( 306795 )  2025/07/12 04:27:43  
00

夏の参院選公約を発表する参政党の神谷宗幣代表(左)=2025年6月6日、国会内 - 写真=時事通信フォト 

 

参政党が全国各地で議席を増やしている。元外交官で作家の佐藤優さんは「所属議員は都道府県・市区町村議会に150人近くおり、同じく右寄りの日本保守党に比べて、しぶとい生命力を感じる」という。元東京都知事の舛添要一さんとの共著『21世紀の独裁』(祥伝社新書)より、一部を紹介する――。 

 

■右寄りの思想で、ネット保守層が支持 

 

 【舛添要一】まず、参政党について述べさせてください。同党は神谷宗幣さんたちが2020年4月に結党し、衆議院で3、参議院で1議席を有しています(2025年5月現在)。 

 

 ※編集部註:2025年6月、所属国会議員が5人となり、公職選挙法上の政党要件を満たした。 

 

 掲げる綱領は以下の三項です。 

 

---------- 

一、先人の叡智を活かし、天皇を中心に一つにまとまる平和な国をつくる。 

一、日本国の自立と繁栄を追求し、人類の発展に寄与する。 

一、日本の精神と伝統を活かし、調和社会のモデルをつくる。 

(参政党公式サイト) 

---------- 

 

 かなり右寄りであることがわかります。これを、200万〜300万人いると言われるネットの保守層、いわゆる“ネトウヨ”が支えました。その結果、同党は先の衆院選(比例代表)で187万347票を獲得し、3議席を得たわけです。 

 

■政策の根幹は「外来のものは拒否する」 

 

 参政党は「三つの重点政策」として、「教育・人づくり」「食と健康・環境保全」「国のまもり」を謳っていますが、個別の具体的政策では反LGBT、反ワクチン、反移民などが異彩を放ち、同じ保守政党との違いが際立つように思います。 

 

 たとえば2023年6月に成立したLGBT法(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)には国会で反対し、同法施行後も「(LGBT法の)急進的な推進で社会的影響への懸念がある」と、政府に質問主意書を提出しました(2025年1月24日)。 

 

 また、新型コロナウイルスのmRNAワクチンやレプリコンワクチンの接種に反対を唱えていますが、私はここに排外主義的な保守の要素を見出します。約(つづ)めて言うと、外来のものは拒否するということです。 

 

 

■日本保守党と似ているようで、違う 

 

 こうした反ワクチンの基盤にあるのは、強烈なオーガニック信仰でしょう。参政党は「無農薬の有機農法を推進しよう」「パンは体に良くないから米食に変えよう」「加工食品や食品添加物も危険だから拒否しよう」などと主張しています。 

 

 いずれにせよ、個性的で特色のある参政党に呼応する有権者がいて、同党は衆参両院で議席を得たのです。キャッチ・オール・パーティではなく、限定的ではあるけれども、SNSで「ワクチン、NO!」と言うだけで集まる人たちがいる。これはネット社会における現象であり、日本の政治では新しい要素だと思います。そして小党分立の胎動を感じます。 

 

 いっぽう、同じ衆院選で参政党と同じく3議席を獲得したのが、日本保守党です。作家の百田尚樹さんが2023年9月に創設し、前・名古屋市長の河村たかしさんが共同代表(地域政党「減税日本」の代表でもある)、ジャーナリスト出身の有本香さんが事務総長を務めています。 

 

 反LGBTや反移民という保守的な主張の点で、よく参政党との類似性・共通性が指摘されますが、私の見方はやや異なります。 

 

 百田さんも有本さんも、もともと活字メディアの世界で長く保守的な言説を発していました。その二人が中心となって同党を結党したのですから、政党の出自および設立経緯としては、ある意味でわかりやすい。古典的とまでは申しませんが、ネトウヨたちが後押しした形となった参政党の新しさとは差別化されてしかるべきだと思います。 

 

■右翼を自負せず、「普通の日本人だ」 

 

 【佐藤優】よくわかります。参政党と日本保守党に通じるのは、排外主義的なナショナリズムです。 

 

 世俗化された現代社会では、ナショナリズムは非常に強い宗教性を帯びます。たとえば「俺は愛国者だ。国家のために命を捧げる」という気構えができると、人の命でも平気で奪える。そんな信念体系の操作において、宗教に近い要素があります。 

 

 また、そうした人たちの表象では、右翼を自負することなく、「自分はちょっと右寄りかもしれないけれど、普通の日本人だ」ということになる。これはどこの国にも共通するナショナリズムの特徴です。 

 

 

■外来の食材を一切使わない飲食店 

 

 舛添さんが言われた「オーガニック信仰」ですが、私は以前に訪れた居酒屋を思い出しました。東京・神田で安倍昭恵さん(故・安倍晋三元首相夫人)が経営する「UZU」というお店です(2022年10月閉店)。 

 

