( 311326 )  2025/07/28 06:31:27  
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写真映像部・新崎美菜子 

 

「来る時が来た感じでした。でも、かなり想定外でしたね」 

 

 都内に住むフリーランスの雑誌編集者の男性(47)は、頭を抱える。 

 

 昨年8月、男性は都内に築45年の中古マンションを購入した。それまで住んでいた都内の賃貸マンションが老朽化で取り壊しになるので、立ち退かなければいけなくなったからだった。 

 

 当時の家賃は月16万円。猫を飼っているため、「ペット可」の賃貸物件にすると家賃が1.5倍くらいに跳ね上がることがわかった。だったらいっそ買ったほうがいいと考え、マンション購入を決めた。 

 

 購入価格は4200万円。500万円を頭金に充て、残り3700万円を、返済期間30年の住宅ローンとして銀行から借り入れた。 

 

■「ついに来た」 

 

 住宅ローンには、金利がずっと一定の「固定型」と、市場の動向に応じて金利が変わる「変動型」の2種類ある。固定型は将来の金利上昇のリスクを回避できるメリットがあるが、変動型より金利が高めに設定される傾向がある。 

 

 昨年8月、男性が住宅ローンを組んだ際、固定型の金利は年約2.5%、変動型は年1.4%。少しでも月々の負担を軽くしたいと考えた男性は、変動型を選んだ。 

 

 ローン返済は月12万円。管理費や修繕積立金などを含めると、住居関連の出費は合計で約16万円。賃貸時代とほぼ同額に収まった。 

 

 ただ、不安はあった。 

 

 マンションを購入する5カ月前の昨年3月、日本銀行は17年ぶりにマイナス金利を解除し、政策金利を年0~0.1%程度に引き上げた。同年7月には追加利上げを行い、政策金利を年0.25%程度に誘導することを決定した――。 

 

 男性は、こうした日銀の金融政策の変更が、住宅ローン金利にも影響を与えるとわかっていた。今年6月下旬に、銀行から金利値上げの通知が来た時は「ついに来た」と思った。 

 

「でも、上がってもせいぜい0.2%くらいだろうと考えていました。それがこの7月から、まさかの0.4%アップでした」 

 

 

 金利は年1.8%になり、返済額は月8千円増えて12万8千円になった。 

 

「年間にすると10万近く増えるわけです。これが30年続くと、300万円ですから」 

 

 今後、金利はさらに上昇する可能性がある。妻(43)は節約のため、大型スーパーなどでまとめ買いをするようになった。男性自身も、週3回の飲みを週2回に減らし、続けている株などの投資に一層力を入れるつもりだという。さらに、金利が低いローンへの借り換えも検討している。だけど、こう言う。 

 

「このまま金利が上がり続けたら、さすがに危ないですね」 

 

 日本の住宅ローンは、これまで超低金利時代が長く続いた。変動金利は年0.3~0.4%台。固定金利でも1~1.5%前後だった。実際、超低金利時代に住宅を購入した人の多くが、その恩恵を受けてきた。 

 

■「完済したのでラッキーでした」 

 

 AERAがネットで行った「住宅ローンアンケート」でも、超低金利のメリットを実感したという人がたくさんいた。 

 

「金利が上がり始めた今年の2月に完済したのでラッキーでした」(58歳、女性) 

 

「返済期間の25年間、金利が安い期間で負担が少なくてよかった、賃貸より安心だった」(68歳、男性) 

 

 だが、日銀が昨年3月にマイナス金利政策を解除して以降、その潮流は大きく変わった。住宅ローンを抱える人たちとって、その仕組みや金利の動向を理解しておくことは、これまで以上に重要になってきている。 

 

 ただ、独立行政法人住宅金融支援機構が4月に行った「住宅ローン利用者の実態調査」で、「住宅ローンの金利リスクに関する理解度」を聞いた質問では「理解しているか少し不安」「よく理解していない」「全く理解していない」の合計が44.9~54.8%と、2人に1人は十分に理解しているとはいえないことがわかった。実際、知識不足を悔やむ声もある。 

 

 昨年12月下旬、都内のマンションに住む女性(54)は、銀行から届いた封書を前に、手が震えた。 

 

「住宅ローンの金利がアップする知らせが入っていることは、わかっていました」 

 

 マンションを購入したのは03年。価格は約3800万円で、頭金として約770万円払い、残り約3030万円は35年の住宅ローンを組んだ。 

 

 

 マンションは夫(55)名義で購入したが、ローンの管理は女性がした。 

 

 10年固定で金利は年2.15%。その後、11年にネット銀行に借り換え、金利は10年固定で年1.65%に下がった。 

 

 転機が訪れたのは、10年後の21年。金利タイプの再選択の時がきた。その際、夫は「5年固定」を提案したが、女性は「まだデフレがつづく」と考え、より金利が低い「3年固定」を選んだ。年0.85%という条件で、負担はさらに軽くなった。 

 

 ここまではよかったが昨年3月、日銀がマイナス金利政策を解除した。かくして、固定期間が終わるタイミングで届いたのが、銀行からの封書だった。 

 

■「自分の知識が足りなかった」 

 

「金利が上がっているのはわかっていました。だけど、倍になるとは想像していませんでした」 

 

 同封されていた通知には、金利を年0.85%から年1.7%へと引き上げる、と記されていたのだ。 

 

 これまで女性は何度か繰り上げ返済を行っていたので、住宅ローンの完済予定は27年。夫の言う通り「5年固定」を選んでいれば、同じ金利のまま返済できたはずだった。 

 

 金利上昇により、月々の支払い額は870円増えた。金額は大きくないが、女性は後悔を滲ませる。 

 

「お金よりも、自分の知識が足りなかったのが悔しいです」 

 

 そもそも最初に住宅ローンを組んだ時も、提携銀行に言われるがまま、最初の8年間は高い金利を払わされたからだ。自戒の念を込め言う。 

 

「契約内容をしっかり確認し、その時その時に上手に対応すれば、住宅ローンも怖くないと思います」 

 

 住宅ローンは「借りたら終わり」ではない。借りてからが本当のスタートだ。 

 

(AERA編集部・野村昌二) 

 

野村昌二 

 

 

 
 

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