( 309101 )  2025/07/20 07:00:35  
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(c) Adobe Stock 

 

 れいわ新選組の山本太郎代表が公開した農家への「お辞儀写真」が、X上で「パフォーマンスだ」と批判を浴びている。過去の言動との矛盾を指摘する声も根強く、一部の有権者には強い拒否反応がある。しかし、こうした批判の一方で、れいわ新選組は参院選で着実に議席を伸ばす見込みだ。その背景には、消費税廃止、社会保険料引き下げ、ガソリン税ゼロなど、国民の可処分所得を直接増やす大胆な減税政策がある。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が、このパフォーマンスの裏に隠されたれいわの経済政策とその可能性について掘り下げるーー。 

 

 れいわ新選組の代表を務める山本太郎参議院議員の行動が、再び物議を醸している。 

 

参院選に向けたアピールとして公開された、農家の人々に対し深く頭を下げる写真がその発端である。この一枚の写真に対し、X上では賛否両論、特に厳しい意見が噴出した。 

 

 投稿されたコメントを見ると、多くの批判が「パフォーマンス」という一点に集約されている。「反吐が出る」「明らかにヤラセ写真だ」といった直接的な嫌悪感を示す声は少なくない。写真の構図が不自然である点や、選挙ポスター用の演出ではないかという疑念が多くの投稿の根底にある。 

 

 特に根深いのは、山本太郎の過去の言動との矛盾を指摘する声である。 

 

 2011年の東日本大震災後における福島県の農業に関する発言を引き合いに出し、「福島の農家を貶めた人間が農家の味方とは不誠実だ」という趣旨の批判が繰り返し投稿されている。農家への敬意が本物なのかという不信感は、10年以上経った今もなお燻り続けている。 

 

 山本太郎のパフォーマンスは、国会における牛歩戦術や、2023年に大分県のデモで見せた車道への飛び出し行為など、枚挙に暇がない。一連の過激な行動の積み重ねが、「ただの演技ではないか」という疑念を増幅させている。 

 

 一方で、擁護する意見も存在する。「ポスター用の印象的な構図を切り取っただけで、過剰に批判するのはおかしい」と反論する声や、「農林水産大臣がここまで農家に対して真摯な姿勢を見せたことがあるか」と、山本太郎の熱意を評価する投稿もある。被災地支援などの行動を挙げ、批判の矛先がずれていると擁護する意見も見受けられる。 

 

 

 X上の論調を見る限り、批判的な意見が優勢な印象は否めない。山本太郎のパフォーマンスは、一部の有権者に強い拒否反応を引き起こし、疲弊させている側面があることは確かである。 

 

 とはいえ、このような批判的な見方が根強くある一方、れいわ新選組は着実に政治的な地歩を固めつつある。朝日新聞社が実施した終盤の情勢調査では、れいわ新選組が3議席前後を獲得する見込みで有力視されている。過剰なパフォーマンスに対する拒否反応だけでは、れいわ新選組の現状を説明できない。支持の背景には、有権者の心に響く具体的な政策提言がある。特に注目されるのは、れいわ新選組が掲げる大胆な減税政策である。 

 

 れいわ新選組は、日本経済が長期にわたって停滞する「失われた30年」から脱却するため、思い切った経済政策が必要だと訴える。生活が苦しい原因は物価高だけではないと指摘し、国民の可処分所得を直接増やす方策をマニフェストの中心に据えている。その筆頭が消費税の廃止である。日本のGDP、国内総生産の約55%を占める個人消費を活性化させることが、景気回復と経済成長の鍵を握るとれいわ新選組は主張する。消費税を廃止すれば、全ての商品の価格が下がり、国民の購買意欲を刺激する。 

 

 同時に、事業者の事務負担や納税負担を軽減するインボイス制度の廃止も公約に掲げている。小規模事業者やフリーランスにとって大きな負担となるインボイス制度をなくすことで、経済の毛細血管とも言える中小零細企業の活力を取り戻す狙いがある。政策は消費税に留まらない。社会保険料の引き下げも重要な柱の一つである。給与から天引きされる社会保険料は年々増加し、働く人々の手取りを圧迫している。社会保険料を引き下げることで、可処分所得を増やし、生活に余裕を生み出すことを目指す。さらに、国民生活に身近なガソリン価格の問題にも切り込む。 

