( 308506 )  2025/07/18 06:51:08  
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急成長中の「おかしのまちおか。その理由は? 

 

■「町岡さん」がやっている訳ではない 

 

 「まちのおかしやさん」だから、略して「まちおか」ーー。 

 

 駅前やショッピングモールでよく見かける菓子専門店・おかしのまちおか。運営元の「みのや」は明日7月18日、創業71年目にして東京証券取引所スタンダード市場に上場する。 

 

 実は、おかしのまちおかはここ数年、右肩上がりの成長を続けている。直近の2024年6月期は売上高225億円、営業利益9億6700万円。3年前に比べて売上高は3割増、利益はなんと5倍近くになっている(開示のある経常利益で計算)。 

 

 近年は出店も積極的で、7月15日現在、209店舗を展開するうち、直近1年で17店舗を開店している。 

 

 上場後は、さらに出店を加速させるものとみられるが、ここで率直な疑問が浮かぶ。「“お菓子専門店”という業態でなぜ『独り勝ち』しているのか」ということだ。 

 

 スーパー業界は激しい競争の末、寡占化が進んだが、なぜお菓子専門店というジャンルにはほかに目立つプレーヤーがおらず、おかしのまちおかの独擅場なのだろうか。その理由を現地視察と取締役取材で探った。 

 

■店頭には半額近い値引き商品 

 

 7月初頭の平日夕方。荻窪店・阿佐ヶ谷駅前店・高円寺北口店を巡ると、20〜30坪の店内には、常に10人弱の来店客が確認できた。 

 

 道行く人がつい足を止めて見ていたのが、店頭にあるディスカウント商品だ。筆者の来訪時は、『コイケヤ ピュアポテト』が47%オフ、『東ハト 七夕キャラメルコーン』が40%オフなど、ポップとともに特売品が並ぶ。 

 

 これらは「スポット商品」と呼ばれる特売品だ。メーカーがスーパーやコンビニに対し販売しきれなかった旧規格品や期間限定商品を、みのやが好条件で一括して仕入れることに成功。 

 

 それらを特売価格で店頭に大々的に陳列するスタイルにより、通りがかりの客の目に留まり菓子を手に取ってもらいやすくなっている。さらに、近隣のスーパーやコンビニでは見かけない商品が見つかる楽しさも来店動機となっているようだ。 

 

■客単価は平均600〜650円前後 

 

 店内に入れば、壁両面にはびっしりとお菓子が陳列され、通路はひと2人がぎりぎり並んで通れるぐらい狭い。それだけ商材がひしめくぶん、併売を誘発する戦略が見て取れる。 

 

 

 客単価は平均600〜650円前後だというが、品数にすれば5〜6品を購入している所感だ。お菓子あふれる店内を回遊するうちに、「あれも欲しいこれも欲しい」となるのは消費者の自然な心理であり、店頭からスムーズな導線を敷いている。 

 

 筆者も特売品を狙いつつ、好物のアメやグミを中心に物色していると、あちこちに手が伸びる。「ブラックサンダーが柿の種とコラボしている!」「グミチョコボールってなんだ?」「蒲焼さん太郎めっちゃ小さくなってる……」など懐かしさに浸りながら、気づけば財布のひもが緩む。 

 

 結局、駄菓子からチョコレートまで計13点を購入し、会計は税込924円。買いすぎなのは重々承知だが、1000円以内で大人買いを楽しめたと思えば満足だ。 

 

 一見、お菓子専門店と聞くと、競合の多さがちらつく。スーパーやディスカウントストア、ドラッグストアなど、大手に飲み込まれる懸念もあるが、1000種類以上の商材は伊達じゃない。来店すれば、おかしのまちおかでしか買えない商材が見つかり、それが購買体験の満足度を押し上げる。至極シンプルながら、専門店ならではの優位性を発揮している。 

 

■薄利多売でも“勝つ”売り方 

 

 競合はいるものの、「お菓子専門店」というカテゴリーだけで見れば、200店舗以上を構えるおかしのまちおかの存在感が光る。 

 

