( 306750 ) 2025/07/12 03:33:50 0 00 7月3日の参院選公示日、川崎市内で参政党の公認候補の応援演説に立つ神谷宗幣代表。(撮影/石橋学)
7月20日投開票の参院選が3日に公示された。外国人ヘイトを煽り、票に結びつけようとする政党が目立つなか、参政党・神谷宗幣代表は第一声で「日本人ファースト」を訴えた。
以下に示す二つの選挙演説を比べてほしい。
「外国人が平然と日本で生活保護を受け取る。これはよその国では絶対にあり得ないんです。ところが皆さんは外国人には優しくしなきゃいけないとこれを認めている。じゃあ日本人はどうするんですか。福岡では日本人がおにぎりを食べたいといって餓死している。日本人は生活保護を無理やり打ち切られている。こんなおかしな社会は変えていかなければいけないんです」
「貧困家庭が増え、高齢者の暮らしも貧しくなっている。さらに年金の受給を遅らせたら、本当に死んでしまう。そのくせ外国人をどんどん受け入れて、生活保護を出してるなんてむちゃくちゃだ。日本人に死ねって言ってるのかよというくらい憤りを覚える。そもそも生活保護は日本人に出すものだ。外国へ行って、お金がないからといって日本人に生活保護をくれるんですか。なんで日本だけが払わなければならないのか。喝上げされてるみたいじゃないか」
いずれも生活保護行政を批判する体を取りながら、外国人のせいで日本人が割を食っていると敵対心をあおり、排斥感情をかき立てる内容になっている。
典型的なヘイトスピーチである。
演説をしたのは、前者が2016年の東京都知事選に立候補した桜井誠。後者は、24年10月、衆院選で公認候補を応援するため神奈川県へやって来た参政党の代表、神谷宗幣だ。
桜井は言わずと知れた極悪レイシスト。ヘイト団体「在日特権を許さない市民の会(在特会)」を率い、「朝鮮人を皆殺しにしろ」とジェノサイドの実行を呼びかける差別デモを繰り返し、ヘイトスピーチ解消法の立法事実にもなった人物だ。つまり札付きの差別主義者と全く同じヘイトスピーチを、国政政党の代表がしていたことになる。
しかもすべてがデマなのだ。この国においてさまざまに権利が制限されている外国人が、日本人より優遇されているなどということはない。欧米先進国では経済的に困窮した定住外国人への扶助制度が定められているし、国際人権条約のひとつである社会権規約を批准する日本には社会保障において内外人を平等に扱う義務もある。
国会議員が知らないはずがなく、神谷は意図的にうそをつき、レイシズムを煽っているということになる。それも、最後の命綱である生活保護を外国人に支給してはならない、つまり日本人でなければ死んでも構わないと言っている。何というおぞましさだろうか。
この衆院選で参政党が掲げたスローガンは「日本をなめるな」だった。自分たちがうまくいっていないのは日本で甘い汁を吸っている外国人のせいで、みんなで一致団結してやり返そうというわけだ。政治の失敗を棚上げにして人々の不満や喪失感につけ込む魂胆が丸見えだった。
私は「神奈川県民をなめるな」という記事を書き、ヘイトデマにだまされてはいけないと有権者に呼びかけた。だが、参政党は比例の南関東ブロックと近畿ブロック、九州ブロックで1議席ずつを得た。レイシストの名札をぶらさげたキワモノとは異なり、スーツの襟元に議員バッジを光らせ「もっともらしく聞こえる」現役政治家の煽動力を思い知った。
そして今回の参院選で掲げているのが「日本人ファースト」である。
【反省なき戦後の果てに】
外国人を「セカンド」という劣位に置き、命に序列を作る差別・排外主義を隠すことなく、むしろ前面に押しだすおぞましさ。そこにはやはり「外国人への優遇を是正する」というデマが埋め込まれてもいる。
参政党のあからさまな極右ぶりはしかし、眉をひそめられるどころか、前哨戦となった東京都議選で初挑戦ながら3人が当選し、勢いづく。
参院選に向け、自民党は極右票をつなぎとめようと「違法外国人ゼロ」を掲げる。国民の安心と安全のための外国人政策といい、外国人を「違法」という言葉でくくり、「国民の安心と安全」を脅かす存在に仕立てあげている。入管庁が打ち出す「不法滞在者ゼロ」も同様の醜悪さだ。
直前の国会では、高額療養費制度を外国人が悪用しているかのように国民民主党代表の玉木雄一郎がデマを流し、日本維新の会は外国人生活保護の見直しを求めた。
かくも政治や公的機関が先頭に立って差別にいそしむ惨状に浮き彫りになるのが、この国の歯止めのなさだ。日本は人種差別を禁止する法律をつくろうとしない、世界でもまれな国だ。
二つの大戦の反省から国際社会は侵略と植民地支配を支えた差別の根絶を誓い、人種差別撤廃条約を締結した。締約国の日本は差別を禁止し、根絶させる義務があるが、「法律が必要なほどの差別はない」という屁理屈をこねて法整備を怠り続ける。
日本の法制史上初の反人種差別法に位置づけられるヘイトスピーチ解消法が2016年に制定されたが、禁止規定も罰則もない理念法であるため実効性がない。
この国のレイシズムは朝鮮半島を植民地支配してアジアを侵略した戦前から引き続くもので、外国人を、治安を脅かす「不逞の輩」とみなして監視、管理し排除する入管行政を戦後も推し進めてきた。そもそも同じ人権を保障する対象ではない「二級市民」として扱ってきたのだ。
戦後80年を迎える夏、各党が競い合うようにさらなる差別政策を打ち出すさまは、植民地主義と侵略戦争への反省なき国家の歩みの先にある必然でもあった。
【差別に歯止めをかける】
NHKなどが6月に行なった調査では「日本社会では外国人が必要以上に優遇されている」という問いに「強くそう思う」「どちらかといえばそう思う」が64・0%に達した。
ヘイトスピーチの問題に詳しい師岡康子弁護士はこの数字に「衝撃を受けた」と言い、続ける。「インターネットを中心にヘイトスピーチが広がってきたことが影響している。条約に基づき差別をなくさなければいけない政党や政治家、公的機関がその義務を果たさないばかりか、票ほしさに選挙でさらに差別を蔓延させている。非常に危険だ」
選挙ヘイトは何をもたらすのか。マイノリティの悲痛な叫びに耳を傾けてほしい。
「ヘイトをしない候補者を応援しようにもマイノリティには参政権がありません。自らを守るすべがなく、差別する人の言いたい放題のまま、選挙期間中、恐怖を感じながら過ごすしかありません」「差別が選挙の場で語られることで社会に容認されるのが怖いです。人の命を危険にさらすような選挙が民主主義をつくりだすはずがありません」
言論の自由がとりわけ保障される選挙だからといってヘイトスピーチが許されるわけではない。選挙だからこそなおさら許されないのだ。
デマとヘイトで票を得ようというよこしまな政党が跋扈する不公正をただし、公正な社会をつくる。それはマジョリティの責任だ。
それには選挙へ行き、マイノリティの人権を守るヘイトスピーチ規制を含む差別禁止法をつくる候補者や政党を選ぶことだ。差別によって人を人とも思わず侵略と殺戮に走った惨禍を繰り返すのか、その岐路に私たちは立っている。(敬称略)
石橋 学・『神奈川新聞』記者
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