( 309471 ) 2025/07/21 07:27:06 0 00 星野佳路氏がXに投稿した文面
旅行予約サイト「アゴダ」を、星野リゾート代表が名指しで批判した。宿泊や航空業界でトラブルが多発しているのは、なぜなのか。外資系サイトの裏事情と、トラブルを回避する自己防衛策、アゴダで転売予約を見抜く方法を解説しよう。(ライター 前林広樹)
● 星野リゾート代表も怒り心頭! なぜアゴダでトラブルが多発するのか
「AGODAのシステムには何らかの問題がある」――ホテルや飛行機の予約サイト「アゴダ」を、こう名指しで批判したのは星野佳路・星野リゾート代表だ。自身のSNSを通じて、日本語と英語の両方で「星野リゾートはAGODAと契約していない」と発信した。
シンガポールを拠点にするオンライン旅行エージェントのアゴダは、日本でも人気お笑いコンビが出演するCMが多く流れていることから知る人も多いだろう。しかしアゴダ経由の予約に関しては近年、問題が続出している。
旅行者からすると、予約したはずの部屋が予約されていない、人数が間違っている、こうした不備について問い合わせても返信がない、返信があってもキャンセル料金が発生する期日を過ぎているなどのトラブルが報告されている。
アゴダのトラブルに対しては、全国のホテル・旅館側も業を煮やしていた。そこで国内外に71の宿泊施設を展開する星野リゾート代表が、“業界を代表して吠えた”という格好だ。
星野リゾートはアゴダと契約していないというが、筆者がアゴダのアプリで検索(7月12日時点)したところ、「星のやバリ」や「OMO5 沖縄那覇」などの施設が販売されているのを確認した。いったいなぜ、こんなことが起きるのか。
これらは第三者が、星野リゾートの公式ホームページなどを見て許可なく転売したものとみられる。もちろん正式な手法ではない。だから先述したトラブルをはじめ、中には休館日にもかかわらずアゴダで予約した客が現地を訪れてしまうなど、星野リゾート側も想定外の事態が発生している。トラブルが年間300件ほど発生している施設まであるという。
アゴダの名指し批判は、星野リゾートにとどまらない。ビジネスホテルを全国展開する東横インも、注意喚起を発表。第三者によって海外予約サイトで転売された空室枠の予約に関するトラブルを「ホテル側では対応できない」という旨を伝えている。
同様の事態が、宿泊施設だけでなく航空会社でも発生している。名古屋空港や静岡空港を拠点にローカル線を展開するフジドリームエアラインズ(FDA)も、注意喚起を発表。海外旅行サイトと「旅客取扱代理店契約」を締結していないこと、第三者によって予約・発券された航空券の転売に関しては、FDAからは払い戻しができないことなどを伝えている。
宿泊業界も航空業界も怒り心頭のアゴダ問題。実は、観光庁は3月にアゴダに対する業務改善を要請し、アゴダ側は4月に改善策を提出していた。
しかし、星野リゾートや東横イン、FDAが注意喚起を出したのは6月のこと。つまり、アゴダ問題が全く解消されていないため、個別企業も動かざるを得なかったのだ。
その後、アゴダは7月15日付で「トラブルが頻発しているとの報道が相次いだ直後の6月26日付で、不正行為が疑われた業者を経由して確保した空室の取り扱いをやめた」と発表したそうだが、筆者が7月12日時点で検索したところ、転売と思われる掲載があったのは前述のとおりだ。
● 旅行者が注意すべき 外資系サイトと日本の旅行会社の違い
これほどトラブルを起こしているアゴダは筆者もおすすめしないが、一方で、エクスペディアやブッキング・ドット・コム、ホテルズドットコムなど海外資本の旅行予約サイト(OTA、Online Travel Agent)は複数ある。日本の旅行代理店に比べて販売価格が安い、オンラインで簡単に予約できる、クレジットカードのポイントがたまる、期間限定のセールが魅力的などの理由で利用したことがある人も多いだろう。
日本でも定着しつつある半面、トラブルを耳目にすることも多い。23年にはブッキング・ドット・コムで予約した宿泊施設が、行ってみると空き家で、サイトに載っていた宿泊施設の写真は、実在する全く別の貸別荘の写真を盗用したものだったトラブルが報道された。
さらに、サイト側からの入金が滞るなど、宿泊施設や航空会社側の被害も報告されている。中小の宿泊事業者が、泣き寝入りに陥るケースもあったようだ。
こうしたトラブルから我が身を守る方法はあるのか。まず、外資系サイトと日本の旅行会社の違いについて解説したい。政府広報オンラインの「ここを確認!旅行予約サイト選びのチェックポイント」からの引用も踏まえて見ていこう。
【日本の旅行予約サイトの4タイプ】
(1)国内OTAが運営するサイト 日本国内に拠点を持つ旅行会社(※)が運営(例:じゃらん、Yahooトラベル、楽天トラベル、NEWT) ※日本の旅行業法に基づいて観光庁または都道府県に登録している事業者
(2)海外OTAが運営するサイト 海外に事業拠点を持ち、海外のサーバーで運営。(例:エクスペディア、アゴダ、トリップ・ドットコム)