 利益面でも直近の営業利益率4.3%という水準は、業態が異なるため単純に比較はできないものの、同じ小売業のイオンやセブン&アイ、ライフを上回る。 

 

 独擅場を築いた理由の1つとして考えられるのが、「全店舗が直営」であることだ。一般的に広域で展開するチェーン店であれば、フランチャイズによる拡大を選ぶ企業が多い。 

 

 それでも「まちおか」が直営を貫く理由は、その“売り方”にある。 

 

 ディスカウント商品は、通常に比べて賞味期限が短い。逆に言えば、足がはやい商材をいかにさばき切れるかで、メーカーとの信頼関係が築け、目玉となる値引き商品の確保も実現する。 

 

 「フランチャイズだと、本部との意思疎通にタイムラグが生じやすいが、直営なら一気通貫で指示を出せる。実際、現場には毎週、売り切ってほしい商品や、店頭に並べてほしい商品を事細かに指示している。 

 

 

 全店舗直営で小回りも利く体制は、薄利多売なモデルに適している」(みのや取締役の佐々木康宏氏) 

 

 近い業態では、全国で80店舗近くを運営する「だがし夢や」がある。こちらはフランチャイズ加盟店を募集し、35都道府県に店舗が点在する。一方で、おかしのまちおかは、物流拠点を構える関東・中部・関西周辺の大都市圏に店舗が密集する。人口の多い特定のエリアで店舗を密集させることで、ブランド認知を高め、物流効率を高めることにも成功している。 

 

■出店の狙い目はショッピングモール 

 

 もう一点気になるのが、「なぜ今上場するのか」というポイントだ。今回の上場で予定している6億〜7億円の資金調達は、新規出店と既存店舗のリニューアルに充てる。 

 

 ここに来て出店攻勢をかけている背景を聞くと、「実はこれまでに浮き沈みがあった」と佐々木氏は明かす。 

 

 振り返れば、おかしのまちおかは、2014年に全盛期の今と同規模の200店舗を達成していた。ところが一転、コロナ禍の影響もあり、1年で15店舗近くを閉めた過去もある。 

 

 そこからV自回復に至るには、コスト削減の見直しが関係していた。 

 

 1つ目が「人件費の削減」だ。 

 

 それまでおかしのまちおかでは、1店舗あたり、1人の社員と、他1〜2人のアルバイトスタッフで店舗を回していた。それがコロナ禍以降は、業務をマニュアル化することで、1人の社員が2〜3店舗を管轄して、アルバイトだけでも運営を回すオペレーションを実現。これにより全体の人件費を圧縮できたという。 

 

 2つ目が「出店エリア」の徹底だ。 

 

 直近の出店状況を見ると、直近でオープンした『ららテラス北綾瀬店』や、元々そごうがあった『イオンモール川口前川店』をはじめ、新店舗のほとんどがショッピングモール内か駅直結型の立地だ。 

 

 「モールの一区画は、集客が確実なぶん収益性が見込める。全国のモール内には、当社だけでなく他の駄菓子専門店が入っていたりと、休日のファミリー層が訪れる動線ができている。 

 

 これまでは採算が取りづらい場所もいとわず出店をしてきたが、結果的に経営を圧迫する要因になった。昨今では、物流コストや人件費の高騰が避けられず、いかに収益性の高い場所に出店を狙っていくかがカギになる」(佐々木氏) 

 

 

 前述の通り、おかしのまちおかは小売業の中では高い利益水準を誇る。それは、コスト管理を徹底したゆえの数字であったのだ。 

 

■将来的に500〜600店舗を目指す 

 

 「当面は、年間で純増10店舗をメドに拡大し、将来的に500〜600店舗を目指していく」と佐々木氏。昨年は好立地の物件が重なったため出店も目立ったが、上場を機に急ピッチで出店していくことは考えず、地に足をつけた展開を続けていくと明かす。 

 

 上場はあくまで通過点であるが、そこに至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。おかしのまちおかは、今後も町場の楽しみの場でありつつ、着実なモデルで拡大を目指していく。 

 

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佐藤 隼秀 :ライター 

 

 

 
 

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