( 310526 ) 2025/07/25 05:42:29 0 00 参院選で大躍進を遂げた参政党代表の神谷宗幣氏(写真:時事)
7月20日の参院選で、14議席を獲得した参政党。インテリ層を中心に「カルト」「極右」「反知性主義」などと批判を集めていただけに、その躍進に対して「裏がある」と推察する声も出ています。 しかし、評論家の真鍋厚氏は「それこそ陰謀論であり、躍進の背景を知ることが大切だ」と指摘します。緊急シリーズの第4回です。 初回:「参政党の支持者は頭が悪い」と言う人もいるが…支持されるのには理由がある! 参政党人気「理解できない」人が見誤る熱狂の“本質”
第2回:「参政党なんか支持する人は頭が悪い」と批判する人もいるが…非常に短絡的な考えだ! 「参政党人気」の深層にある深刻な孤独の“正体”第3回:「参政党支持者は頭が悪い」「おまけに差別主義者だ」と言うのは安易かもしれない…「参政党=排外主義」と一蹴する人に見えてない“真実”
参院選で台風の目となった参政党が大躍進した。
選挙区で7議席、比例代表で7議席の合わせて14議席となった。予算を伴わない法案提出に必要な11議席以上を獲得したことになる。代表の神谷宗幣氏は引っ張りだこだ。
ところが、選挙結果が出た直後から、SNSで「これほどの議席が取れるのはおかしい」「何か裏があるように思えて仕方ない」といった投稿がバズっている。
投票日の5日前にアップされ話題になった「参政党躍進の背後にロシアの情報工作」という趣旨のブログ記事とともに疑心暗鬼を呼んでいるのだ。要するに、参政党は自力で支持者を増やし票数を伸ばしたのではなく、外部からの影響工作によって拡大したという疑惑である。
■スプートニクへの出演が影響工作の信憑性を補強した
確かにロシアの情報工作に関しては、東京選挙区の候補者でトップ当選を果たしたさや氏がスプートニクというロシアのプロパガンダメディアに出演したことが報道されたことをきっかけに、ちょっとした騒動に発展したこともあり、信憑性を補強する材料になったのは間違いない。
「ヴォストーク」(ロシア語で「東」を意味する)という会社に参政党から巨額の支出があったというウソのような本当の話も臆測を生んだ。
しかしながら、まるで他国による介入によって政党の支持率が膨れ上がり、かつ選挙結果にまで影響を及ぼすかのようなミスリードを誘う主張は厳に慎むべきだろう。それこそ何の根拠もない陰謀論になるからである。
サイバーセキュリティの専門家で、デジタル影響工作に詳しい一田和樹氏は、今回の件を受けて、海外からの干渉で想定が必要な5項目を挙げている。
①干渉の影響の評価は難しく、干渉の証明も難しい、②近年の干渉の多くは効果がないことが多い、③報道は過剰になる傾向がある、④過剰な報道は社会不安を煽る、⑤暴露されることで、影響を与える作戦もある――だ(海外からの干渉について想定すべき5つのこと/2025年7月17日/INODS UNVEIL)。
とりわけ②と⑤は、一般的にはあまり知られていない事実かもしれない。例えば、「カナダで公開された報告書では、干渉そのものの影響よりも、メディアによる不完全な形でのリーク情報の公開によって国民に不信感と不安が広がった影響が大きかったと評価している」と述べている。後述するが、このことは非常に重要である。
参院選における海外からの干渉を指摘する「参政党躍進の背後にロシアの情報工作」という趣旨の記事は、もともと有名ブロガーが書いたものであったが、それがウェブメディアに取り上げられ、政治家までが言及することで次第に浸透していった経緯がある。
その内容をかいつまんで言うと、ネット上では「認知戦」という偽の情報や心理操作によって、相手の認識や行動を意図的にコントロールする戦略が展開されており、参院選を前にロシアによる大規模な情報工作が行われていると主張するものだ。
ロシア製ボットがデマなどに基づく政府批判や石破政権批判などの動画や投稿を百万再生単位でバズらせているという現状について、生成AIやボットの動向などの分析を踏まえながらレポートしたものであり、結果的に「日本人ファースト」など排外主義をあおる投稿が激増し、参政党などに支持が集まるようになったと結論付けている(ただし、末尾に調査手法については回答できないとある)。
■ネットでの影響工作自体に驚きはないが…
SNSをはじめとするネットでの影響工作に関しては、一定程度は認知されており、それが行われていること自体に驚きはないだろう。
