( 309061 ) 2025/07/20 06:10:15 0 00 トンカツにはやっぱりソースがほしい(イメージ)
飲食店のなかには、独自のルールやこだわりを持つところもあり、しばしば客とのトラブルが生じるケースもあるようだ。これまで散々飲み屋に通い続けてきたネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、「店のルールとカネを払う客」が衝突しないためにどうすべきか、について考察する。
* * * 先日、盛りが良い店として知られるラーメン二郎の某店が、食べるスピードが極端に遅い客が最近増えたとし、20分以内に食べるよう求める投稿をXにしたことが話題になりました。これに対して高圧的だ、好きに食べさせろ、といった批判意見が多数寄せられ、投稿を削除する羽目に……。しかし、二郎のファンに限らず「店なりの考え方があるのだから、そのルールに従うべき」という声も出ています。
この手の話は、店の人、そして常連客からすると「決まったルールには従うべき」「施設管理権がある」といった話になります。串カツ屋の「ソース二度漬け禁止」なんてその最たるもの。よほどルールが珍妙だったり、世間の常識と乖離していない限りは、「ルールは守れ」派の方が筋が通っているわけで、文句を言う側の分が悪い。「イヤなら別の店へ行け」で終わる話ですから。
ルールについては「お酒を飲まない人お断り」という店もあります。酒と合わせることで最高の飲食体験になる、という考えを店主が持っているのかもしれません。あとは利益率のこともあるかもしれませんが。
「子ども連れNG」という店もあります。子どもが騒いで店の雰囲気が悪くなる、と店主が考えることもあるでしょうし、喫煙可能な店には未成年は入れない、という条例の存在が理由だったりもするでしょう。
今の時代、入店禁止と言われたら、報復でグルメサイトのレビューで★1つをつけ、「おいしいと評判だったから行ったのですが、『お酒を飲まない人はお断り』と苦々しい顔で言われました。感じが悪過ぎるのでもう二度と行きません」などとコメントを書いたりするケースもあるようです。
フードジャーナリストの東龍氏が6月22日にYahoo!に投稿した《“お断り”の手段を尽くしても「お酒を飲めない人」が来る……和食店主の「悩みや戸惑い」に賛否の声》というオーサー記事も、こうした店のルールの話でした。とある和食店が「店頭の張り紙」「ウェブ予約時の同意ボタン」「電話での説明」「メニューへの明記」で“お酒が飲めない人はお断り”という旨を伝えても、どうしても来てしまう客がいることの苦悩を報告しています。
ゴリ押ししてやって来た客は、そもそもそのルールを知らなかったのか、あるいは確信犯的に「行けば何とかなるだろう」という楽観があったのかわかりませんが、店としてはレビューによる報復をくらったらたまったものではない。
こうなったら双方が不幸せなわけで、自社ホームページやSNSのプロフィールで「禁止事項」「ルール」を明記する店も増えてくるのではないでしょうか。グルメサイト・予約サイトでも、一つの項目として「ルール」や「禁止事項」を運営側が付け加えることになるかもしれない。特にない場合は無記入で構わない。
私が以前、よく行っていた定食屋は、「ご飯のおかわりをした場合、米粒一つでも残すと500円」というルールがありました。そこそこの量を残し500円を請求された客はブツブツと文句を言っていましたが、それ、店内の張り紙にも大きく明示されているし、おかわりの時に店員から念押しされていましたよね? これは客が悪い。
とはいっても、私自身も店独自のルール、というかこだわりに戸惑ったことはありました。特に事前情報なしで入ったトンカツ屋での小さな出来事です。ヒレカツ定食を頼んだのですが、肝心のものがない。ソースです。皿の上には岩塩とレモンとワサビ、それにおろしポン酢はあります。しかし卓上にソースがない。千切りキャベツにはドレッシングがかかっている。
頭の中が「トンカツ!」と決まった時、口の中は濃厚なトンカツソースをカツにかけ、辛子をつけ、少しソースをかけた千切りキャベツとともにパクリとやり、ご飯を食べる! というゴールデンコースが出来上がっていたのですが、ソースがない……。確かにおいしい岩塩ではあったのですが、終始「コレじゃない……」という気持ちになってしまいました。カツ自体は非常に美味だったのですが、ソースだったらもっとウマかったのにな、と思いました。
となると、やはり「当店はソースはありません」とキッパリと明示しておいてほしい。入口の看板や、ドアに貼られた営業時間・定休日情報に加え、その店特有のルールは明記しておいてほしいのです。当然予約サイトや公式サイト・SNSでも。塩でトンカツを食べるのが好きな人もいるでしょうが、「トンカツ屋にはソースがあるはず」と考える人は95%を超えるのでは。
イギリス人がフィッシュ&チップスを食べる場合、モルトビネガーがあるのが当然だと思う。しかし、日本ではアイリッシュパブはさておき、その他ではモルトビネガーがない場合も多い。あまつさえ、小麦粉の皮ではなくパン粉の皮だったりする。その時のイギリス人の落胆ぶりったらないでしょう。私の場合、ソースのないトンカツがそうだった。
この程度のことですら忘れられない思い出になるほど「食べ物の恨みは恐ろしい」わけですから、お互いの幸せのために、ぜひとも店の側は禁止事項とルールを明示してほしい。それこそ銭湯の「泥酔者・入れ墨の方入浴禁止」「湯船に入る前に体を流す」「タオルは湯船に入れない」並みに周知してほしい。特にないのであれば、何も書かないでいい。
店頭のメニューに値段を書くところもありますが、アレは実はかなり親切なんですよ。「ウチの店はカキ氷が1800円もするけどそこ、分かって入ってくださいね。後から『カキ氷のくせに高過ぎ!』とか文句言わないでね」ということを事前に告知してくれているのです。そうした情報を共有したうえで、店も、利用客も快適に飲食をしたいものです。
【プロフィール】 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。
|
![]() |