( 306800 )  2025/07/12 04:34:41  
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二階伸康候補とパンダ 

 

 7月20日の投開票に向け、参院選が激しさを増している。選挙の最大の焦点は自公が参院で過半数を維持できるか否かであるが、全国で自民党候補の苦戦が報じられているのは周知の通り。そして、二階VS世耕の「紀州戦争」第二幕となった注目選挙区のひとつ、和歌山選挙区でもその傾向は同じだ。自民党公認にして、二階俊博・元幹事長の三男、伸康候補(47)も大接戦の渦中にあるが、そんなジュニアの主要政策のひとつは、何と「再び和歌山にパンダを!」だという。 

 

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 和歌山選挙区は、定数1。そこに7名が名乗りを上げている。和歌山県は保守王国として知られ、参議院では、一期6年を除き、自民党が議席を獲得し続けている。俊博氏は衆議院で連続当選すること13回。幹事長を歴代最長の5年2カ月に亘って務めた党の超大物である。その後継者として立候補する伸康氏が有利と見られるのが当然だ。 

 

 ところが、選挙序盤、各紙が報じた情勢を見ると、 

 

 読売=望月、二階が接戦  

 朝日=望月、二階が激戦  

 毎日=望月を二階が猛追  

 産経=参政党候補、望月、二階が三つどもえ 

 日経=二階、望月をややリード 

 

 総じて、無所属の望月良男候補とがっぷり四つの接戦を演じているという分析なのである。 

 

 なぜか。 

 

 ひとつは、対抗馬・望月氏のバックにいるのが、強敵、世耕弘成・元経済産業大臣だからである。 

 

 弘成氏の祖父の代から和歌山で当選を重ねてきた世耕家。弘成氏も参院で当選5回を数え、参院幹事長の要職を担っていた。しかし、一昨年、自民党の裏金問題が発覚。とりわけ安倍派での大規模な裏金作りが批判の的になり、派の幹部だった世耕氏には離党勧告が出され、昨年、党を離れた。 

 

「しかし彼はこれを逆手に取った。昨年の衆院選で、やはり裏金問題に関わった二階元幹事長が引退し、和歌山二区を伸康さんに譲りました。もともと首相を目指し、衆院に転出を狙っていた世耕さんはこの機会を逃すことなく、参院議員を辞職し、無所属で二区から出馬。背水の陣を敷き、下馬評をものともせずに当選。伸康さんに3万票の差をつけるなど、比例復活も許すことなく『紀州戦争』に圧勝したのです」(地元記者) 

 

 その後、今年2月に自民党和歌山県連は伸康氏の参院選公認を発表。 

 

「すると、世耕さんと近い前有田市長の望月氏が無所属での出馬を表明したのです。裏に世耕さんの意向もあったのは間違いないでしょう。参院選でも伸康さんを落選に追い込み、『二階家』の息の根を止めようという腹なのでしょうか。望月陣営を全面的に支援し、世耕氏自身も応援演説に出ています」(同) 

 

 確かに和歌山で「二階」の名は絶大だが、それは主に俊博氏が当選を重ねてきた衆院旧三区(御坊市、田辺市、新宮市など)でのことである。参議院は全県がひとつの選挙区だ。大票田である県都・和歌山市での得票が重要だが、ここでは二階家の地盤はさほど強くない。一方で、 

 

「世耕さんは盤石。全県の選挙区をこれまで5回も戦っているわけですからね。それが全面支援するのだから、望月さんも強力なのです」(同) 

 

 

 また、伸康氏の資質や陣営の体制について、不安の声も上がっている。 

 

「伸康さんは全日空に13年間務め、その後はお父さんの秘書をやっていました。ただ、父に比べて線が細く、胆力にかける。秘書をやっていただけですから実績もない。要は、『父が二階俊博』ということ以外、取り立てた強みも、特徴もないんです。その父も裏金問題で傷が付いたまま引退し、既に86歳と高齢。世襲批判もあって、選挙戦で全面的に表に出るわけにもいかないんです」(同) 

 

 父が築いた強固な後援組織があるはずだが、 

 

「こちらもまとまりに欠けている。後援会は同じくお父さんの地元秘書を長らく務めてきた長兄の俊樹氏が率いています。一方で、伸康さんは自分の人脈で新しい選挙をやりたがっていた。そこに溝があり、衆院選では陣営がうまく機能しなかった。ここがきちんとしていれば、比例復活も出来ないほどの惨敗はありえませんでした」(同) 

 

 何より、伸康候補の信用を大きく下落させたのは「不倫騒動」である。伸康氏には妻と幼い子どもが1人いるが、 

 

