( 311266 )  2025/07/28 05:22:08  
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参議院選挙の開票結果や出口調査で与党の厳しい情勢が伝えられるなか、自民党本部で記者の質問に答える石破茂総裁。2025年7月20日撮影(EPA/ Franck Robichon / POOL/Anadolu via Getty Images) 

 

2025年という常軌を逸した年から早く抜け出したいと願っているセントラルバンカーのリストがあるとすれば、その最上位に名前があるのは日本銀行の植田和男総裁だろう。 

 

いや、米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長のほうがもっとひどい年を送っているという意見もあるかもしれない。何しろ、ドナルド・トランプ米大統領から解任すると脅されているのだから。24日にはトランプがじきじきにFRB本部の「視察」を行い、パウエルはヘルメットをかぶって同行するハメになった。 

 

しかしFRBの場合、政策決定の筋書きは経済状況からおのずと定まりつつある。そもそも、FRBは利下げをすべきだという主張は経済的な根拠があって言われているわけではなく、たんに“トランプワールド”への忠誠心から唱えられているにすぎない。現実には米国の6月の消費者物価指数(CPI)はエネルギーと食品を除くコア指数の上昇率が2.9%に加速しているし、関税の影響で物価はさらに押し上げられる公算が大きい。そんななかで利下げをすれば「債券自警団」を刺激してしまい、米国債の利回り上昇を招きかねない。 

 

それに比べて、日銀の植田のチームは30~31日の金融政策決定会合ではるかに難しい判断を迫られるだろう。まともな日銀ウォッチャーはほぼ全員、政策金利の据え置きを予想している。だが日銀はおそらく、政策金利を0.25ポイント高い0.75%に引き上げたくてうずうずしているに違いない。そうすることで、金融政策の「正常化」路線はなお健在だと市場に知ってもらいたいのが本音のはずだ。 

 

植田には、日銀はいま、2007年のような岐路に立たされているのではないかと案じるもっともな理由がある。同年、日銀は政策金利を現在と同じ0.5%までどうにか引き上げていた。ところが翌2008年、リーマン・ショックのあおりで方針転換を余儀なくされた。金利はたちまちゼロに戻り、日銀が畳んだと思っていた量的緩和(QE)政策も復活した。 

 

 

植田は2024年3月に始めた利上げを再び逆転せざるを得なくなるのだろうか。これについては議論の余地が相当ある。とくに、日本がトランプとの関税交渉で「合意」に至っただけになおさらだ。トランプが一時「35%」とも脅していた日本に対する関税率が15%に抑えられたのは朗報だ。自動車輸出に関しても、これまでの25%の関税率を免れたのは救いになった。 

 

とはいえ、日本経済は主要なトランプ関税が適用される前の今年1〜3月期に、すでに年率換算で0.2%のマイナス成長に陥っていた。続く4〜6月期には、トランプ関税、物価高、国債利回り急騰という“三重苦”に見舞われた。日本の金利上昇はニュースの見出しに飾られることにもなった。 

 

そして7〜9月期、日本の経済状況は順風満帆とはほど遠い状態にある。中国経済は減速し、デフレを輸出している。米国経済も欧州経済も、日本の輸出に弾みをつけるほど好調ではない。日本経済は深刻なインフレが続くなか、景気停滞下で物価上昇が進むスタグフレーションにはまり込みつつある。 

 

日銀がこの先どう対応していくのかは誰にもわからない。おそらく植田本人にも。なぜなら、主に物価高が原因で日本の政治は異例の激動期に入っているからだ。 

 

20日の参議院選挙の結果、与党の自由民主党とその連立相手は参議院で過半数を割り込んだ。1955年以来、短期間の2回の下野を除いて一貫して政権を担ってきた自民党は、衆議院に続いて参議院でも支配を失った。自民党は今後の国政運営にあたっては、これまで以上に野党から協力を得たり、あるいは新たな政党を連立政権に引き込んだりする必要がある。自民党総裁である石破茂首相は近く引責辞任する公算が大きい。 

 

協力や連立の引き換えに他党から求められるのはおそらく減税だが、このリスクは債券市場を不安にさせている。石破政権に関してこれまでひとつ評価できるものがあるとすれば、財政状況を極端に悪化させるほど巨額な景気刺激策の実施は避けてきたことだった。それが変わろうとしており、日本のすでに膨大な額に積み上がっている政府債務がさらに膨らむおそれが出ている。 

 

 

日本の財務省が23日に実施した40年物国債の入札は、応札額を落札額で割った応札倍率が2011年8月以来の低さに沈み、14年ぶりの弱い需要だった。5月中旬に行った1兆円程度の20年物国債の入札も、落札額の平均と最低の差であるテールが1987年以来の大きさに広がり、38年ぶりの不調な結果になっていた。 

 

SNSで「 

 

(日本国債クラッシュ)」がトレンド入りするのは見たくない。石破の自民党が政府債務をさらに増やそうとするなかで、仮に日銀が利上げをすれば、日本の借り入れコストは跳ね上がり、景気後退(リセッション)のリスクも高まりかねない。 

 

とはいえ、植田が当面、インフレに手ぬるい対応をし、物価が日銀の目標の2%を大きく上回った状態で推移した場合も、日銀は今年秋ごろから来年にかけてより積極的な金融引き締めをせざるを得なくなるだけかもしれない。 

 

植田が状況を見極めようとするなか、はっきりしていることがひとつある。日銀のチームは、2025年が早く過ぎ去ってほしいと願っているに違いないということだ。 

 

William Pesek 

 

 

 
 

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