( 311026 )  2025/07/27 05:12:04  
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TBS CROSS DIG with Bloomberg 

 

電撃的な合意に至った日米の関税交渉ですが、日本による5500億ドル(日本円にして80兆円)の投資のあり方は一体、どうなるのか?交渉の当事者でもある商務長官のハワード・ラトニック氏へのBloombergによる独占インタビューです。 

 

■利益の9割はアメリカ、1割は日本に 

 

インタビュアー: 日本が5500億ドルを投資するという革新的な資金調達の仕組みについてお聞かせください。この基金は具体的にどのような形になるのでしょうか? 

 

ラトニック長官: この基金は非常に画期的なものです。簡単に言えば、アメリカがプロジェクトを選び、日本がその実行に必要な資金を提供するという形になります。例えば、アメリカで抗生物質を製造したいとしましょう。 

 

現在、アメリカ国内では抗生物質をほとんど製造していません。もし大統領が「アメリカで抗生物質を作ろう」と決定すれば、日本がそのプロジェクトに資金を提供します。 

 

インタビュアー: なるほど。資金提供を受けたプロジェクトの利益配分はどうなるのでしょうか? 

 

ラトニック長官: 運営は企業に任せ、得られた利益はアメリカの納税者に9割、日本には1割が配分されます。これは実質的に、日本がこの公約によって関税率を引き下げたことを意味します。「トランプ大統領やアメリカが望む、国家の安全保障上重要なものをアメリカ国内に建設するなら、それを支援し、あなたの味方になります」という日本の意思表示なのです。 

 

インタビュアー: 石破総理はこれを「融資保証」と表現していますが、それ以上のものということでしょうか? 

 

ラトニック長官: もちろん、それ以上です。これはエクイティ(株式)や融資保証など、多様な形態を含みます。日本は、アメリカが選定したプロジェクトを実現させなければなりません。 

 

例えば、アメリカが1000億ドル規模の半導体工場をアメリカ国内に建設したいとすれば、日本はそのプロジェクト全体に、エクイティやローンなど、いかなる形であれ1000億ドルを提供する必要があります。 

 

インタビュアー: それは日本企業が資金を出すということですか? 

 

ラトニック長官: いいえ、違います。誰でもいいのです。日本はあくまで「資金提供者」であり、「運営者」ではありません。ですから、日本の特定の企業が工場を建てるという話ではないのです。 

 

皆さんが混乱しているのは、トヨタのような日本企業が来て工場を建てるような話ではない、という点ですね。これは文字通り、アメリカがジェネリック医薬品、半導体、重要鉱物などをアメリカ国内で作りたいと決めた場合に、日本が資金面で支援するというモデルです。 

 

インタビュアー: こういったモデルは、これまでにも存在したのでしょうか? 

 

ラトニック長官:もちろんです。だから 私が政権に加わったのです。このアイデアを私が1月に思いつきました。日本はドナルド・トランプが望むように「完全に」市場を開放するつもりはないので、別の方法をとる必要がありました。 

 

そこで私は4000億ドルの基金を提案し、日本が大統領とアメリカに対し、国家の安全保障に貢献する物を作る上での資金を提供・支援するというモデルを作り上げました。 

 

 

■「日本は15%という関税率を“買った”」 

 

インタビュアー: 石破総理が辞任するかもしれないという報道もありますが、この取引は日本の国内政治を超越するものでしょうか? 

 

ラトニック長官: もちろんそうです。これは極めて重要な合意です。日本の自動車会社に何が起こったか見てください。本日、(日本の自動車会社の)株価は10%以上、上昇しました。25%の関税率はドナルド・トランプの言う「アメリカで生産せよ」を実現させます。しかし、15%はまさにギリギリのラインです。日本の自動車メーカーはまだ日本で生産できます。 

 

そして、日本が望んだのは、この15%という関税率を“買う”ことでした。一部の車は日本に留まりつつ、もちろん大量生産はアメリカで行うという線引きです。日本が行ったのは投資することで、ドナルド・トランプに対しアメリカへの投資手段を与えたのです。 

 

インタビュアー: 自動車に対する15%の関税は日本にとって大きいですね。自動車関税全体が25%から15%に引き下げられるとお考えですか? 

