( 311371 )  2025/07/28 07:07:17  
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 これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。 

 

 当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、 

 

 様々な用途に使える最高のユーティリティカー、ポルテを取り上げる。 

 

 文/フォッケウルフ、写真/トヨタ 

 

 「トヨタ ポルテ」は、「Smart Life Supporter」というコンセプトのもと、日常生活を支えるモビリティとしての役割を最大化することに重点を置いて開発された。 

 

 従来のコンパクトカーの枠にとらわれないパッケージングとユニバーサルデザイン思想を融合させ、空間、乗降、燃費、安全、環境、操作性といった複合的要素のバランスが図られた設計は、多様化するライフスタイルに柔軟に応える"使える"コンパクトカーの新たなテンプレートを提示した。 

 

 特に助手席側をスライドドアとした大開口設計に象徴される人間を中心に据えた設計は、トヨタが次世代都市型車両に求めるビジョンを端的に表している。登場以来、市場では実用指向の顧客層を中心に高い評価を獲得し、ミニバンとは違う実用系車種を求めるニーズを満たしてくれた。 

 

 全車に採用した助手席側ワイヤレス電動スライドドアは、ポルテの最たる特徴であり、これが後に、「ミニバン的ユーティリティを持つコンパクトカー=プチバン」という新たなジャンルを確立することになる。ミニバンが抱えるボディサイズの大きさや、それに起因する取りまわしの不便さを回避しつつ、実用性と日常性を両立した新提案として注目されたわけだ。 

 

 開口幅1020mm、開口高1265mmというミニバンを凌駕する大開口スライドドアは、乗員の乗り降りから荷物の積み下ろしまで、すべてをひとつのドアで完結できるという点で、従来の"ドアごとの用途"という固定観念を打破することになる。 

 

 地上高300mmの段差のないフラットフロアも、乗降時のストレスを軽減できるだけでなく、高齢者や小さな子ども、車いす利用者にも配慮された構造として注目された。 

 

 さらにミニバン並みの1390mmという室内高を確保することで、車内の移動がスムースに行え、リアシートまで自然に歩いて行ける「ウォークイン・ウォークスルー」を可能にした。身体的負担の少ない乗降性能は、ユニバーサルデザインの実践として高く評価される。 

 

 ポルテの機能は、単なるバリアフリーへの対応にとどまらず、すべてのユーザーにとっての「使いやすさ」が追求されていたが、コンパクトミニバン然とした高めの全高とフラットフロア構成によって広い室内空間が確保されているのも見逃せない。 

 

 室内の広さは、ドライバーはもちろんパッセンジャーの快適性に加え、荷室スペースの柔軟な活用にも効果をもたらしている。こうした特徴によってコンパクトカークラスに属していながらミニバン的ユーティリティを実現し、ポルテは移動手段を超えて「生活を支えるパートナー」としての役割を担うことになる。 

 

 

 外観はトヨタが掲げていたデザインフィロソフィである「VIBRANT CLARITY(活き活き・明快)」を体現する「スマート・モダン」をテーマにデザインされ、清潔感と親しみやすさを兼ね備えた造形としていた。アーチ型キャビンと大きくラウンドしたフロントマスクと印象的な張りのある面構成によって、親しみやすさを強調しながら都市空間との調和も意識されている。 

 

 インテリアはリビングのような開放感が演出されている。幾何学パターンの表面処理や明快なデザインのシート表皮を採用し、オレンジとアイボリーのツートーン、またはライトブラウンのモノトーンというユニセックスで洗練されたカラーバリエーションを展開。乗る人の性別や年齢を問わず、乗員に快適さと視覚的な安心感を提供する。 

 

 空気清浄機能付きのプラズマクラスター搭載エアダクト、肌触りと清潔性に配慮したフレシール加工シートなどの快適装備にも抜かりはない。さらに、大容量マルチボックスやアンブレラホルダーといった収納スペース、スマートドアロックリモートコントロールといった日常使いで真価を発揮するユーティリティ機能も充実している。 

 

 ポルテは「生活のパートナー」としての役割を果たす新しいカテゴリーの提案として、使いやすい小型車にとどまらず、車両パッケージングの常識を覆すことで、モビリティの多様化が進みつつあった当時の新車市場において価値ある存在であることを明確に訴求した。 

 

 パワーユニットは、1.5Lおよび1.3Lエンジンを設定。優れた出力と燃費性能を両立し、日常走行から高速域まで余裕のあるパフォーマンスを提供する。 

 

 組み合わせられるトランスミッションは電子制御4速ATとし、滑らかな加速と効率的な燃焼を促進する。また、熟成されたサスペンション構造と高剛性ボディにより、しっかりとした接地感と快適な乗り心地を両立。コンパクトカーとしての操縦安定性においても完成度の高さが光る。 

 

 安全面では、GOA(Global Outstanding Assessment)衝突安全ボディを採用。全方位衝突コンパティビリティ構造により、前後左右の衝突安全性を高めると同時に、歩行者傷害軽減構造も取り入れた設計としていた。 

 

 

 2012年7月にはフルモデルチェンジを実施して2代目が登場した。コンパクトでありながらミニバン的なユーティリティを備えた「プチバン」というジャンルを確立した初代の特徴を継承しながら、従来のポルテのほかに兄弟車として「スペイド」が新規投入された。 

 

 ポルテとスペイドは基本的な車体構造やユーティリティを共有しつつ、デザインと販売チャネルで明確に棲み分けが図られている。外観はいずれも、直線と円弧を融合させた長円形のモチーフ「スクエアオーバル」を各部に採用し、柔らかさと整然さを兼ね備えたフォルムとすることで、視覚的な統一感と安心感を両立している。 

 

 ポルテは曲線を多用して柔らかく親しみやすい印象だが、対してスペイドは、フロントまわりをヘッドランプまで連続する水平基調のキャラクターラインと、張り出したヘッドランプおよびバンパーコーナーで構成することで精悍でクールな印象を演出した。 

 

 サイドビューでは、ヘッドランプからリアへと繋がるシャープなキャラクターライン上にスライドレールとドアハンドルを一体的に配置し、クリーンでスマートなシルエットを実現した。リアビューには、クリアレンズを採用した水平基調のリアコンビネーションランプと、張りのある立体造形を組み合わせ機能的でクールな後ろ姿を表現している。 

 

 ポルテ(スペイド)は、限られたスペースのなかでどれだけ豊かに、便利に、快適に過ごせるかといった問いに真摯に向き合い、日常の動線やライフスタイルを深く読み取り、ユーザー本位の発想をパッケージ全体に落とし込んだ。 

 

 その結果、生活空間としてのクルマという新たな定義を提示した。高齢化社会や多様な家族構成といったユーザーの変化に対しポルテのようなユニバーサル・コンパクトの存在は、市場において重要なポジションを担っていた。 

 

 しかし、左右非対称の特徴的なデザインは好みが分かれ、利便性の高い助手席側スライドドアに対するニーズはあったもののターゲットがかなり限定的で、同様のプチバンとしてソリオ、コンパクトミニバンのシエンタやフリードといった、汎用性のあるクルマにシェアを奪われてしまう。 

 

 そのため2代目以降は存在感が薄れて、後継モデルも登場せずに市場からフェードアウトしてしまう。ミニバンやスーパーハイトワゴンタイプの軽自動車のように万人向けではなかったことが売れ行きに影響したものの、ユーティリティ性能に特化した小型車としての能力はかなりの高レベルにあった唯一無二のクルマである。 

 

 

 
 

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