( 307131 ) 2025/07/13 05:49:46 0 00 九州に住むようになって筆者が感じたことは
「自分が生まれ育った場所から、生活拠点を動かしたくない」という人もいるだろう。では、その“範囲”はどれぐらいのものだろうか。日本には、北海道・東北・関東・中部・近畿・中国・四国・九州という地方区分があるが、「『○○地方から出たくない』という人は意外に多い」と指摘するのは、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏だ。中川氏自身は、2020年に東京から佐賀県に移住しているが、そんな中川氏が肌身で感じた「自分の住む地方から出たくない」と考える人たちの気持ちを分析・考察する。
* * * 外務省の発表によると、2024年末時点での日本人のパスポート保有率は17.5%。韓国の40%、アメリカの50%、台湾の60%と比べると圧倒的に低い水準です。「日本が快適だから外国に行く必要がない」という考えは理解できます。治安・物価高・清潔さなどの面で「なんでわざわざ海外に行くの?」という人もいるでしょう。ただ、ここで取り上げたいのは、国外どころか「自分の住む地域から出たくない」という地方の人たちの気持ちです。
もちろん、東京や京都、札幌など、他の地域へ遊びや出張で行くことはあるでしょう。しかし、地方に暮らす人たちのなかには、生活拠点を移すことへの抵抗感を持つ人が案外多いことを、この約5年間の佐賀生活で感じました。
佐賀は福岡の隣県で、通勤・通学で大都会・福岡に通うことは可能です。東京に対する神奈川・埼玉・千葉のような感覚でしょうか。ただ、福岡から案外遠い宮崎や熊本の人と会っても「子供には県内にいてほしい。地元から出るとしても、せめて(九州のなかで最も都会である)福岡にしてほしい」という声を複数聞きました。
同時に、若者も「福岡より遠いところには行きたくない」と言うのです。理由を聞くと「実家・お爺ちゃんお婆ちゃんに何かがあった時、福岡だったらすぐに戻ってこられる」と言う。あとは「九州から出たことがないので、九州の外で過ごすのは怖い」と、知らない土地への漠然とした抵抗感を抱く人もかなりいました。似たような話を、東北地方や関西地方の人からも聞いたことがあります。
私が佐賀で会った若者たちは、国立大学に行くなら「九州大学がいちばん評価される」と口を揃えて言いました。そのうち、九州大学に縁がなく、広島大学に進学した人もいました。どうせ親元を離れるなら、他にも大学はたくさんあるのではとも思うのですが、やはり地元との近さから広島大学にしたとのこと。
このように、地元から出たくないという人は一定割合いる。知り合いの東北地方出身者も、転職の話になった時、「地元では仕事がないから仙台へ行く」と言いました。
仕事を得るなら東京の方がいいのでは? 求人の量がケタ違いですし、機会もたくさんあるのでは? と提案するも、「私にとっての大都会は仙台なので、そこより遠いところには行きたくありません」との返答。
雑多な人がひしめき合う東京よりも、地元に近い都会のほうが安心する気持ちはなんとなく理解できますが、正直、日本国内で仕事の多様性を求めるなら「東京一択」だと思うんですよね。私自身「ネットニュース編集者」を名乗っていますが、もしこれまでのキャリアを札幌・仙台・名古屋・京都・大阪・広島・福岡などで過ごしていたら、今の「佐賀県で悠々自適な人生を送れる」状況は作れなかったと思います。
東京にいたからこそメディア関連の仕事を多数いただくことができ、47歳にして東京を離れて生きていける土台を作れたのは間違いない。そう考えると、「生まれ育った地方から出たくない」と考えるのは、自分のキャリアの選択肢を狭めることになるのではないでしょうか。
九州の人は福岡以外の都会には行きたくない、と考えがちであることは述べました。もう少し冒険心のある方は「広島・大阪ならばいい」と言います。しかし、そこまで出るのであれば、もう「東京」でいいのでは……。
家族で何かあった時に早く地元に戻れる、といった考えは分かりますが、正直飛行機に乗れば東京からだってすぐに九州には帰れます。私自身、佐賀県に移住して地方都市の良さは十分理解していますが、その一方で「○○地方」という日本の区分が、人々の移動の自由と人生の可能性を奪っているのではないか、とも感じます。
あわせて、私は日本人のパスポート所有率の低さも憂いています。せっかく異なる文化を知る機会なのですから、積極的に海外に目を向けてほしいと思うのです。
【プロフィール】 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。
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