( 310866 ) 2025/07/26 07:04:27 0 00 参院選で「歴史的な後退」にもかかわらず、続投を表明している石破首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
参院選で自民大敗の中、大躍進したのが国民民主党と参政党だ。国民民主党の玉木代表は選挙結果を受けて、立憲との選挙協力に見切りをつけ「旧民主党系はもう限界」と宣言、全選挙区擁立を表明した。こうなれば見えてくるのが「政権交代」だ。自公からの政権交代は具体的にどのようなシナリオで描けるのか。プレジデント元編集長が政権交代への3つのシナリオを解説する。キーワードは欧州でも起きている「多党制民主主義」だ。
7月20日に投開票された参議院選挙は、日本の政治地図を大きく塗り替える結果となった。国民民主党と参政党が共に躍進し、既存の政治勢力に揺さぶりをかけた。
国民民主党は比例代表で約762万票を獲得、参政党も約742万票を集め、両党は野党第一党であった立憲民主党の約739万票を上回った。自由民主党は約1208万票にとどまり、前回選挙から約545万票も失う歴史的な後退を経験した。石破首相の不人気ぶりは際立っており、大敗でも居座りを表明する石破首相をもはや見限ったといっていいだろう。
ただ、この躍進の背景には、国民民主党の玉木雄一郎代表と参政党の神谷宗幣代表が展開した訴えがあったことも忘れてはならない。両代表は、バブル経済崩壊後の「失われた30年」の責任は長期政権を担ってきた自由民主党と公明党にあると断じ、経済政策の抜本的な転換を共通して主張した。
玉木代表は所得税減税による手取り増加を、神谷代表は減税と積極財政への転換を訴え、多くの有権者の共感を獲得。両党は、政府が物価高対策として打ち出した給付金政策を対症療法に過ぎないと批判し、恒久的な減税こそが国民生活を豊かにする道であると力説した。
今回の参議院選挙の投票率が58.51%と前回から6.46ポイント上昇した背景には、両代表の演説に触発され、普段、選挙へ行かない層が投票した影響も無視できない。玉木代表は有権者の行動が政治を変えると訴え、神谷代表は「投票率80%」という具体的な目標を掲げ、政治参加を促した。
演説内容には明確な相違点も存在した。玉木代表が演説時間の大部分を経済政策の説明に費やしたのに対し、神谷代表は経済問題に加え、選択的夫婦別姓への反対、外国人労働者問題、グローバリズムへの懐疑といった、より広範なテーマに言及した。
玉木代表の戦略は、保守やリベラルといったイデオロギーの垣根を越え、現政権に不満を持つ幅広い層の支持を集めることを目的としていたと見られる。
神谷代表の戦略は、経済政策の転換を求める層に加え、石破政権下で自由民主党から離れた保守層の受け皿となることを明確に意識したものであった。両党の戦略は成功し、自由民主党や立憲民主党に失望した有権者の票の多くを吸収した。
この結果を受け、国民民主党の玉木代表は、立憲民主党との選挙協力に見切りをつける考えを表明した。
玉木代表は記者会見で「自民党への不満を受け止めるには、旧民主党系はもう限界だ」「参政党が立派なのは、全国に候補者を立てたことだ」と述べ、次期衆議院選挙では全国の選挙区に候補者を積極的に擁立する方針を打ち出した。
過去の選挙において、国民民主党は立憲民主党に配慮し、多くの選挙区で候補者擁立を見送ってきた。今回の参議院選挙でも、立憲民主党の公認候補が存在し国民民主党の候補者がいなかった選挙区は18にのぼる一方、逆のケースはわずか9選挙区であった。
このような不平等な協力関係を強いられながら、比例代表で立憲民主党を上回る票を獲得したという事実が、国民民主党の自信となり、単独路線への舵を切る大きな要因となった。
国民民主党と参政党がそれぞれ全選挙区に候補者を擁立する戦略は、両党が全国政党として飛躍するための重要なステップである。選挙区に候補者を立てることは、党の知名度を向上させ、比例代表の得票を伸ばす上で極めて有効な手段だ。
しかし、この戦略は大きなジレンマを内包する。
両党が同じ選挙区で競合すれば、自由民主党・公明党政権への批判票が分散し、結果として与党候補を利する「共倒れ」のリスクが高まるからだ。