だが、差別的な主張が前述のボットによって広範囲にブーストされ、仮に多くの人の目に触れたとしても、それが実際に参政党の支持者の拡大につながっているかどうかや、投票行動にまで影響を及ぼしているかどうかはまったく別次元の話である。
けれども、この「認知戦」を土台にした「参政党支持層はロシアのボットに踊らされている」というわかりやすい物語は、参政党の大躍進に対する釈然としない思いを抱えていた人々の心をものの見事に動かした。
今もなお、真偽不明の影響工作の神話は独り歩きしており、それをうのみにした人々が「海外からの選挙介入が本格化している」「日本がやばい」「日本人はハメられた」等々と半ば戦々恐々としている。
言うまでもなく、これも陰謀論である。陰謀論研究の第一人者である政治学者のジョゼフ・ユージンスキは、「適切な認識論的権威がまだ調査を行なっていない、あるいは結論に到達していないケースにおいて、真実を確認しないまま、これは陰謀であると主張するのも陰謀論だ」と述べた(『陰謀論入門 誰が、なぜ信じるのか?』北村京子訳、作品社)。
ユージンスキはその好例として、ドナルド・トランプがロシアと共謀して2016年の大統領選挙を不正に操作したと主張する説を示す。「ムラー報告書の公表以前には陰謀論であり、またムラーによる調査結果を考慮したうえでも、今後適切な認識論的権威によって報告書の内容が覆されない限りは、陰謀論であり続ける」と。
いくら排外主義をあおる投稿が急増したところで、それが本当に人々の支持傾向を変え、選挙結果までを変えたかどうかは、信頼に足る複数の調査機関などの検証を経ない限りは、「日本人が認知戦でコントロールされて、極右政党に誘導されている」という認識は陰謀論の域を出ないのだ。
■自分たちの国の民主主義が蝕まれている…?
前出の議論に戻るが、「偽の情報が拡散され、それが政党の支持拡大や選挙結果に影響を与えているかもしれない」という情報への暴露は、自分たちの国の民主主義が蝕まれているような感覚を強化する方向に作用する。いわゆる「パーセプション・ハッキング(Perception Hacking)」による効果だ。
偽の情報に影響を受けた事実がなかったとしても、それがあたかも影響したかのように報道されることによって、情報工作を行う側は同じ効果を得られることなどを指す専門用語である。「騙す必要はない。騙されたかもしれないと思い込ませればよい」というわけだ。最初からこの暴露による政治的な混乱を狙っている場合すらある。
「彼らの影響力を過大評価することは、『事実』という概念そのものを侵食し、選挙結果や公共機関への不信を植え付ける効果を持つ可能性がある」(Adversarial Threat Report/2024年5月/Meta)――これはメタが公表している敵対的脅威に関するレポートの文章だが、SNSに扇動された人々、誤った情報を信じた人々が特定の政党を押し上げたという理解がまさにこれに当たる。それがエスカレートすれば、「選挙が盗まれた」という陰謀論を助長しかねない。
そうなると、政治家をはじめポピュリズム政党の支持者を正当な存在とはみなさなくなる傾向を促進することになる。これは一種の「他者化」といえるだろう。
他者に否定的な属性を投影し、悪魔化するしぐさのことで、自己の正当性を確認することとセットになっている。移民を排斥する極右が例示されることが多いが、ポピュリズム政党の支持層を「バカ」「情弱」「知性の劣化」などと人間性の問題にすり替えることも同様なのだ。
それはマーケティングの過大評価と相まって、極度の他者化を推し進める口実になってしまう。だが、選挙はそんな生やさしいものではない。参政党も地道な組織づくりが基盤になっており、全国に287ある政党支部が自主的に活動してきたことが飛躍につながっている。また、自分たちの声が肯定的に受容され、居心地の良いホームとなる「コミュニティの誘惑」も大きな原動力となっている(「参政党人気」の深層にある深刻な孤独の“正体”)。
パーセプション・ハッキングの弊害が深刻化すれば、政府や与党はSNS規制の理由として影響工作の可能性を利用し、反ポピュリズムの立場の人々は、とにかく敵対勢力を根絶する機会にしようと躍起になることが懸念される。皮肉な話だがそれによって犠牲になるのは民主主義そのものである。
■レッテル貼りと規制がコミュニケーションを閉ざす
さらには、ポピュリズムが台頭する背景要因である「自国は衰退している」と感じる人々が7割に上るといった社会状況を矮小化することにもつながりかねない(参政党人気「理解できない」人が見誤る熱狂の“本質”)。
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