( 311081 ) 2025/07/27 06:18:28 0 00 落ち着く店は人それぞれ
昨今「コスパ(コストパフォーマンス)」と「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉をよく聞くようになった。コスパは「払った金額より得られる満足度が高い」、タイパは「時間を節約して高い満足度を得る」といった意味合いだ。だが、これらの言葉が流行することに違和感を覚える人もいる。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、その真意を綴る。
* * * 飲み会の幹事が「この店はコスパがいいんですよ~」などと得意げに言うことがありますが、いい年したオッサンになると「別にそんなもんどうでもいい」と思うようになります。さすがにぼったくり店はイヤですが、「盛りが良い」「この高品質にしては安い」ことはそれほど重視しなくなる。
多少値段が高く量が少なくとも、落ち着いた雰囲気や店員の感じが良い店を求めるようになる。何よりも「コスパ」という言葉には、「得をしたい」という剥き出しの欲望を感じてしまうんですよね……。予約してくれたのは有難いものの、コスパについては触れないでほしいと思います。グルメサイトの口コミでも「コスパ」という言葉が頻出しますが、そもそも外食はファストフード等の「個食」以外はコスパは悪いものなんですよ。
それこそ、しゃぶしゃぶ食べ放題やらバイキングなど、少しでも多く食べて元を取ることを考える人々が食べ物に群がって、山盛りの皿をトレーに乗せて歩いている姿は、なんともさもしい。無料だから、と牛丼屋で紅生姜を大量に乗せる姿も見ていて気持ちいいものではない。紅生姜はスーパーで買ったら一袋98円とかしますが、70円分ぐらいを平気で乗せ、さらにはSNSで「紅生姜丼じゃー!」とアピールするために撮影する姿にも嫌悪感を覚えます。
そういったこともあり、何かにつけて「コスパ」を重視する人との会食は、そのさもしさが漂うため、好みません。だって、飲み会なんてものは「その場で得られる人間関係や楽しいものに対してお金を払う」というものだと考えているから。ただ単に量と味に対するコスパを重視するのであれば、「行かないのが最高のコスパ」となるのでは。お金を使いたくないのであれば、閉店間際のスーパーで4割引きの刺身を買い、備蓄米とともに食事にすればいいんですよ。他人との会食や飲み会に「コスパ」の概念はそぐわない。
そして「タイパ」ですが、ネットで動画視聴するときなんかに使われることが多い言葉です。2倍速にして、本来2時間の映画を1時間で最後まで視聴するような行為ですね。しかし、映画ってものは「間」が重要だと思うし、セリフが早口になることも案外不快。だったら「ネタバレ」をすでに明言している映画レビューサイトの文章を読めばいいのでは。それならば2時間の映画の概要を5分ほどで知ることができるでしょう(実際にそうしている人も多いかもしれませんが)。
あとは「切り抜き動画」もタイパが良い、と言われます。しかし、切り抜かれた側は時に自身の動画へのアクセスが増えて喜ぶことはあれど、「私の発言が切り取られ、真意が伝わらない」なんて文句を言いたくなることもしばしば。
「コスパ」「タイパ」という言葉が好きな人は、自分のことを合理的だと思っているかもしれませんが、はたから見ると合理的判断ができていないこともしばしば。かつて、ソフトバンクモバイルが会員向けに吉野家の牛丼を1杯無料で食べられるキャンペーンをしたのですが、駅と直結した店に大行列ができて、他の駅利用者に迷惑をかける。地方のロードサイド店には、吉野家に行くための渋滞が発生する。それで1時間待ちだったりするわけで、「400円のために1時間無駄に使うってコスパもタイパも悪くないですか?」と思います。
多分、人生って小金をケチるより、収入をいかに上げるかを考えた方がよっぽど得をすると思います。だって、月収が今25万円だとしたら、それを30万円に上げることは決して不可能なことではないはず。転職や副業をすれば差額の5万円は稼げるでしょう。しかし、そこで「行列に並ぶ」「コスパを重視する」では、可処分所得は増えません。
ましてや「タイパが大事ですっ!」なんて言ってる人が映画を2倍速で見た後に浮いた1時間で何をやるかといえばどうせスマホでゲームしたりして無為な時間を潰すだけでしょう。コスパとタイパを重視する人は、収入を上げることをまず考えるべきでは。その後に節約をすればいいのです。その方がコスパもタイパも優れています。
【プロフィール】 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。
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