( 310871 ) 2025/07/26 07:11:33 0 00 参政党がBPOへの申し立てを表明したTBSの「報道特集」。その報道姿勢は子どもっぽい正義感を感じさせるものだったが、同時に選挙報道におけるテレビの可能性も感じさせた(画像:TBSのホームページより)
7月20日に投開票が行われた参議院選挙の結果については、おおむね「与党である自民党・公明党の敗北」と「国民民主党・参政党の躍進」と結論づけられることが多いように思う。なかでも、2024年の兵庫県知事選以降、知名度が高まった「SNS選挙」で党勢の拡大を加速させたのが、参政党だったのではないか。 参政党はSNS選挙をいかにして勝ちきってみせたのか。動画関連のIT企業・エビリーのYouTubeデータ分析ツール「kamui tracker」を用いて、前後編に分けて検証してみたい。
前編:動画視聴回数では実は参政党に肉薄、それでも自民党の「YouTube戦略」が失敗に終わった決定的要因 (外部配信先ではハイパーリンクや画像がうまく表示されない場合があります。その際は東洋経済オンラインでご覧ください)
■「たたかれたことで党員が燃えた」
参政党が躍進した裏側には、前編で触れたようにYouTubeで人々と交流を深め、SNS選挙を制したことがある。だが、すでに多くの専門家が指摘しているように、テレビをうまく活用できたことも大きい。
6月に梅村みずほ参院議員が日本維新の会から鞍替えし、参政党は「所属議員数5人以上」という国政政党の要件を満たした。これにより、参院選に関連して開かれた党首討論会に“8番目の政党”として滑り込んだ。参政党が自民党や立憲民主党などの大政党と並んでテレビなどに映ったことで、「真っ当な政党」「メジャーな存在」とのイメージづけが進んだ。
選挙戦中盤には「外国人問題が争点として浮上」というニュースとともに、参政党がやたらとテレビのニュース番組などで取り上げられた。X(旧ツイッター)での選挙関連の投稿の中で「外国人問題」にまつわるものが急増したというのだが、この取り上げ方には問題が多かったと思う。今のXの状況を理解していなさすぎだ。
Xはもはや“荒れたSNS”になり、とくに差別問題のようなとがったテーマは攻撃的な投稿が多くなりがち。決して多くの国民が関心を持ったからではなく、左右両極端に振れた一部の人々の投稿が増えただけだ。また、単純にオーバーツーリズムや不動産価格の高騰に悩む人もいたはずで、外国人差別をする人たちが急に増えたとはいえない。
問題のある取り上げ方の最たる例が、7月12日にTBS系列で放送された「報道特集」だった。はっきり言って扱い方が雑で、ヘイトスピーチと参政党を強引に結びつけて問題視する構成だった。参政党がBPO(放送倫理・番組向上機構)に訴えると言い出したことも含めて、ネット上で騒動が続いた。
参政党の神谷宗幣代表は、一連の騒動を振り返って「たたかれたことで党員が燃えた。もしたたかれていなかったら、ここまで伸びなかった」と語っている。
「報道特集」は参政党を批判したつもりが、まんまと彼らに利用されたのだ。もともとマスコミ嫌いの人たちが同党を支持する傾向があり、そういう人たちに参政党を注目させ、支持をますます集める結果になったのではないか。
選挙報道としてあまりにも「報道特集」は幼すぎた。子どもっぽい正義感で突っ走る報道が世の中にどのような影響を与えるかくらい、今どき想像しなくてどうするのか。スタッフ諸氏には猛省を望む。
■テレビの影響力はまだまだ健在だ
ただ、この件はあらためて選挙でのテレビの影響力を感じさせた。SNS選挙が勢いを増す中で「オールドメディアは役に立たない」と言われたが、そんなことはまったくないのだ。
ましてや今回の参院選では、長らく過度に自重してきた選挙報道に対して、テレビ局も新聞社も積極的に取り組んでいた。私は何度か「マスメディアは選挙報道を頑張るべき」と訴えてきたので、思いが通じた感がある。
また、テレビ局も新聞もYouTubeでの動画配信に力を入れていた。
前編で紹介したYouTube視聴時間の投稿者別の分類の中に「マスメディア」があったが、中身はTBSや日本テレビなどのキー局だけでなく、MBSや読売テレビといった在阪準キー局、そして東海地区、北海道、福岡県などのローカル局も並ぶ。さらに、ニコニコニュースやABEMAのようなネットメディアのほか、産経、中日、朝日など新聞系のYouTubeチャンネルも上位に入っている。
選挙情報がネットを中心に回るようになったのなら、マスメディアもネットで発信すればいい。そうした観点から、今回、報道各社がネットでの情報発信を頑張っていたのは頼もしいことだ。
■マスメディアはまだまだ踏み込めるはず
ただ、マスメディアの選挙報道は全体の動向や政党別の情報が多かった。それも大事だが、各選挙区の候補者の人となりも重要だ。
有権者にとって役立つのは、政党と同じくらい、候補者それぞれが何を訴え、信頼できる人物かどうかである。動画メディアならではの、候補者1人ひとりが動く姿を見せてほしかった。党首討論会はあったが、選挙区ごとに立候補者を議論させることも必要ではないか。
結局、昨年の衆院選と同様、私にとって一番役に立ったのはYouTubeチャンネル「ReHacQ」が配信した、東京都選挙区の候補者討論会だった。32人のうち16人を集めてプロデューサーの高橋弘樹氏が議論を仕切っていた。そこではベテランの与党議員も新興政党の新人候補も平等だった。
こういう場は本来、マスメディアが作るべきではないだろうか。東京都選挙区の立候補者32人全員を集めて議論させるぐらいの大胆な番組を見たかった。
選挙報道では、テレビ局のキャスターのご意見を聞きたいわけではない。候補者1人ひとりをクローズアップして見せてほしい。もしおかしな政党がいるとしたら、そうした丁寧な報道によって暴くこともできるはずだ。
境 治 :メディアコンサルタント
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