(3)場貸しサイト 宿泊業者や交通機関などの旅行商品に関する情報提供の場としてホームページを提供するサイト。実際の予約や支払いは消費者と宿泊業者、交通機関、旅行業者が直接行う。(例:STAYCATION LOGO)
(4)メタサーチ 国内外の複数のOTAや場貸しサイトにある旅行商品を一覧表示して、比較検討しやすくしたサイト。予約や支払いは消費者と宿泊事業者や交通機関、旅行業者が直接行う。(例:スカイチケット、トリバゴ)
このうち(1)は日本の旅行業法に基づくサイト。一方、(2)(3)(4)は外資系サイトがほとんどで旅行業法に基づかないものが多い。
なお、JTBやHISなどの旅行大手もオンラインサイトを運営しているが、実店舗を持つためこれらの分類には含まない。ただし、旅行業法に基づく企業であることは言うまでもない。
● 日本の旅行業法が厳しいワケ 歴史をひも解けば鉄道に端緒あり
そして日本の旅行業法は、諸外国に比べてかなり厳しく定められている。その理由をひも解くと、旅行業界の歴史が関係している。
日本の旅行業は、1905年に滋賀県の草津駅を出発して高野山や伊勢神宮に向かうパッケージツアーが提供されたことに始まる(この事業者は、現在はJR西日本の子会社である日本旅行となる)。
その後、鉄道会社やその外郭団体から多くの旅行会社が誕生したが、日本人の余暇を楽しむ文化が拡大し旅行業が発展するのと裏腹に、悪質業者による不正も相次いで起きた。そこで、1952年に旅行斡旋業法、71年には改正法として旅行業法が成立。以下のように定められた。
●旅行業社は営業補償金を法務局に供託する。その金額は海外・国内など営業範囲によって異なり、最も幅広い第1種だと7000万円にのぼる。
●営業のためには観光庁または都道府県に登録取得を行ったのち、管理者の選任や営業保証金が必要となる。また新規登録・更新時に一定の基準資産額が必要となる。
●旅行業社はその責任の有無に関わらず、一定の損害を与えてしまった場合、死亡補償金などの支払いを実施する。
●ホテル・輸送機関の部屋・座席について不足が発生させたことで旅行内容を変更した場合は、旅行会社が変更補償金を支払う必要がある。 旅行業法が厳格なおかげで、休みを取ることが難しく、確実な旅行日程の消化が重視される日本人の旅行体験を守ることができたといえるだろう。
一方で近年は、時代に合っていないとの指摘もある。海外旅行をしたことがある人なら、街中の小さな旅行屋が現地のオプショナルツアーを外国人向けに販売している光景を見たことがあるだろう。しかし、ホテルや交通の都合まで旅行会社の責任になるなどツアーを作るリスクが大きい日本では、小さな旅行屋がツアーを造成することは難しい。
日本ならではの旅行業法は、現地でツアーを申し込む習慣のある外国人旅行客を相手にするには不利に働くこと、すなわちインバウンド商法に水を差している、業界の硬直化を招くとの批判もある。なお、旅行業法は手配代行については旅行業とは認めていない。
本題に戻ると、外資系サイトは、宿泊施設や交通機関と利用者を「仲介するシステムである」という観点から、旅行業法には登録せずにビジネスを行っている。日本の旅行業法で適用される手厚い補償は受けられないことを、覚えておきたい。
● トラブルを回避する自己防衛策 アゴダで見抜く「必殺技」とは?
これらを踏まえた上で、外資系サイトのトラブルを回避する自己防衛策を解説しよう。
まず、国内旅行であれば、旅行業法に沿った国内OTAが運営するサイトを使うのが無難だろう。特に地方の温泉旅館や中小ビジネスホテルなどの掲載数が多く、楽天やポンタ(じゃらん)などのポイントが貯めやすい魅力がある。トラブル発生時にも、即座に答えてくれる可能性は高い。
また、有名ホテルチェーンや航空会社の予約は、旅行会社を経由せずに、公式サイトを利用するのが最も安全だ。メールアドレスなどを登録しておけば、会員限定のセールの案内が来てお得になるケースもある。特にLCCは会員限定セールが充実しているので第一候補といえる。
ただ、それでも外資系サイト独自の魅力はある。何といっても、海外のホテル掲載数が豊富であること、世界中の航空会社を効率よく検索できること、メタサーチであれば最安値が分かることなどだ。
外資系サイトで予約した場合、予約したホテルや航空会社が直接そのサイトと契約しているのか、それとも第三者による転売なのかを知る方法がある。
実はアゴダの場合、予約番号で見抜くことが可能だ。
◆1から始まる10桁の番号の場合:アゴダの直接予約 ◆その他の番号:提携会社経由による転売
外資系サイトにも各々のルールがあり、事前にチェックすることでトラブルを回避できる可能性は高い。また、予約したいホテルや航空会社に直接問い合わせてみるのも手だろう。コスパ・タイパよく旅行の準備をするためにも、上手に利用したいものだ。
前林広樹
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