( 308846 )  2025/07/19 07:25:05  
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夜間は観光客もほとんど渡らない吊り橋のイルミネーションに総額3億円の税金(奈良県十津川村) 

 

 参院選で自民党の劣勢が伝えられるなか、石破茂・首相は野党が掲げる消費税減税に対し、「安定財源なしに減税するような無責任なことはできない」と財源不足を楯に批判してきた。だが、選挙をにらんで地方創生交付金を倍増させ、地方に大盤振る舞いしたのは石破首相その人だ。その使い途を追うと、全国で税金無駄使いの事業が展開されていた。もはや減税批判になんの説得力もない石破首相の“無責任”な姿が見えてきた。 

 

 紀伊半島中心部、奈良県十津川村の山深い渓谷にかかる日本一長い「谷瀬の吊り橋」。この吊り橋周辺を観光拠点とするための十津川村の新規事業として、今年度の国の地方創生交付金(第2世代交付金)に新規採択されたのが吊り橋のイルミネーション費用だ。330万円で“ナイトタイムの賑わい”を創出するといい、それを含めたまちづくり事業に総額3億円超の予算がついた。 

 

 だが、地元では交付金もイルミネーション事業も知られていない。地元の80代男性に話を聞いた。 

 

「夜は21時頃までサーチライトが点灯しますが、私ら地元民は夜間に橋を渡ることはほとんどありませんね。夏休みにキャンプに来た観光客がキャンプ場から上がってきて渡るくらい。交付金の話は初めて聞きますが、イルミネーションをつけても観光客がどれだけ集まるんでしょうかね」 

 

 吊り橋までは最寄りの近鉄大和八木駅から路線バスで3時間強だが、最近は欧米からのインバウンド客も見かけるという。地元商店主の話。 

 

「インバウンド客は昼間に吊り橋を経由して熊野の世界遺産に向かう人がほとんど。夜間は渡らないからどれだけ観光誘致につながるのか……」 

 

 十津川村はこの事業で16店舗を新規開業させ、村の世帯数を32世帯増やすことを目標に据える。どのくらいの“勝算”があるのか。同村企画観光課はこう答えた。 

 

「イルミネーションの交付金はナイトタイムの誘客を促進するために申請させていただいた。確かに現状では夜間に吊り橋を渡る観光客は少ないので誘致につながるかは未知数ですが、手をこまねいているより何らかの策は必要だと思います」 

 

 次は福島市に向かった。 

 

 JR福島駅から車で約30分走った飯野地区の山間に「UFOふれあい館」がある。バスは90分に1本ほど。施設の周辺には関係する物産館以外に民家も店もない。 

 

 同施設は旧飯野町(福島市に編入)が地方バラ撒き政策の元祖と言える「ふるさと創生事業」(1989年)の交付金1億円を元手に始めた事業。今年度はこの施設を中心にした福島市の「まちづくりの拠点再整備事業」が新世代交付金に採択された。 

 

 内閣府が公表している事業内容は、〈利用者の満足度を高めるために、第1展示室を宇宙空間をイメージした暗色ベースの床にし、さらにUFOをイメージした白ベースの展示台を設置する等、ミステリアスな印象を与える施設として再整備する〉という内装工事だ。交付金は約329万円で利用者1万5302人増が目標だ。地元のタクシー運転手が語る。 

 

「ふれあい館の周辺には何もないので、UFOに関心のない人は全く行かないですね。改装は特に必要ないのではないか」 

 

 施設を管理している飯野町振興公社も、「床面張り替えの改修ですか? 最近はした記憶がありません。市の観光交流推進室ならわかるかも」と計画さえ知らない様子だ。 

 

 神戸市はオリックス・バファローズの元本拠地だった神戸総合運動公園野球場の大小2画面ある大型映像装置を大きな1画面に改修する事業に5億3500万円を使う。 

 

「オリックスは今もここを準本拠地としてますが、昨年は8試合ぐらい。もっぱら大学野球や高校野球に利用するので大画面は必要ありません。5億円もかけるんですか? そんな金があるなら他に使ってほしい」(地元男性) 

 

 交付金の申請理由と事業内容がかみ合わないものも少なくない。「20代女性の流出が深刻」な兵庫県多可町は、〈この状況を打破するため、文化会館を活用し、地域イベントや文化活動の質を向上させる〉(事業概要書)と約4671万円で文化会館の照明を最新のLEDに取り替える。LEDで女性流出が止まるのか。 

 

 こんな事業が全国で数多く進められているのだ。 

 

 

 発端は石破首相が掲げた「地方創生2.0」だ。毎年ほぼ1000億円だった地方創生交付金を今年度は約2000億円に倍増させ、第2世代交付金として地方にバラ撒いた。951自治体の2090件の事業が国の交付金対象に採択されている。 

 

 そこには「これが地方創生の列島改造?」と税金の使い方に疑問を感じる事業が数多く並ぶ。 

 

 島根県浜田市は「美肌産業の形成」を掲げて地元の美又温泉の日帰り入浴施設の整備、2次元バーコードを読み取って入浴施設などの割引を受ける「デジタル温泉手形」開発などに総額約16億円を充てる。 

 

 本誌・週刊ポスト記者が訪ねたのは土曜日の午後だったが、温泉街にはほぼ人影が見えない。日帰り入浴施設を訪れた市内在住の80代女性常連客に話を聞いた。 

 

「ご覧の通り利用者は高齢者がほとんど。デジタル温泉手形と言われても、みんな年寄りだからねぇ。交付金なんて使う意味があるのかどうか」 

 

「インバウンド観光推進」を名目に市長の外遊費用も交付金で賄われる。 

 

 島根県松江市は「フランス現地における市長トップセールス」(1885万円)などインバウンド推進に約6696万円を使う。だが、松江市の資料では同市の外国人宿泊数は1位台湾、2位韓国、3位中国、4位アメリカで、フランスは5位。増加率を見てもアジア諸国が高い。 

 

 なぜ市長がフランスに外遊し、費用を国に出させるのか。松江市に聞くと、「フランス人は歴史文化伝統への関心が深いので、観光資源が豊富な松江市とは親和性が高い。現地で旅行会社やメディアなどへのセールスイベントを実施することで宿泊者数の増加が見込める」(国際観光課)と答えた。 

 

 NHKの朝ドラや大河ドラマに便乗した観光誘致事業まで交付金がアテにされていた。 

 

 高知県は朝ドラ『あんぱん』の放送に合わせた博覧会開催や観光施設の「磨き上げ」(事業概要書)などに約45億円を使い、島根県松江市は2025年後期の朝ドラのモデルとなる小泉八雲と妻セツ関連ツアーの開催、奈良県も来年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』をテコにした観光誘致に交付金を使う。 

 

「奈良県が大河ドラマの主要な舞台になるのは55年ぶり。万博が終了した後の誘客につながる大きなチャンス。ドラマが終了しても引き続き『秀長のまち』として奈良県の大きな観光資源となるよう、今年度から地元の機運醸成を図ります」(奈良県観光力創造課) 

 

 それなら国のカネではなく、県や市の独自財源でやるべきではないか。 

 

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※週刊ポスト2025年8月1日号 

 

 

 
 

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