 

ラトニック長官: いいえ。例えばトヨタは15%、GMは25%のままになります。GMが25%になることはありませんが、これはあくまで日本に対するものです。現在、ヨーロッパは25%、韓国も25%を支払っています。日本はいわば権利を買い、ドナルド・トランプに巨額の投資をしたことで、関税率が15%に引き下げられたのです。 

 

そして、ドナルド・トランプが考えるアメリカにとって最も重要なプロジェクトに投資できるようになります。ヨーロッパや韓国がどうなるか、見てみましょう。しかし現状でドナルド・トランプはEUと韓国に圧力をかけています。この圧力はかなり強いです。 

 

■EUとの交渉で日本はモデルになりうる 

 

インタビュアー: 日本のケースはEUにとってモデルになりますか? 

 

ラトニック長官: そうかもしれません。交渉次第でしょう。EUは市場を開放する気があるのか、という点にかかっています。ヨーロッパが1兆ドルを出してまで、関税率を15%以下にしようとはしないでしょうね。15%以下というのは自動車では有り得ないと思います。 

 

大国がそんなに低い関税は無理だと思います。小国では有り得るかもしれませんが、それは大統領が決めることです。しかし大国は苦戦するでしょうね。 

 

インタビュアー: 長官がEUと毎日交渉しているのは承知していますが、EUが受け入れなければならない最低関税率は日本と同じ15%なのでしょうか? 

 

ラトニック長官: 世界中の誰もがドナルド・トランプを注視しています。私はテーブルセッターとして物事を整理し構造化します。大統領は後ろにあった大きなボードの写真を投稿しましたが、もちろんそのボードは私が作ったものです。しかし実際はアメリカ合衆国の首席交渉官、ドナルド・トランプがそこに座っているのです。 

 

インタビュアー: 長官は「解放の日」のボードも作成し、各国の関税率を目にしました。昨夜のボードも作成されましたが、ヨーロッパの場合はどうなるのでしょうか?もし一律15%の関税率なら、ヨーロッパは何を購買すれば大統領の懸念を払拭できるのでしょうか?LNGでしょうか?それとも農産物でしょうか? 

 

ラトニック長官: ヨーロッパの経済規模は20兆ドルです。アメリカは30兆ドルを僅かに下回り、中国・EUは約20兆ドルと規模が似ています。もしEUが大統領に「市場を本当に開放します」、つまりアメリカ車を受け入れますと言えば、それは変わるでしょう 

 

日本がしたことを考えてください。彼らは「アメリカの規格でアメリカ車を受け入れます。だから、わざわざ違う車を作る必要はありません。デトロイトで作った車を船に乗せて送ればいいのです」と言ったのです。 

 

もしヨーロッパがそれを、本当の意味で受け入れ、アメリカ製品をヨーロッパで本当に受け入れれば、それはアメリカにとって何千億ドルもの輸出機会になります。それは大統領を動かすでしょう。なぜなら、アメリカにとってその機会は非常に大きいと言うでしょうから。 

 

インタビュアー: 来週、その合意に至ると思いますか?EUは合意に至らなければ報復すると言っていますね? 

 

ラトニック長官: 何ヶ月も協議してきましたが…。大統領は彼らに手紙を書き、「合意が成立しなければ30%を課す」と言ったのです。もちろん、ドナルド・トランプは真剣です。ディールがなければ関税率は30%です。EUは圧力を感じますよね。そして「これが代替案だ」と話します。EUは確実に合意をしたいのです。 

 

 しかし、ドナルド・トランプは合意をしたいのでしょうか?トランプはEUの市場開放を評価するでしょうか?EUは「完全に」開放するでしょうか? それこそがトランプが求めているものです。私はEUはそうすると思っています。「完全に」市場を開放すると。 

 

これはアメリカがこれまでに経験したことのないことです。ドナルド・トランプが世界中の市場を開いているという考え方です。アメリカの牧場主や漁師のためにも、私たちの農家にとっても、誰も見たことのない素晴らしい機会です。 

 

