( 311946 )  2025/07/30 07:37:09  
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TBS CROSS DIG with Bloomberg 

 

参院選での与党大敗、石破総理の続投表明と"おろし"論の活発化、そして日米関税交渉の突然の"合意"。 

 

めまぐるしい政治経済情勢の中で、今週は日米の中央銀行による金融政策決定会合が控えています。日米関税交渉で15%という数字が出たものの、実体経済への影響はどうなるのか?そして弱体化する石破政権をマーケットはどう見るのか?大和証券チーフエコノミストの末廣徹氏は、日米両中央銀行の動向を先読みするにあたって「ジレンマ」というキーワードを挙げます。 

 

■市場が見る「日米合意」の評価と金利動向 

 

まず、日米関税交渉の合意を受けて、市場はどう反応したのでしょうか。末廣氏はまず「合意を好感し、株価は急騰しました。特に自動車関税の税率が25%から15%に引き下げられたことは、ポジティブに受け止められました」と指摘。 

 

一方で、「それでも15%という関税は無視できない水準。また、日本側に求められた5500億ドルの投資という条件も厳しいものです」と指摘。日本によるアメリカへの投資スキームは判然としない部分がありますが、末廣氏は仮の話として「国内で使われるはずだった巨額の投資資金が米国に行くとなると、国内投資にとっては大きな機会損失になる」と懸念を示します。 

 

また債券市場では、交渉合意後に日本の金利が大きく上昇しました。末廣氏はさらに丁寧に見るために国債を年限別に3つに分解して上昇の背景を次のように指摘しました。 

 

(1)まず最も流動性が高い10年国債については日米関税交渉の合意によるリスクオン的な動きによって売られ、金利が上昇 

 

(2)超長期金利も石破首相退陣報道による財政拡張的な政権発足の可能性が浮上したことで上昇 

 

(3)短・中期債は先行き不透明感の低下による日銀利上げ観測の高まりでの上昇 

 

■FRBのジレンマと今週のFOMC 

 

こうしたなか今週FOMC(連邦公開市場委員会)を開催する米FRB(連邦準備制度理事会)は難しい立場に置かれています。末廣氏によれば、FRBとトランプ政権が抱えているのは「通貨安と金利高」というジレンマです。 

 

 

「ドルの弱さはFRBにとって問題があります。それは、関税の影響が増幅されるからです」と末廣氏。「仮にドル高円安だったら、日本から米国に安く輸出してあげることができます。円建てで決算する日本としては、円安であればドルベースでディスカウントしても円ベースでトントンだったらOKとなる。日本企業が間接的に関税を払ってあげるイメージです」 

 

ところが、逆にドル安になると、日本企業は安く輸出しづらくなり、米企業や消費者の関税負担が増す可能性が高まります。これはトランプ政権としては関税政策を有効に機能させるためにも避けたい動きだと指摘します。 

 

「ただ、アメリカは現在も金利がとても高い。これは利払い費増と財政悪化につながります。政権は財政のことを考えるとFRBに利下げをしてほしい。高金利はは経済や株価にストレスになるため、FRBもできれば利下げをしたい立場と見られますが、ドル安を考えるとそう簡単には利下げできないというジレンマの状態です」 

 

市場は今週のFOMCにおいて、利下げの可能性はほぼ0%と想定しています。「おそらく利下げを主張するのはウォーラー理事1人だけでしょう」と末廣氏は予想。そのうえで注目される会見において「パウエル議長はニュートラルな立場を意識してくると思われます。なぜなら、ドル安を招くようなハト派的な発言はやりにくいからです」と予想します。 

 

■「日銀は"ハト派ほど怪しい"」利上げしたいが円高が困る 

 

FOMCに続いて7月30、31日に開催される日銀の金融政策決定会合。TBS経済部の取材では日銀内部からは「関税率の不確実性はなくなったが、それが経済にどう影響するかの不確実性は残る」「製造業で米輸出企業は実は多くない。円安もあって15%はカバーできる範囲内」といった声が聞かれました。 

 

これを踏まえて末廣氏は、日銀も“ジレンマ”に直面していると言います。それは「利上げをしたいが、円高になるのは困る」ということ。 

 

 

日銀は金利の正常化、つまり利上げを目指したいのが本音ですが、日米金利差が縮小すれば円高進行のリスクがあります。円高は輸出企業の収益を圧迫し、日米関税交渉で妥結した15%の関税の影響をさらに深刻化させかねません。 

 

このため、末廣氏は植田総裁の会見のポイントについて次のように解説します。 

 

「私は植田総裁の発言が『ハト派ほど怪しい』」と見ています。当面は利上げに慎重なハト派的姿勢を示すことで、市場に円安を促す。そうして円安が進めば、将来的に利上げをしやすい環境が整うため、ハト派的な発言こそが次の一手への布石かもしれない、というわけです」 

 

日米の関税“合意”や日本の政局が複雑に絡むなか、“ジレンマ”を抱えるFRBそして日銀。今週の会合でどんなシグナルを発信するのかさらに注目していきましょう。 

 

※この記事は28日(月)に配信された「The Priority」の内容を抜粋したものです 

 

TBSテレビ 

 

 

 
 

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