 ここの特徴は、無添加・無農薬・純国産。つまり外来の食材をいっさい使っていません。そう、お店の女性が胸を張るように説明してくれました。500円の白いご飯は「昭恵米」と名づけられたブランドで、昭恵さんが山口県下関市で育てていた無農薬です。コースメニューの最初に出てくるチーズ竹輪は無添加のため、あまり味がしませんでした。 

 

 また、「外来の原子力発電を日本に持ってきてはいけない」と反原発を声高に唱え、しめくくりには「外来のものを食べるから日本人の思想がおかしくなるのです」と言われました。私はオーガニック信仰に投影されたナショナリズムを感じました。 

 

 ちなみに、私を「UZU」にお連れくださったのは、著名な右翼の方です。 

 

■草の根から生まれた「忠実な信者」 

 

 外来排除とオーガニックを力説する女性がもう一人います。医療関係者なのですが、「UZU」を紹介してくれた右翼の人のネットワークです。彼女の持論は、今の日本の家庭で起きている問題の原因は食品添加物だとするものです。家庭内暴力、子どものアトピー、不登校、すべて外来の食品添加物が原因であると言っていました。 

 

 「外来のものを食べると思想がおかしくなる」は、カール・ポパー(イギリスの哲学者。1902〜1994年)の言う「反証可能性」における反証不能命題、すなわち実証ができません。しかし議論の場では、反証不能命題が明らかに強い。なぜなら「私の言うことが信じられないのか」となってしまうからです。 

 

 まさしく舛添さんが本書第1章で言われたトゥルー・ビリーバー(※)の世界です。実証できないあることを、あるグループが信じている。それを外部から禁止することはできません。 

 

 ※科学的・客観的根拠のないことでも、それを真実だと思い込む人たちのこと 

 

 百田さんの日本保守党は、ナショナリズムの観点から見ると、オーソドックスな手法で誕生した政党だと思います。百田さんも有本さんも広義におけるメディアの世界の人であり、そのなかでひとつの言説・表象を出して、イマジンド・ポリティカル・コミュニティ(想像上の政治共同体)を作っていきました。 

 

 対して、参政党は草の根から生まれ、自身も変容しながら、人間たちの無意識の領域を支配するようになりました。だから、特定の参政党の人間を除去しても、党自体がなくなることはないでしょう。何か不気味な感じがします。 

 

 

■スポンサーは中小企業の経営者や開業医 

 

 日本保守党では、2024年4月の衆院東京15区補選に同党から立候補して落選した飯山陽さん(イスラム思想研究者)と百田さんとの間で、内紛が勃発。たがいにユーチューブやXなどで非難合戦が続いています。 

 

 同党は、代表の百田さんの人気に依存している部分もあるので、もし百田さんがいなくなったら、はたして保つのか。代表と候補者が喧嘩をSNS上にさらけ出すような党内の状態を見ると、その存続に不安感を覚えます。 

 

 いっぽう、参政党にはしぶとい生命力を感じます。切っても切っても、また生えてくるという印象で、まるでアメーバです。 

 

 参政党は先の衆院選では94人もの候補者を擁立しましたが、活動資金は巨大なスポンサーがいるわけではなく、たとえば中小企業経営者や開業医といった草の根から集まっている。 

 

 古谷経衡さん(作家・評論家)に聞くと、やはり医師が多いということでした。彼は足を使って実証的に参政党を研究しており、「参政党とは何か?『オーガニック信仰』が生んだ異形の右派政党」という論考(「ヤフーニュース」2022年7月11日)を発表しています。 

 

■地方議会に張った根が下支えしている 

 

 しかも、参政党は地方議会での裾野があります。都道府県・市区町村の合計で144人の地方議会議員が参政党所属なのです。地方に根っこがあることも、その生命力を下支えしているのではないでしょうか。 

 

 ※編集部註:参政党公式サイトによると、2025年7月時点で150人 

 

 いずれにせよ、今後はこうした小党の動向に注目していくべきです。先に舛添さんが指摘された小党分立・多党化は重要な論点です。戦後政治のアナロジーで述べるなら、東西冷戦対立の時代には自主憲法制定を党是とする自民党に対し、改憲阻止の社会党が議席数の三分の一を確保――すなわち「三分の一政党」として日本に二大政党を出現させました。 

 

 これが、東西冷戦が終わり、1990年代にアメリカによる世界一極支配体制になると、自民党が圧倒的に強くなりました。そして現在、世界が多極化しています。日本における小党分立は、この多極化と写像的な関係にあるのかもしれません。 

 

 

 

---------- 

佐藤 優(さとう・まさる) 

作家・元外務省主任分析官 

1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で国策捜査の裏側を綴り、第59回毎日出版文化賞特別賞を受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。 

---------- 

---------- 

舛添 要一(ますぞえ・よういち) 

国際政治学者、前東京都知事 

1948年、福岡県生まれ。71年、東京大学法学部政治学科卒業。パリ、ジュネーブ、ミュンヘンでヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授を経て政界へ。2001年参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、都知事を歴任。『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』(すべて小学館新書)、『都知事失格』(小学館)など著書多数。 

---------- 

 

作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、国際政治学者、前東京都知事 舛添 要一 

 

 

 
 

IMAGE