私たちはストックホルム症候群にかかっていますよね。世界は私たちをあまりにも長く抑圧してきたので、他国がアメリカにするように自由に輸出できる世界を想像すらできません。しかし、その世界は到来します。それがドナルド・トランプが「黄金時代」と呼ぶものです。他国がアメリカを扱うように、アメリカが世界に輸出できる能力のことです。 

 

 

■中国との交渉は「何がラインを超えて、何が許容できるか」 

 

インタビュアー: 来週は一時的にヨーロッパから離れて、中国とのストックホルム会談に向かわれるのですよね。中国を巡っては、NVIDIAのジェンスン・フアン氏がトランプ大統領と話をしました。長官もその場にいたと思いますが、フアン氏はどのようにしてH20チップの中国への再販の許可を得たのですか? 

 

ラトニック長官: はい。H20はバイデン政権下で開放されていました。バイデン政権下で自由に取引されていましたが、私たちが介入し、「待て待て、それは強力なチップだ」と、4月に禁止しました。そして今は磁石のことがあります。 

 

生産者への磁石の供給を確保しようとしていますが、これには輸出規制がかかっています。しかし、中国が磁石を供給すれば、H20の規制も解除されます。ただ、これは妥当だと思います。前回は自由に販売できたので。 

 

インタビュアー: H20は強力なチップと言っていましたが、中国がH20を入手することに安全保障上の懸念はありますか? 

 

ラトニック長官: H20は世界で3番目に優れたチップでしたが、今はNVIDIAのBlackwellが最高なので4番目です。H200、H100ときてH20は4番目です。私は大統領が、中国との関係が良好であれば購入できるようにすると決定したのだと思います。 

 

いまライセンスメカニズムを導入し運用を開始しています。大統領は中国が購入できるように決定しましたが、それは中国が我々との合意を履行し、アメリカの生産者にレアアースを供給することとのトレードオフになります。 

 

インタビュアー: 来週、中国のカウンターパートと会う際は何を議論する予定ですか?輸出規制の緩和、あるいはそれ以上のことが議題に上がるのでしょうか? 

 

ラトニック長官: 米中は共に巨大な経済大国であり、お互いにラインを意識した上で貿易すべきだと考えています。 

 

中国はアメリカの農産物や野菜を買いたがっています。彼らは何でも栽培できるわけではなく、アメリカの穀倉地帯のようなものもありません。だから中国はそれらの製品を買いたがっています。そして中国が作る多くのものは、アメリカが買いたがるものであり、棚に安価なものが並ぶことを望んでいます。 

 

だから、ラインに抵触せず、市場をより良く開放し、中国でよりアメリカ製品を販売できるようにさせよ、ということです。そして、競合としてのラインはどこにあるのか。極超音速ミサイルや最高のチップは売りません。中国は競合なので、それはあり得ません。私たちが本当に議論するのは、そのラインがどこにあるかです。 

 

H20はそのラインに抵触するか微妙な問題であり、議論が必要です。しかし、もちろん安価なベビー服を買いたいですよね?もろろんでそうです。だからこれは完全に理にかなっています。だから市場を開いていきましょう。ラインを超えて市場を開くことはありません。そして何を議論するかというと、そのラインが何を超えていて、何を許容できるかです。 

 

ただ、中国がアメリカに売って、その逆が起きないことをしたいのか、ということです。大統領と中国の習国家主席はさらなるビジネスをする事で合意しました。だから私たちは市場をもっと開放することについて話します。理にかなったことであれば。そして本当に議論するのは、取り組むべき領域なのか、イエスかノーなのか、という点です。 

 

インタビュアー: 最後に一つお聞きしたいのですが、商務省なので直接対応されるか気がかりなのですが、あなたの部下が現在、中国から出国禁止になっていますが、何か最新情報はありますか? 

 

ラトニック長官: 信じられないですよね。私たちの職員の一人が、中国籍の人物で特許担当として働いています。彼が帰国したら逮捕され、パスポートを取り上げています。国務省に対応を任せていますが、これはとんでもない行為です。本当に言語道断です。 

 

TBSテレビ 

 

 

 
 

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