( 307571 )  2025/07/15 04:22:43  
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街頭に立つ参政党のさや氏(撮影/上田耕司) 

 

 参議院議員選挙(7月20日投開票)の選挙戦で、女性候補者を中心に、車で追尾されたり、殺害予告を受けたりと悪質な攻撃にさらされている。自民党の杉田水脈氏(58)、国民民主党の牛田茉友氏(40)、参政党のさや氏(43)、無所属の山尾志桜里氏(50)などが被害を公表しているが、加害者の狙いは何なのか。候補者は妨害行為にどう立ち向かうべきなのか。 

 

*  *  * 

 

 殺害予告を受けたのは、東京選挙区に立候補している参政党のさや氏だ。一部報道によると、6日夕方、さや氏の事務局宛てに「参政党候補者さやを誘拐して包丁で刺し殺す」などと脅迫するメールが届いたという。 

 

 さや氏は8日、この報道記事をXで紹介し、「一番辛いのは演説に来てくれた人と握手しにくくなってしまうこと。スタッフさんの苦労が増えること。悔しい」と心境をつづった。だが翌日からも毎朝遊説スケジュールを公開し、選挙活動を続けている。 

 

 同党代表の神谷宗幣氏も8日、さや氏の殺害予告を報じる記事をXで引用し、「同じ殺害予告メール、私にも何回も来ています。付き纏い、妨害行為、自宅への突撃、盗聴、その他嫌がらせ、いろいろやられています」と被害を明かした。 

 

 7日に選挙対策本部として文書を発表したのは、東京選挙区に出馬の国民民主党・牛田氏の陣営だ。牛田氏は6日の街頭演説後に送迎車に乗っていたところ、長時間にわたり何者かに車で追尾されたという。それ以前も牛田氏が身の危険を感じる事案が相次いでいたことから、演説日程の事前公表を取りやめるとした。 

 

■山尾氏は「牛田さんを全力で守ってほしい」 

 

 この件に反応したのが、国民民主党から公認を取り消され、無所属で、同じ東京選挙区に立候補している山尾氏だ。山尾氏は8日、Xで「女性候補者への卑劣な脅しは許せない。国民民主は牛田さんを全力で守ってほしい」と投稿。一方、山尾氏自身も殺害予告を受けていることに触れ、「最後は候補者の決断ですし、正解はありません」「私は日程公表を続けます」と宣言した。 

 

 なお牛田氏は11日、YouTubeの生配信で本件について言及。既に警察でも陣営でも警備体制を強化しているとして、13日からは演説日程の事前公表を再開する方針を示した。 

 

 選挙妨害に断固とした対応を取っているのが、比例代表に自民党から立候補している杉田氏だ。杉田氏は9日、Xに【被害届を提出しました】と題する投稿をした。添えられた動画には、杉田氏の街頭演説を聞きに来た中年男性が「叩いてないっす」「俺何もやってねーよ」などと言いながらこぶしを振り上げ、警察官に取り押さえられる様子が映っていた。 

 

 さらに翌10日には、【こちらも被害届を提出しました】と投稿し、ネット掲示板の書き込みのスクリーンショット画像を公開。画像には「杉田水脈は殺せば当選できない」などと書かれており、杉田氏は「警察に相談したところ、脅迫に当たるということで、本日、山口警察署に被害届を提出しました。このような卑劣な脅迫に屈することなく、最後まで戦い続けます!」とコメント。現在も遊説スケジュールを告知しながら、全国津々浦々をめぐっている。 

 

 

■女性の目玉候補は「都合のいいターゲット」 

 

 なぜ、女性候補への危険な妨害行為が相次いでいるのか。テロ対策や危機管理に詳しい公共政策調査会研究センター長の板橋功氏は、狙われやすい候補者の特徴として「話題性」を挙げる。 

 

「多くの加害者は、自分の行為が世間に注目されることを望んでいます。特に殺害予告は、本気で相手を傷つける気はない愉快犯がとる典型的な手口です。選挙戦の目玉候補でかつ女性が攻撃されたとなれば、マスコミで報道され、SNSでも拡散されるため、都合のいいターゲットとなっているのでしょう」 

 

 だが、加害者すべてが愉快犯とは限らない。3年前の参院選では、演説中の安倍晋三元首相が銃撃されて命を落とした。その翌年には、岸田文雄元首相の応援演説中に爆発物が投げ込まれた。事件を起こしたのは、いずれも単独でテロ行為をする「ローンオフェンダー(LO)」だった。警察庁は今回の参院選期間中、「LO脅威情報統合センター」を設置し、SNSのサイバーパトロールなどを実施。候補者に危害が及ぶような兆候がないか、目を光らせている。 

 

 実際に脅迫などの被害に遭った場合は、牛田氏のように遊説日程の公表を中止したり、警察に相談して警護体制を敷いてもらったりという対応は有効だろう。だが板橋氏は、特に警察を頼ることについて「選挙活動上の問題が大きい」とみる。 

 

「演説会場に警察官が何人もいることで聴衆が寄り付かなくなったり、遊説場所が制限されたりと、自由な選挙が阻害されかねない。そもそも民主主義の根幹である選挙に、警察という権力機関が介入することは健全ではない。選挙事務所や政党が民間警備員を雇うなど“自主警備”を原則とするべきではないか」 

 

 安全第一の選挙戦を展開するのか、一票でも多く獲得するためにリスクを負うのか。候補者たちは難しい判断を迫られている。 

 

(AERA編集部・大谷百合絵) 

 

大谷百合絵 

 

 

 
 

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