( 309066 ) 2025/07/20 06:17:37 0 00 ローソンが車中泊事業に乗り出すと話題に。その勝算や課題は?(筆者撮影)
コンビニ大手「ローソン」に、泊まれるようになった。といってもホテルを始めるわけではなく、駐車場の空きスペースを、車中泊施設(RVパーク)として転用するというものだ。
小売業(コンビニ)で手堅く成長してきたローソンが参入する「車中泊施設」。実は、ローソンにとっては「元手がほぼかからず、全国展開可能なスキマビジネス」だ。ただ、乗り越える課題も相当にあり……ローソンの新たな挑戦の成否を見通してみよう。
■宿泊への参入は、実質上の「駐車場をRVパークに間貸し」
車中泊施設を設置するローソンは、千葉県内の「一宮東浪見店」「南房総岩井海岸店」など6店舗。既存の駐車場の一角を、「日本RV協会」が認定する車中泊施設「RVパーク」に転換する。
該当の店舗では、事前のネット予約で駐車スペースが確保できるだけでなく、電源ドラム貸し出しで、スマホやノートPCへの充電も問題なし。生ごみの処理もお願いできるという(専用ごみ袋1袋まで)。
基本的なサービスは、全国500カ所(2024年12月時点)の車中泊施設「RVパーク」と同様のサービスであり、実質的には「ローソンの駐車場空きスペースを車中泊施設に転換」するものと言っていいだろう。
これまで小売業(コンビニ)で成長してきたローソンが、今なぜ「車中泊施設」という新事業に参入するのか? その理由は「『車中泊施設』が成長産業である」ことにほかならない。
■車中泊のイメージ変化 「やむを得ず」から「自由な旅の象徴」へ
まずは「車中泊」がどれだけ短期間で成長し、その中で「RVパーク」の需要がどれだけ生じている現状を見てみよう。
諸々のデータを見る限り、車中泊のニーズはコロナ禍を境に激増している。
車中泊に向いたキャンピングカーは2016年の10万台程度から2024年には16.5万台まで増加し、道の駅や公園などのRVパークにクルマを停めて宿泊できる「車泊サービス(RVパーク)」(トラストパーク株式会社が展開)は、利用者がコロナ禍前の12倍(1071件→1万3234件)まで激増しているという。
コロナ禍における車中泊のメリットは、パーソナルスペースを保ったまま、窓を開けて空気を入れ替えつつ移動ができること。かつ、ホテルへの宿泊と違って、チェックイン・食事時間を気にせず、気が向いたら日帰り温泉に行ったり、空き地に停車して星を眺めたり……「ゆったりできる空間」「自由度」があるからこそ、コロナ禍後に車中泊の人気が高まった。
さらに、ホテルに泊まりたくても、インバウンド観光客の増加で料金の高騰が著しい。特に関東では、「2022年:8710円→2023年:1万6556円」と急騰した都内ホテルの客室単価に引っ張られるように、周辺地域でのホテル値上げが連鎖で発生。もはや、一泊数千円で泊まれる施設を探すことすら難しい。
なら、そのまま車中泊したほうが良いのでは? と考える旅行者がいても、おかしくない話だ。
ただ、車中泊の需要に対して「駐車場所の確保」は追いついていない。最近は「宿泊行為禁止」の看板を掲げる道の駅も多く、キャンピングカーで車中泊しようにも「クルマの駐車場所がない」という問題を抱える。車中泊施設「RVパーク」はこういった需要にこたえ、駐車場所や電源・水道・トイレなどを提供。場所によってサービスに違いはあるものの、安心して車中泊できる環境を提供し、近年は全国に500カ所以上の拠点を持つまでに急成長してきた。
「RVパーク」の多くは道の駅・日帰り温泉・飲食店の駐車場の一角にあり、利用者の多くは目の前にある施設で食事や温泉を楽しむ。土地を提供する側は売り上げアップと「RVパーク」の収入を得ることができ、車中泊ユーザーは料金を払って駐車場を確保できる。双方にトクがある“Win-Win”な関係だ。
■ローソンの車中泊参入がオイしい理由 「空き駐車場活用・スキマビジネス」
そしてローソンは、この「車中泊」需要に目を付けた。
なにぶん、ローソンは国内に約1.5万店のコンビニ店舗を展開、駐車場もそれなりに所持している。特に、観光地に近いバイパス添いの店舗は広い駐車場を有しており、その一角を活用すれば、追加の土地を取得することなく「RVパーク」を設置できる。かつ、予約などはオンラインで済むため店の負担は少なく、利用者がお弁当・レジャーグッズなどを買ってくれれば、実販アップも見込める。
料金は2500〜3000円とお手頃で、宿泊施設不足に悩む地域への訪問者は「車中泊」を選択肢に入れるはず。ローソンにとって車中泊は、「ほぼ追加投資ナシで新規参入できて、コンビニとの相乗効果を見込める事業」なのだ。
