( 309666 ) 2025/07/22 05:27:26 0 00 自民党総裁選への立候補表明の会見に臨む高市早苗氏
参院選の投開票から一夜明けた21日、石破茂首相は会見で改めて「続投」の意向を表明した。今回の参院選は目標を下回る結果で、国会では難しいかじ取りになることは必至だ。党内からもすでに異論が噴出している。今から70年前の1955年、自由党と日本民主党の「保守合同」により、自民党が結成された。以来、社会党のマドンナブームや民主党による政権交代などの危機を経験したが、自民党はその都度“よみがえって”きた。だが、参院選で大敗を喫した今回は再起できるのだろうか――。
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自民・公明両党は、昨年10月の衆院選で過半数を割ったが、今回の参院選はさらに悲惨な結果となった。
石破茂首相は今年6月23日の会見で、参院選の勝敗ラインを「非改選議席を含め、自公で過半数」と明言した。「自公で過半数」という目標は、故・安倍晋三元首相や岸田文雄前首相なども国政選挙の前に示していたもので、以前であれば軽く乗り越えられる大甘の勝敗ラインだった。しかも自公の非改選議席は75もあった。過半数の125議席を制するためには、125議席のうち4割の50議席を獲得すればクリアできた。
ところがふたを開けてみれば、自民党は39議席、不振のあおりを食った公明党も8議席しか獲得できなかった。1989年の参院選では33議席減、2007年の参院選で27議席減と、自民党は「記録的な惨敗」をしたが、衆参両院で与党が過半数を割った例は過去にない。
■高市氏をトップに据え、国民民主と組むプラン
「高市早苗氏が首相だったら、ここまで劣勢になることはなかったはずだ」
参院選の当初から、与党関係者からはこうしたボヤキを何度も聞かされた。昨年9月の自民党総裁選において、高市氏は1回目の投票で181票を獲得してトップに踊り出たものの、過半数に及ばなかった。決戦投票では194票を獲得したが、2位だった石破氏が215票を獲得し、敗退した。岸田前首相や菅義偉元首相らが、石破氏を支持したためだった。
石破首相誕生の背景には、自民党の派閥が裏金問題で疲弊していたことがあった。裏金問題の発信源は清和政策研究会(旧安倍派)。高市氏も11年まで清和会(当時は町村派)に属していた。派閥の領袖でなく、清和会からも遠い石破氏は適任と見なされたのだ。
女性がトップになりにくい自民党の体質も影響しただろう。昨年10月に行われた衆院選では自民党の女性当選者の割合は9.9%で、れいわ新選組の44.4%や日本共産党の37.5%、立憲民主党の20.3%や国民民主党の21.4%と比較しても著しく低い。
にもかかわらず、今、自民党内で高市首相待望論が沸き起こっているのは、党内に深刻な危機意識が蔓延(まんえん)しているからに他ならない。参院選惨敗を受け、党内からは「こうなれば、所得税減税について国民民主党と近い考えの高市さんをトップに据えて、国民民主と組むしかない」といった声があがる。高市氏は「103万円の壁」の引き上げには賛成だ。
■麻生元首相が高市氏を支持してきたが…
「ポスト石破」としてはもちろん、昨年の総裁選で3位だった小泉進次郎農林水産相や、次いで4位だった林芳正官房長官の名前も聞こえてくる。小泉氏はコメ高騰を受けて備蓄米を放出し、不振にあえぐ石破内閣の支持率上昇に大きく寄与した。だが小泉氏の44歳という年齢には、「総理総裁になるにはまだ若い」(自民党のベテラン秘書)との声もある。小泉総裁が誕生して自民党内で一気に若返りが進めば、日の目を見ることができなくなる議員が少なくないことも影響している。
林氏は、外相や文部科学相、農水相などを歴任し、実績も十分。「最も安定感がある」と評価され、官房長官という重職も難なくこなしている。全国で最も多くの首相が輩出してきた山口県では、10人目の首相誕生を期待する声もあがっている。
それでも高市首相を望む声が大きいのは、自民党が未曾有の危機にあるからだ。石破首相によって自民党の路線変更が進んで保守色が薄まったことへの焦りや、高市氏を21年の総裁選に導いた故・安倍元首相へのノスタルジーなどもあり、高市氏に期待の眼差しが注がれている。
だが、高市氏が容易に総理総裁になれるわけではない。総裁選に出馬して多数の支持を得るためには、高市氏の党内基盤の薄さがネックになる。実際、昨年の総裁選でも推薦人集めに苦労した。
昨年の総裁選では、決選投票で麻生太郎元首相が高市氏を支持。以降も麻生元首相は、「首相を狙うなら、飲み会に参加しろ」などと高市氏にアドバイスをしてきたが、次の総裁選で味方になるかは分からない。
■「次の首相にふさわしい人物」のアンケート結果
麻生政権の末期、石破首相が「麻生降ろし」に動いたためか、麻生元首相と石破首相が犬猿の仲であることは有名だ。昨年の総裁選は、決選投票が高市氏と石破氏の戦いとなったため、麻生元首相は高市氏についた。だが石破首相が失脚したとなれば、今後、麻生元首相が高市氏を積極的に支援する動機はなくなる。
昨年の総裁選で高市氏の推薦人となった議員たちが、直後の衆院選で続々と落選したことも高市氏にとって大きなハンデとなるだろう。
とはいえ、高市氏に国民の人気と期待が集まれば、こうした問題は難なく解消されるはずだ。5月末の共同通信の世論調査で「次の首相にふさわしい人物」を尋ねたところ、回答者の21.5%が高市氏と答えている。4月の産経新聞の調査では、40.8%が高市氏に期待を寄せた。6月に選挙ドットコムが行った調査でも、19.9%の小泉氏に次いで、高市氏は15.5%と2位につけている。
衆参ともに過半数割れのため、実際に政権を担当するには、他党との連携が必要になる。国民民主党は与党入りの意欲をチラ見せしており、前述のとおり経済政策においては高市氏と方向性が近い。だが、故・大平正芳元首相の後継を自任する玉木雄一郎代表はハト派とされた宏池会的政権を望んでおり、その点では故・安倍元首相系の高市氏との親和性は高くない。
一方、参政党は高市氏と政治信条が似ているとされる。しかし、たとえばワクチン政策について参政党は見直しを提唱するが、高市氏はワクチンの国産化推進を持論とし、昨年の総裁選では「健康医療安全保障の構築」を提唱するなど隔たりは小さくない。高市氏から積極的に参政党との連携を模索する可能性は低いだろう。
今回の参院選の後、最大3年間は国政選挙がないと見られているが、衆院選はまさに常在戦場。その時に高市氏は、自民党の勝利の女神となりうるのだろうか。
(政治ジャーナリスト・安積明子)
安積明子
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