参議院選挙の群馬選挙区の結果は、この危険性を象徴している。群馬選挙区では自由民主党候補が当選し、参政党候補が約2万8000票差の次点で敗れた。立憲民主党候補は参政党候補からさらに10万票近く離された3番手であった。
仮に野党候補が一本化されていれば、自由民主党候補に勝利できた可能性を否定できない。国民民主党と参政党が、それぞれ支持を拡大しながらも、お互いに票を奪い合う構図が続けば、政権交代は遠のいてしまう。
両党がこのジレンマを克服し、政権獲得という目標を達成するためには、単に候補者を乱立させるだけではない、より高度で戦略的なアプローチが不可欠となる。
政権交代への道筋を考える上で、欧州の多党制民主主義の経験は多くの示唆を与える。Giuseppe IeraciとFrancesco Poropatが発表した論文「Governments in Europe (1945-2013). A Data Set」は、第二次世界大戦後の欧州26カ国における600以上の政権を分析し、政権交代の多様なパターンを明らかにしている。
この研究が示すように、欧州の多くの国では、複数の政党が連立を組んで政権を運営することが常態化している。
選挙で第一党になった政党が必ずしも政権を樹立するわけではなく、選挙後の交渉を通じて、第二党や第三党が中心となって連立政権を形成するケースも珍しくない。国民民主党と参政党が政権を目指す場合、いくつかの具体的なシナリオが想定される。
第1のシナリオは、選挙前に協力体制を構築することである。これは単なる候補者調整にとどまらず、共通の政権公約を掲げ、有権者に政権交代後の明確なビジョンを示す「政権選択」型の選挙協力を意味する。ただし、このシナリオのハードルは極めて高い。両党は経済政策の方向性で共通点が多いものの、外国人政策や安全保障政策、歴史認識などでは隔たりがあり、政策のすり合わせは困難を極めるだろう。
第2のシナリオは、選挙後の連立、いわゆる「ポスト・エレクション・コアリション」である。このシナリオでは、国民民主党と参政党は選挙戦ではそれぞれ独自に戦い、議席の最大化を目指す。選挙の結果、自由民主党と公明党が過半数を割り込んだ場合、両党がキャスティングボートを握ることになる。
国民民主党と参政党が連立を組み、無所属議員、諸派議員、公明党などを取り込むことで過半数を形成し、政権を樹立するのだ。このモデルは、ドイツやオランダなど欧州大陸の国々で広く見られる政権形成のプロセスに近い。
このシナリオのハードルは、選挙後に複雑な連立交渉をまとめ上げる高度な政治力と、イデオロギーや利害の異なる政党間で妥協点を見出す交渉力である。連立政権の維持もまた容易ではない。前述の論文によれば、イタリアでは政権交代が頻繁に起こり、政権が極めて短命である。連立内部の対立が政権の不安定化に直結するリスクは常に存在する。
第3のシナリオは、自由民主党との部分連立を通じた限定的な政権参加である。自由民主党・公明党が過半数を割り込み、政権運営に行き詰まった場合、自由民主党が政権基盤の安定化のために国民民主党または参政党に連立への参加を呼びかける可能性が考えられる。その際、国民民主党や参政党は、自党が掲げる大型減税などの看板政策の実現を条件に、連立に参加する。
このシナリオは、政権内部から政策を実現できるというメリットがある一方、巨大与党である自由民主党に政策や党運営の主導権を握られ、埋没してしまうリスクを伴う。また、自由民主党との連立は、両党の支持者から「有権者への裏切り」と見なされ、支持を失う原因にもなりかねない。
国民民主党と参政党の躍進は、日本の有権者に新しい政治の選択肢を提示した。政権交代への道は決して平坦ではない。両党間の競争による票の分散、政策調整の困難さ、そして連立政権の形成と維持の複雑さといった、数々の高いハードルが待ち受けている。両党がこれらの課題を乗り越え、成熟した政党として政権担当能力を国民に示すことができるかどうかが、今後の日本の政治の行方を大きく左右するだろう。
執筆:ITOMOS研究所所長 小倉 健一
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