今回の「RVパーク」設置対象は、いずれも千葉県・房総半島の店舗(一宮町・南房総市・鴨川市など)だ。ローソン広報部にお話を伺ったところ、この地域はサーフィン・マリンレジャーや観光需要が相当にあり、車中泊の需要を見込んでの参入、「RVパーク」設置だという。
今回の出店は2026年6月末まで1年間の限定であり、今後の出店予定は未定だという。しかし、既存の6店舗しだいで、全国のローソンでの展開もあるだろう。また、同様に全国展開するセブン-イレブン・ファミリーマートなどが参入し、「車中泊ならコンビニ」といった常識が定着すれば、いま500拠点の「RVパーク」も、けた外れに事業を拡大、各地での車中泊のハードルも、グッと下がることが期待される。
そういった意味で、今回の「ローソン・車中泊事業参入」の先頭を切る6店舗の「RVパーク」の今後は、かなりの要注目だ。
■“車中泊”ウェルカム、“迷惑車中泊”ノー! 課題は山積み
ローソンの車中泊事業(RVパーク)参入は、一見して“良いことづくめ”に見える。しかし今後は、車中泊ユーザーの獲得だけでなく、コロナ禍後に目立つようになった“迷惑車中泊ユーザー”との付き合い方だ。
乗り越えるべき課題①迷惑車中泊ユーザー
道の駅やサービスエリアなどが徐々に車中泊を歓迎しなくなった原因は、おもに「深夜の騒音問題」だ。猛暑のさなかにカーエアコンに頼ろうとしてアイドリング(エンジンをかけっぱなしの状態)にすると、そのまま騒音が響き渡り、近隣からの苦情につながる。
車中泊に慣れた人々は、その多くが車中泊におけるマナーやルールを学んでいて、夏場に関しても持ち込みのサーキュレーターとコンビニの氷などで冷気を循環させるなど、深夜にエンジンをかけずに過ごす方法を知っている。
しかし、コロナ禍後のブームで車中泊の魅力を知った人々は、こういった工夫を知ることなく、深夜に「暑い! もう無理!」と耐え切れずに、エンジンをかけてしまいがちだ。
なお、今回ローソンが設置する「RVパーク」もアイドリング禁止であり、日本RV協会も普段から「無駄なアイドリング禁止」を呼び掛けている。
事前にサーキュレーターなどの準備があれば電源ドラムから給電して使用できるが、こういった準備なくローソンのRVパークを利用して、耐え切れずエンジンをかけた場合、注意するのはローソンの店員になるはずだ。
ローソンに限らずコンビニ店舗は住宅街に近い場所にあり、近所からの騒音クレームには過敏になっている。こういったルール違反が現場の店員に負担をかけるような事態は、避けたほうがよいだろう。
乗り越えるべき課題②ゴミの多量廃棄
また、もうひとつ多発する問題が「ゴミの多量廃棄」だ。特に海が近い場所では、釣った魚の生ゴミをダストボックスに捨てるような人も一定数いて、「ここでイカをさばくな!」「釣りで出たゴミ廃棄禁止」などの警告文がベタベタと貼られている道の駅・コンビニを、たまに見かける。
釣り目的で車中泊されている方だと「フリーザーバッグ二重+綿密な密閉+冷却で自宅持ち帰り」などのノウハウを持つものの、、慣れない人々はそのままコンビニのゴミ箱に捨てる場合もあり、近隣の住民や店員が、悪臭でダメージを受けることになる。
中には不要となった釣り針までコンビニに廃棄し、店員がゴミ処理中にケガをする、といった事態も。マナーを守らない人々も、少ないものの一定数はいるのだ。
ローソンのRVパークでも、先に述べた通り「専用のごみ袋1袋まで生ごみ処理可」といった線引きをしている。あとは、利用者がルール通りに行動し、店舗にいらぬ手間をかけないことを願いたい。
■ローソンにも望まれる「車中泊・マナー向上の取り組み」
今回ローソンが行う「車中泊事業」への参入は確実に成長の余地があり、ローソンにとってもRVパークにとっても、絶好のビジネスチャンスであることに間違いはない。また安心して駐車できる場所の増加は、増え続ける車中泊ユーザーへのメリットにもなるはずだ。
あとは、ローソン店舗の現場に負担をかけず、トラブルを起こさずにRVパークを運営できるかが、今後のカギとなってくるだろう。ここは、車中泊に慣れた人々が持つノウハウをローソンから世間に発信できれば、ローソン×RVパークのマナー向上だけでなく、さらなる需要拡大につながるかもしれない。
ローソン×RVパークの取り組みは、自由に行動することで地域に経済効果をもたらしやすい「車中泊ユーザー」の規模拡大につながるのか。そして収益をもたらすのか。今後の推移を楽しみに見守りたい。
宮武 和多哉 :ライター
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