 

 ガソリンにはガソリン税が課され、その合計金額にさらに消費税が課されている。財務省の見解がどうであれ、れいわ新選組はこの構造を二重課税であると断じ、「カネ返せ」という強い言葉で批判する。ガソリン税をゼロにすることで、個人の移動コストや企業の物流コストを劇的に削減し、経済活動全体を支える考えだ。これらの政策は、断片的ではない。 

 

 

 国民の負担を徹底的に軽減し、国内の需要を喚起するという一貫した思想に基づいている。パフォーマンスの派手さに隠れがちだが、れいわ新選組は具体的な数字とロジックをもって独自の経済再生プランを提示している。山本太郎のパフォーマンスに疲弊する人々がいる一方で、この明快な政策に期待を寄せる人々が一定数存在することもまた事実なのである。既存の政治が生み出してきた閉塞感を打破する処方箋として、れいわ新選組の政策が受け止められている。 

 

 私は、考え方として保守的な立場にあるが、れいわの主張する減税政策には大きく賛成したい。研究熱心な山本太郎氏により深く研究してほしいのは、世界で改革に成功した左派政権である。最近、私が共著で刊行した『減税のきほん 新しい日本のスタンダード』(ブックフォース)には、世界中の減税政策や規制緩和が、そもそも左派政権が準備し、始めたという点を指摘しているものだ。減税というと、福祉を削るものだと恐る人がいるが、そうではないことを物語っている。以下は、書籍の抜粋である。 

 

(MMTを含む)ケインズ的な考えは、政府が積極的にお金を使って景気を良くする考え方であるが、成功事例は乏しい。かつてのアメリカでは、この政策を過剰に進めた結果、インフレが深刻化し、物価上昇によって国民の生活が苦しくなった。 

 

 この問題に気づいたのは保守的な政治家ではなかった。 

 

 アメリカ民主党のカーター大統領は「現在のやり方は限界がある」と認識し、金融政策の引き締めや規制緩和を進めた。この方向転換は後の共和党・レーガン政権が採用した政策と類似している。 

 

 イギリスでも同様の状況が見られた。労働党(左派)のキャラハン首相が、経済改革の必要性を理解し、規制緩和やインフレ対策を認めた。次の保守党のサッチャー首相によって本格的な実施をすることになる。ニュージーランドではさらに明確な事例がある。 

 

 同じく労働党のロンギ首相とダグラス財務大臣が、規制緩和とインフレ抑制を含む大規模な改革を実行した。この改革はアメリカやイギリスの政策に似ているが、特に成功したと評価されている。ニュージーランドは1984年から1990年の間、ラボール党政権の下で新自由主義的な経済政策を採用した。これには金融市場の自由化、公共部門の効率化、規制緩和などが含まれる。同時期のイギリス保守党政権が行った政策と多くの類似点を持つ。 

 

 

小倉健一、土井健太郎、キヌヨ共著『図解 「減税のきほん」新しい日本のスタンダード』(ブックフォース) 

 

 OECDのデータによると、ニュージーランドの社会福祉支出はGDP比で増加した一方、イギリスでは減少していた。ニュージーランドでは、低所得層と中所得層の税率引き下げを含む税制改革が実施された。1985年の「税制改革パッケージ」では障害者向け給付金が最大80%引き上げられ、特別住宅手当も新設された。これにより、弱者層への直接的な支援が大幅に拡大した。さらに、家族給付金の増額や扶養家族を持つ労働者への財政支援が進められた。 

 

 左派のラボール党政権がこうした政策を採用した背景には、社会民主主義的な価値観があった。ニュージーランド政府は経済改革と並行して、社会福祉政策を維持し、社会的平等を重視する姿勢を示した。この点でイギリスとは大きな違いがある。ニュージーランドの政策事例は、リベラルと減税・規制緩和とが矛盾しないことを示している。経済政策はイデオロギーだけでは決まらないのだ。 

 

 以上が、書籍『減税のきほん 新しい日本のスタンダード』の抜粋である。山本太郎氏に求めたいのは、こうした弱者に優しく、かつ、日本を発展させる減税政策である。れいわならできるのではないだろうか。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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