( 307651 ) 2025/07/15 05:59:03 0 00 新型日産リーフの実力とは(出典:日産自動車プレスリリース)
日産自動車(以下、日産)が電気自動車(EV)「リーフ」の新型を発表した。2010年の初代発売から15年を経た同車種はどんな進化を遂げたのか。そして、未曽有の経営危機に直面している日産の「再建への切り札」となり得るのか。新型リーフの詳細を、モータージャーナリストの御堀直嗣氏が解説する。
日産自動車のEV「リーフ」がこの秋に新型となる。まず北米市場で秋に発売され、日本では年内に発売予定だ。
リーフは、2010年に初代モデルが発売された。その前年に、三菱自動車工業からi-MiEVが発売され、世界初のEVという言い方は三菱自動車に譲るが、登録車(軽自動車ではない)では世界初と言える量産市販EVである。
リーフは2017年に2代目へモデルチェンジし、今回の3代目に至る。日産によれば、EVで3世代目を迎えるのは世界で初めてとのことだ。EV先駆者の1台として、歴史の長さを物語っている。
では、新型リーフはどのような魅力を携えて登場したのか。
現在、発表されている内容は、基本的に北米仕様を基にしている。その上で、一部については日本仕様としての数値も公開されている。
新型リーフの特徴は、次の3点だ。
・1)内外装の変更
2)一充電走行距離の延長
3)先進技術の搭載
内外装の刷新に合わせ、新型リーフは、クロスオーバー車の位置付けになった。
初代から2代目は、小型車で実用的とされる2ボックスのハッチバック車の形態だった。3代目となる新型では、リアウィンドウへ至る屋根が大きく傾斜し、クーペのような姿になった。より個性的でスペシャリティカーの趣になっている(ただし、実車がまだ公開されておらず写真からの印象だが)。それでも、後席後ろの荷室容量はそれほど減っていないようだ。そうした実用性は堅持している。
車体寸法は全長が現行の2代目よりやや短く、一方で車幅は若干広くなって1.8mになる。全高はほぼ同じだ。
室内は、ダッシュボードの上に設置された横に長い画面がまず目に付く。これは、12.3インチまたは14.3インチの横長画面を2枚つなぎ合わせており、ハンドルの奥に見えるのがメーターの役を果たし、中央はナビゲーションなどで使われる。
ダッシュボードは平らな造形で横に長く、視覚的に広さを実感させる効果を持つ。詳細な造形は異なるものの、その様子は、同じく日産の軽EVであるサクラや、SUVのアリアに通じる。
造形で遊び心を伝える表現もある。車体後ろのブレーキランプなどコンビネーションランプが、縦に2本、横に3本の表現で、2と3、すなわち「ニッサン」の語呂も含めたという。この表現は、室内の内装にも各所で用いられている。
再び外観に関わることだが、この造形は空気抵抗の低減を意図しており、空気抵抗係数は、日米仕様でCd0.26、欧州仕様で0.25となっている。欧州仕様の数値は、標準タイヤが細い効果が加わっている。
空力性能に優れた外観は、一充電走行距離に一役買う。
新型リーフの一充電走行距離は、最大で米国仕様は303マイル、日欧仕様では600km以上とのことだ(正確な数値は未発表)。
ちなみに、現行の2代目リーフは最大で450kmなので、1.3倍以上の性能向上になる。
車載のリチウムイオンバッテリー容量が大容量化し、600km以上走れる仕様は75kWhである。450kmの走行距離を実現する現行リーフのバッテリー容量は60kWhなので、バッテリー容量の増大比率は1.25倍となる。単にバッテリー容量の増大だけで走行距離が伸びたわけではないのがわかる。
バッテリー容量が52kWhの選択肢も、新型リーフにはある。ただし、まだ一充電走行距離は明かされていない。現行の2代目リーフの40kWhの標準車の一充電走行距離は322kmなので、新型は400km以上いけるのではないだろうか。あるいはもっと、足が長いかもしれない。
普段、あまり遠出をしないのであれば、バッテリーを多く積んで車両重量を重くする必要はなく、満充電から400km走れれば、実用上ほぼ問題なくEVライフを始められるだろう。
現行リーフのバッテリー容量違いによる販売傾向は、およそ6:4で、40kWhの標準車の比率が高い。海外の販売台数は明らかでないが、北米市場では逆に60kWhの要望が多いそうだ。欧州市場は、日本と同じように標準車が多めであるとのことだ。
先進技術について日産がまず紹介するのは、車両周囲の様子を画面上で確認できるアラウンド・ビュー・モニター機能の数々だ。
まず「3Dビュー」は、3次元的に様子を見せる。真上からの俯瞰だけでなく、より人の目線に近い感覚で車両周囲の安全を確認できる。
「フロント・ワイド・ビュー」は、見通しの悪い交差点などで、左右約180度の視界を補佐し、死角の危険の察知に役立つ。
「インビジブル・フード・ビュー」は、車両前側のフード下をあたかものぞけるように路面の様子を見せる機能で、前輪の位置や障害物の確認をしやすくする。未舗装の悪路を得意とする4輪駆動車などで先に利用が始まっているが、日常的に使うクルマでも、側溝の位置など身近な危険を知りたいときに役立つのではないか。
そのほか機能面の特徴としては、外部への給電がある。新型リーフは、室内と荷室に100V(北米では120V)のコンセントを設置し、最大1500Wまでの電気製品を利用できる。
日本仕様では、急速充電口を利用して、自宅などへ電力を供給するVtoH(ヴィークル・トゥ・ホーム)を利用できるほか、従来は専用の機器を用いて行った外部への電力供給を、専用コネクター1つで簡単にできるようにした。
欧州仕様では、VtoG(ヴィークル・トゥ・グリッド)といって系統電力との相互受給もほかの市場に先駆けてはじめるとのことだ。
新型リーフは、フルモデルチェンジに値する魅力を拡充したと言えるだろう。そして、イヴァン・エスピノーサ社長の下で進める、再建計画「Re:Nissan」の中核を成す新商品であるとのことだ。
販売価格は、発売が正式発表されるまでわからない。ただ、欧州市場をにらめば、フォルクスワーゲンのID.3が競合になりそうだ。
ID.3は、3万3,330ユーロからという。為替相場次第だが、円換算で550万円相当(1ユーロ165円として)からの値付けになる。ただし欧州は、装備など合理的に判断されるので、日本仕様と同じ装備での比較と考えることはできない。また、ID.3は、欧州域内での販売を軸にし、日本では販売されていない。バッテリー容量は、52kWhから79kWhまで、3段階の選択肢がある。
現行の2代目リーフで60kWhの売れ筋のグレードと思われるe+Gの価格は、580万円ほどだ。新型ではどのような価格帯になるのだろうか。
コインパーキングを運営するパーク24のアンケート調査によると、EVの購入を検討したことのない人で、もしEVを買うとした際に最も重視するのは価格だとの回答が1位である。走行距離への不安は3位で、低くはないとはいえ、心を動かすきっかけは新車価格になりそうだ。
よいクルマなら売れるとはいかないのがEV販売の難しさである。消費者の気持ちを動かす価格をどう値付けするか、それが新型リーフの動向を左右するのではないだろうか。
執筆:モータージャーナリスト 御堀 直嗣
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