( 310331 ) 2025/07/24 07:43:02 0 00 楽天証券 FX・CFD事業部の荒地 潤〈あらち・じゅん〉さん(撮影・和仁貢介/朝日新聞出版写真映像部)
S&P500のインデックス型投資信託は、指数自体に変化がなかったとしても、為替相場で円高が進むと損失が発生する。その理由や「どの程度マイナスになる可能性があるか」について知ろう。【本記事はアエラ増刊「AERA Money 2025夏号」から抜粋しています】
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S&P500という指数自体が下がらなくても(株価が変わらなくても)、円高が進むと「損失」が発生するのは、S&P500が米ドル建てで取引されているから。
S&P500は指数なので単位は「ポイント」だが、この数値は米国株500銘柄の株価(米ドル建て)をもとに算出されている。
「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」など日本の外国株投資信託は日々の為替で円換算されているのだ。
アップルやエヌビディアなど、個別の米国株を日本で買う場合は円を米ドルに両替することになる。
投資信託や東証ETF(上場投資信託)なら運用会社側で両替(と似たこと)をしてくれるので、我々は円で買えるというわけ。便利だが為替変動リスクがなくなるわけではない。
米国株A社の株価が100ドルだったとしよう。
株価は動かないが、1ドル=150円だった為替レートが100円になると?
円建てに換算すると「100ドル×150円=1万5000円」だった株価が、「100ドル×100円=1万円」になり、日本円にして5000円のマイナスとなる。
これが「為替差損」だ。
■かつての円高は76円台
過去30年間の米ドル/円の推移を上のグラフに示した。
1990年代後半に144円台、2024年6月に160円超の円安局面が訪れている。
その一方で、1990年代半ばに80円台、2012年1月に76円台の超円高もあった。
為替相場のプロ、楽天証券FX・CFD事業部の荒地潤さんに分析をお願いした。
「過去を振り返ると、為替相場で円安や円高の流れが生じた場合、おおよそ3~4年間のサイクルでそのトレンドが続くという法則性を確認できます」
2016年のブレグジット(英国のEU〈欧州連合〉離脱)・ショックや2020年のコロナ・ショックなど、ショッキングな出来事がきっかけとなり短期的な円高・円安が生じることがある。
逆に横ばい(上にも下にも動かない)が長い時期もある。
2022年以降、円安傾向が鮮明になってから3年目の今。トランプ大統領が再選してから円高に変わってきた。
2025年2月~4月には「トランプ関税ショック」で相場が荒れた。
「少なくとも今後3年程度は円高が続く可能性が考えられます。
私の分析では約20%の確率で1ドル=120円割れまで進むシナリオです。
円高が4年以上に及ぶ流れの場合、約40%の確率で100円割れが現実味を帯びます」
1ドル=100円割れ。海外旅行に安く行けてうれしい人もいそうだが、我らが投資信託が……。
■株安も痛い
トランプ政権の関税政策は株安要因ともなっている。
円高と株安が続くと、S&P500をはじめとするインデックス型投資信託にはダブルパンチ。
これまでは株高と円安でウハウハだったわけで、その逆が起こる可能性あり、と。せめて、脱ぐのは円安の毛皮だけがよかった。寒くなりそうだ。
「これまでS&P500に投資していた日本人は為替相場のことをほとんど気にせずに済みました。
2022年から2023年前半にかけてS&P500は米ドル建てで見れば下落していました。
このときは円安に動いたため、円建てのS&P500(の投資信託)はそれほどの打撃にならなかったんです。
株価が上がらずとも円安で資産が増え続ける、資産形成的には幸福な期間が続いていました」
本ページ上の図の「S&P500の円建て VS 米ドル建て」を見てほしい。1995年2月末を100として比較したチャートだ。
荒地さんの言う通り、2022年頃から円安が追い風となり、米ドル建てと円建ての差が開いている。
2023年、2024年はここに株高が加わりフィーバータイムとなった。
「今後は、株価が上がっても円高で相殺される局面がありえます」
S&P500のインデックス型投資信託の基準価額に、為替変動はどのくらい影響するのだろう。