「昨年末、『週刊ポスト』が銀座のバーのママとの不倫旅行を報じたんです。中でも地元後援者を怒らせたのが、伸康さんが衆院選の期間中、石破総理が和歌山に応援に訪れた演説会の場に、その不倫相手を密かに呼んでいたこと。伸康さんのために汗水流して選挙活動をしていた後援者にすれば、裏切られたという思いが湧くのは当然です。報道後、伸康さんは“妻とは別居していて、離婚が前提だった”と弁明していましたが、彼の評判はさらに落ちました」(同) 

 

 こうした事情で、今参院選でも苦境に立つ伸康候補。その彼が選挙戦でアピールしているのが「パンダ」である。 

 

「公示に先立つ6月30日、和歌山で候補者が集まり、公開討論会が開かれました」(同) 

 

 と言うのは、さる和歌山県政の関係者。 

 

「会の最後で、候補者が最も主張したい政策を述べる場面があった。その際、伸康さんは“パンダについてです”と切り出し、与えられた2分間を丸々使って、“パンダがいなくなって不安を感じている県民もいる。その声に寄り添っていきたい”と熱弁。農業の振興や地域振興について述べていた候補者が多かっただけにビックリしました」(同) 

 

 和歌山県白浜町にあるレジャー施設「アドベンチャーワールド」で飼育されていた4頭のパンダがこの6月、中国に返還されたのは周知の通り。予め定められた貸与期間が切れたためだが、急な決定であり、しかもパンダは同施設の目玉で、日本一の飼育数を誇っていただけに、大きな衝撃を与えた。 

 

「二階さんはこれを呼び戻す、と。“パンダの経済効果は30年間で1300億円以上もあった。パンダによって地域経済を活性化させたい”と主張していました」(同) 

 

 実際、二階氏のHPを見ると、政策の欄には、「パンダを再び和歌山に!」とあり、「パンダ返還に伴い、経済損失をはじめ地域に大きな不安が生じています。新たな観光資源を磨きつつ、パンダの繁殖研究が白浜で再開出来るよう、全力で取り組むことを誓います」と記している。 

 

 さらには、公示当日、JR和歌山駅前で行われた出陣式に続く第一声の際も、伸康候補はやはり「(パンダがいなくなったことの)不安、心配を受け止め、即座に動きたい」と叫んでいる。 

 

 もはや主要公約のひとつと言って良い“重要視”ぶりだ。 

 

 

 伸康氏の父、二階俊博・元幹事長が政界きっての「親中派」だったことは知られている。大訪問団を率いて訪中し、江沢民、胡錦涛、習近平ら歴代の最高指導者と面会。地元に江沢民の記念碑を建てようと計画したり、年金施設の跡地を、懇意にしている中国企業に有利な条件で売却するべく尽力したりしたこともある。 

 

 パンダに関しても、地元のアドベンチャーワールドへの誘致に尽力したと言われている。そのパイプを生かして、ということだろうか。 

 

 が、当の二階陣営からは疑問の声も上がっているという。 

 

「パンダの貸与の可否というのは、国と国との外交の問題で、国際政治上の力学も影響してくる。伸康さんが仮に当選したところで、いくら父が親中派の大物だからと言って、1年生議員にどうこう出来るテーマではありません。パンダの貸与を政治の材料に使う中国への反発も、とりわけ自民党が基盤とする保守層には一定数あります。そうした事情もあり、陣営の中にはパンダのことは軽々しく口にすべきではない、得票にも結びつかず、逆にマイナスになりかねないと思っている幹部もいる。しかし、伸康さんはこれまで堂々と訴えています。彼のこうした “政治センス”に不安を感じている後援者もいます」(同) 

 

 伸康氏にとって、この選挙は背水の陣だ。 

 

「これでまたもや敗れれば、国会議員への道はますます険しくなる。3年後の参院選では同じ自民党の鶴保庸介・元沖北担当相が出馬予定ですし、次の衆院選に出たとしても、また現職で強敵の世耕氏とぶつかる。その時、世耕氏が仮に復党でもしていたら、公認がもらえるかどうかも怪しくなる。その意味で、この選挙は、伸康さんにとってのラストチャンスとなる可能性も。負けが許されない戦いなのです」(同) 

 

 その戦の目玉が果たして「パンダ」で良いのかどうかはともかく、要注目の選挙区であることだけは間違いない。 

 

 関連記事【「実は中国との友好都市提携を断わったばかりで……」 和歌山「パンダ4頭返還」 地元・白浜町長が語る“一斉帰国”の深層】では、アドベンチャーワールドから中国にパンダが返還された背景事情について考察している。 

 

デイリー新潮編集部 

 

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