食べる、というよりも「休日や飲み会終わりに、家族や友人同士で行く」といった「ちょっと特別なとき」に使われる頻度が増えている。
■チェーン店でも、外食なら「ケ」よりも「ハレ」に?
かつて筆者が、山岡家のヘビーユーザーだったという若者に話を聞いたとき、彼らは飲み会のあとで車を走らせて山岡家に行き(もちろん運転は飲んでない人がする)、酒で空腹になった腹を満たしていたという。
特に地方や郊外だと24時間営業している店が少なく、選択肢が限られる中で山岡家が選択肢に入るらしい。これは山岡家に絞った話だが、外食をするときのモードが、「ケ」よりも「ハレ」になっている傾向がますます顕著になりつつある。
消費者の懐事情も厳しく、ある程度消費について「選別」が必要になってくれば、こうした流れは当然だ。
株式会社電通は、人間の消費行動に強く影響を及ぼす感情を分析した「11の欲望」を発表しているが、そのなかに「資本集中型消費欲望」というのがある。これは、自分が使うと決めたモノや場所、体験にお金や時間を徹底的につぎ込み、生活の中での消費に濃淡を付ける欲望のあり方だ。
これに照らし合わせれば、普段は外食を控えて消費をおさえ、休日にバッとお金を使う、というあり方は消費の一つのスタンダードになりつつある。
都心部から少し離れた郊外に人口が集中する今、休日のロードサイドで多くの人がお金を使うことにより、外食は「郊外化」する。まあ、言い過ぎかもしれないが、そんな「外食の郊外化」現象の中にラーメン店の動態もある。
■都市での外食は「選ばれし者」だけができる?
天下一品については先ほども書いた通り、フランチャイズの問題がその閉店に大きな影響を及ぼしている。ただ、なんだか全体として「都心型チェーン」はさまざまな要素から厳しくなりつつある。
都心型チェーンが生き残るすべはどこにあるのだろうか。
一つはメニューをさらに高単価にすることだ。実際、いくつかのチェーンでは「都心部価格」として地方と都心で価格差を作っているところがある。
ラーメンチェーンではないが、この点で都心部にも多く店を構えるカレーチェーン「CoCo壱番屋」がここ数年で何度も値上げをしているのは、こうした対策を行っているからにほかならない。
ただ、CoCo壱番屋は昨年8月の値上げ以降、客足が落ち続けており「値上げの臨界点」が見えてきたのではないか、とも思える。
値段を上げれば確かにコストは回収できるかもしれないが、そもそもの賃金の上昇が見込みづらい現在、値上げと消費者の体力とのせめぎ合いが臨界点にまで達しつつある。
逆に考えれば、都心部の外食店舗は、値上げをしても耐えうる人々だけが利用できるようになっていくかもしれない。「選ばれし者」だけの都市での外食である。
資本主義が進めばそのような空間が生まれるのは当然のことではあるが、なんだか物寂しい気持ちにもなってしまうのも確かである。
【もっと読む】「味が値段に見合ってない」「さすがに高い」との声もあるが…。ココイチ「驚愕の3280円カレー」が示す“残酷な現実” では、客離れが進むCoCo壱番屋の、値上げの実態について、チェーンストア研究家の谷頭和希氏が詳細に解説している。
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谷頭 和希 :都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家
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