( 310286 )  2025/07/24 06:56:15  
00

参院選で大敗後、続投を表明した石破茂首相(7月21日) PHILIP FONG/Pool via REUTERS 

 

7月8日コラム「変調を迎えた日本経済...参院選に『減税政策への追い風』が及ぼす影響は」 では、7月20日の参議院選挙の大きな争点は減税による財政政策の転換の是非であり、減税を掲げる野党に強い追い風が吹いている、と述べた。 

 

筆者の見立てどおりに与党への逆風は強まり、石破茂首相が勝敗ラインとした参議院での自公での過半数割れに至るまで、議席を減らす敗北となった。 

 

国政選挙の劣勢が予想されれば首相が自ら身を引いて新しいリーダーを立てるなど、これまでの自民党では、政権を保つ組織の自浄作用が働いていた。予想どころか現実に2回続けて国政選挙で大敗しても続投の意向を示した石破首相は、相当稀有な存在である。 

 

自民党内での権力闘争で勝つことが石破氏の政治目標になっているから、多くの国民に自らが不人気であると自覚してもなお自民党総裁の権力を保ちたいようである。ただ、有権者の意向が重視される民主主義が機能する日本でこうした行動が容認されるのだろうか? 

 

自民党が選挙公約で示した「2万円の現金給付」の評判はとても悪かったが、この政策についての反省の声が石破内閣からほとんど聞こえてこない。 

 

過去3年にわたる名目GDPの拡大とインフレ課税の強まりで、政府の財政収支が先行して急ピッチで改善している。6月25日コラム「都議選の敗因を『誤解』する自民党、国難に直面する『重税国家』日本にいま必要なもの」で示したように、主要国の中で日本の財政収支の改善ペースは極めて早い。 

 

一方で、生活必需品の価格上昇を受けて家計の可処分所得が目減りし、2024年半ばから個人消費にブレーキがかかっている。コメなどの生活必需品の価格上昇への対処として、租税体系を見直して家計所得を増やす必要がある、と多くの有権者が感じるのは当然である。 

 

インフレに応じて税制が動かない非常識な対応で「行き過ぎた徴税」が起きているのだから、これを是正する減税を行えば、家計所得が高まり個人消費は回復に転じるだろう。 

 

そう考えると、減税を拒否しながら、選挙直前に高齢者世帯を中心に「小遣い程度の現金給付」を行う政治家に有権者が嫌悪感を抱くのは当然だが、この点を石破政権は理解できないようだ。 

 

一方で、自民党から離れた民意の受け皿として、「手取りを増やす夏」を訴えた国民民主党が、これまでさまざまな混乱があったにもかかわらず、昨年の衆議院選挙に続いて議席を大きく増やした。 

 

参議院選挙のもう一つの目玉は参政党の躍進だったが、岸田・石破内閣が続きいわゆる岩盤保守層の票が流れたことが大きい。さらに、「消費税減税と社会保障の最適化により国民負担率に35%上限のキャップをはめる」との参政党の公約が、重税感の強まりにいら立つ有権者に響いたとみられる。 

 

石破首相は21日に首相続投の意向を示したが、自らの職の確保に懸命になる自民党議員らによる自浄作用が、今後は働くだろうと筆者は予想している。国政選挙において2回連続で大敗するのも稀だが、選挙の応援演説を現場から断られる党首には、多くの自民党議員があきれ返っているのが実情だろう。 

 

 

また、これまで石破首相が実現させた政策はほぼ見当たらず、現状維持を志向する官僚の原案をほぼ鵜呑みにしていたに過ぎない、と自民党議員だけではなく多くの有権者が考えていることが、選挙での大敗をもたらした。 

 

石破首相は続投すると言っているが、減税を求める有権者の声を受けた野党との協力なしには予算は可決しない。それだけでなく、自民党内からも拡張財政への転換を主張する声が強まるだろう。このため、今回の与党大敗は、無策だった経済政策が拡張財政に転じるきっかけになる、と筆者は前向きに評価している。 

 

具体的にどのような政策転換が実現するかは、次の自民党総裁の資質、そしていずれの野党と予算策定で協力するかどうか次第である。「次期首相(続投の可能性は低い)」「協力野党」の組み合わせで、さまざまな展開が想定される。 

 

なお、一部の投資家や霞が関への取材をもとに、減税政策の発動によって長期金利が大きく上昇しかねない、との見方がメディアで目立つ。ただ、先述したとおり、これまでの日本の財政収支が改善し過ぎている事実を踏まえれば、的外れにしか見えない。 

 

個人消費の回復によって自律的な経済成長を支える減税政策であれば、それは将来の税収増加をもたらすのだから持続可能だ。国民民主党が掲げている規模の所得税を中心とした恒久減税が、個人消費を回復させるベストの対応だと筆者は考えている。 

 

無為無策の石破政権が誕生した昨年10月以降、他の主要国の株価は上昇が続いた一方で、日本株市場は横ばいにとどまった。「石破後」に十分な経済政策の転換が実現すれば、日本株市場は停滞から脱却するだろう。 

 

村上尚己 

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト 

 

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません) 

 

 

 
 

IMAGE