「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」で検証してみよう。
上のグラフ「『eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)』の基準価額『上げ下げ要因』」は、2024年11月から2025年2月までの期間で「基準価額の変動幅はどれくらいか」「株価要因で何%増減したか、為替要因で何%増減したか」を表したものだ。
11月と12月はどちらも基準価額が上昇しているが、11月は株価要因(上昇)が63%、為替要因(円高)でマイナス37%。
12月は株価要因(下落)がマイナス6.9%、為替要因(円安)が93.1%もあり、1487円の値上がりとなった。株価自体は下落でも、「円安さまさま」だったわけだ。
2025年1月と2月は基準価額が下落した。
1月は株価要因(上昇)で41.9%、為替要因(円高)でマイナス58.1%。
2月は株価要因(下落)でマイナス50.9%、為替要因(円高)でマイナス49.0%のダブルパンチだった。
株価と為替の綱引き状態である。
株価は長期的な右肩上がりとなることもあるが(実際に米国株がそうだ)、為替は円安と円高を繰り返してきた。
どこで円安・円高が止まるかはプロでも予想を外す。
2024年6月から7月下旬にかけての160円台が直近の円安局面の天井だったとわかるのは、その何カ月も後の「今のチャート」を見ているからである。
■タイミングは読めない
1ドル=155円を突破したあたりで「円高になったら損するから、今は投資を控えたほうがいい」という人が増えた。
円高局面が終わりそうなころに投資をはじめるのが正解と思っているのだろう。
三菱UFJアセットマネジメントカスタマー・コミュニケーション部推進戦略グループマネジャーの野尻広明さんは疑問を投げかける。
「株価にしても為替にしても、転換点を読むのは難しいと思います。
たとえば2020年のコロナ・ショックで急落しているとき『そろそろ反発だ、買うべきタイミングだ』と確信していた人はどれだけいるでしょうか。また、実際に買えた人はどれだけいるでしょうか。
振り返ってみれば『あれはチャンスだった』とわかっても、リアルタイムでの見極めは難しい」
つみたて投資のメリットの一つは「タイミングを計らなくていい」ということ。上がろうが下がろうが自動的に買っていくこと。
「つみたて投資は、長期的な視点で行うことが重要です。
これから10年、20年と続けるうちに円高と円安は何度も繰り返されると考えましょう。
今が買い時、今は避けるとき、などとタイミングを計りはじめるとなかなかはじめられなかったり、続けることが不安になりやめてしまったりすることが出てくると思います」
円高、円安は避けられない。円高局面で「どこまで円高が進むかわからない」とリスクを考慮し、円安局面で「もう少し円安が落ち着いてから」と用心していたら、いつまでもスタートできない。
■「為替株式会社」
とはいえ株価だけでなく為替の変動まで……となるとストレスを感じる人もいるだろう。その場合に提案したい、発想の転換がある。
それは「為替株式会社という考え方」。
為替レートの変動による損益はS&P500の中に組み入れられている為替株式会社という1社の株価変動だと想像する。
501銘柄の中の1社が、為替株式会社。
もちろん実在しないことは百も承知である。
円安が進んでいるニュースを見たら「為替株式会社の業績(為替差益)が伸びているのか、私のS&P500も上がるかな~」と喜ぶ。
逆に円高が騒がれているときは「為替株式会社の株価が下がっちゃったのか。ま、他の銘柄ががんばってくれるでしょ」と割り切る。
株価も為替も気にするより、一緒くたに考えてしまえば意外にスッキリするはずだ。
最後に豆知識。先ほど、投資信託は日々の為替で円換算されていると書いた。円換算する際の為替レートはどのタイミングで、どこで決まっているのだろう。
「米ドル/円は基本的に、三菱UFJ銀行のTTM(仲値)です。
月曜の15時30分までに投資信託の注文を入れた場合は、翌火曜日(祝日等の場合は翌営業日)の朝10時のレートで円換算され、『最終的にいくらで買えたか、売れたか』の基準価額が決まります」
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