( 308801 ) 2025/07/19 06:33:34 0 00 Photographer: Bloomberg Daybreak/Getty Images
(ブルームバーグ): カナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタールがセブン&アイ・ホールディングスへの買収提案を撤回し、1年間同社を悩ませ続けた嵐は去った。ただ、大幅に株価が下落した同社は再び「お買い得」な企業となり、次のクシュタールを招きかねない状況にある。変革を続けて事業を好転させ、市場の評価を得る必要性はむしろ高まっている。
「株価がかなり下がってくれば、株式公開買い付け(TOB)や敵対的買収も出てくる可能性がある」。日本株に広く投資しているGCIアセット・マネジメントの池田隆政シニア・ポートフォリオ・マネジャーは、今後のセブン&アイを取り巻く環境をこう指摘した。クシュタールの買収提案でつり上がった株価は、撤回発表があった17日に10%弱下がり、18日も続落した。株主からの批判は避けられないという。
株価が伸び悩めば、買収ターゲットになるリスクは高まる。ただクシュタールが提案した1株あたり2600円の買収価格はセブン&アイが短期間で到達するには困難な水準だ。実質的な防衛策として、経営陣が参加する買収(MBO)を創業家主導で試みたのもその証左といえる。
セブン&アイ自身も大規模な株主還元で、市場の説得にかかった。2026年下半期までに米国でコンビニ事業を運営する子会社を新規株式公開(IPO)し、調達した資金などで30年度までに総額2兆円の自社株買いを実施する計画を発表。事業環境が厳しい中でも、今期は増配を見込む。岩井コスモ証券の菅原拓アナリストはすでに多くの手を打っていることから、投資家対応でこれ以上の深掘りは難しいと見ている。
残された道はコンビニ事業の自力成長だが、足元の業績は厳しい。25年3ー5月期の営業利益は、前年同期比9.7%増の651億円となったものの、過去10年の四半期ベースで見れば、最低だった昨年に続く水準だ。国内の既存店売上はほぼ前年同月並みの状態が続き、成長率で他社に差をつけられている。米国もマイナス成長から抜け出せておらず、今期の米国での増益予想も不採算店の閉店などコストカット策によって捻出している側面が強い。
スティーブン・デイカス社長は8月に新たな経営戦略を公表する予定で、コンビニ事業に対する打ち手に注目が集まっている。UBS証券の風早隆弘シニアアナリストは「業績改善に向けたサポートや管理、監督がデイカス氏にどここまでできるのかに注目している」と述べた。逆風が吹く中、デイカス氏は早くも経営手腕をジャッジされる局面に立たされている。
外圧の歴史
セブン&アイには外圧にさらされながら変革を進めてきた歴史がある。16年にはアクティビスト(物言う株主)の米サード・ポイントが人事案に懸念を示し、鈴木敏文元会長が引退に追い込まれた。米バリューアクト・キャピタル・マネジメントは22年にコンビニ以外の事業から撤退を求め、同社はそごう・西武など非中核事業の切り離しを進めた。
クシュタールの提案も、セブン&アイの転換を促した。初の外国人社長であるデイカス氏へのトップ交代が行われ、祖業のイトーヨーカ堂を含むスーパー事業への外部資本注入によってコンビニ事業への注力を明確にした。一連の構造改革は買収提案を受けてスピードアップしたと風早氏は指摘する。
クシュタールは買収撤回に合わせて、セブン&アイ取締役会に宛てた4000文字超の書簡を公表。デイカス氏も参加した両社の面談の内幕まで明かし、セブン&アイが意図的に混乱や遅延をもたらすような動きをとったと責め立てた。同社は、数多くの誤った記述について賛同しかねると反論したが、クシュタールの書簡が株主に強い印象を残したことは間違いない。
総合小売業からコンビニ事業者へと軸を移し、成長に向けて自ら変革を遂げられるか。それとも、次のクシュタールを待つだけか。
セブン&アイが17日の声明で示した、単独での価値創造の施策を今後も継続していくという言葉は重い。
--取材協力:佐野七緒.
(c)2025 Bloomberg L.P.
Koh Yoshida
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