( 312381 ) 2025/08/01 06:09:17 0 00 山下ふ頭で行われたデビュー10周年記念ライブの「騒音」が物議を醸している人気ロックバンドの「Mrs. GREEN APPLE」(写真:Mrs. GREEN APPLE公式サイトより引用)
ロックバンド「Mrs. GREEN APPLE(ミセス・グリーン・アップル)」による野外ライブで、広い範囲にわたって「騒音被害」が出ていたことが話題になっている。SNS上では10〜15キロ離れた場所にも、重低音が響いたといった報告が続出。「音漏れ」に関する投稿が拡散された。
そうした状況を受けて、ライブ開催側の事後対応が遅いのではないかといった批判は少なくない。ネットメディア編集者として、これまで企業などの「SNS炎上への謝罪」を見てきた立場からすると、確かにスピード感に欠ける印象を受けた。
しかし、それ以上に問題なのは、ファンによる「過剰な擁護」だ。騒音被害を訴える近隣住民を“攻撃”するようなコメントには、嫌悪感を示すネットユーザーも少なくない。
■会場から10〜15キロ離れた場所でも騒音被害の投稿が
デビュー10周年を記念するライブ「MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE 〜FJORD〜」は2025年7月26、27日に、横浜市中区の山下ふ頭で行われた。各社報道によると、両日あわせて10万人を動員したという。
大規模と言えるこの一大イベントだが、その「音漏れ」の規模も大きかった。SNSを見ると、10〜15キロほど離れたところでも、「メロディーは聞こえず、ただドドドと揺れるだけで不快」「子どもの寝かしつけに影響が出た」のように、重低音を報告する投稿が出ている。
それらの“被害報告”すべてが事実だとは限らないが、通常のイベントよりも広範囲にわたって、騒音の被害が起きていたのだろう。
ライブ終了後の7月28日、ミセス公式サイトで、所属レコード会社であるユニバーサル ミュージックが、騒音に関する謝罪文を公表した。
ここでは周辺住民に対して謝罪する一方で、「開催概要について近隣住民に事前案内」「法令などで定める音量基準に準拠」「海側に向けて客席を設置し、客席後方で音が衰減するような事前シミュレーション」といった予防策を行っていたと説明。
しかし当日の風向きによって、「想定以上に広範囲に音が拡散」してしまったと報告した。ライブ運営会社の公式サイトにも、同様の文章が掲載されている。
とはいえ、謝罪によって一件落着……とはいかないようだ。いくつかの要因から、ミセス側の対応の悪さが指摘されている。
まずは「公式発表の遅さ」だ。1日目の7月26日夜時点で、すでに各地から騒音報告が相次いでいたにもかかわらず、特に反応しないまま2日目に突入。すべてが終わった7月28日になって謝罪文が出たため、「もっと早く反応できなかったのか」との指摘は少なくない。
■謝罪までのラグで「迅速さ」と「誠実さ」に疑問符が
矢面に立っているときに重要なのは、「迅速さ」と「誠実さ」を兼ね備えた「具体性のある対応」だ。
しかし今回の例では、まずスピーディーさにミソが付いた。そして、問題を把握できていたはずにもかかわらず、謝罪までの時間を要したことで、誠実さの部分にも疑義が浮かんだ。
加えて重要なのは、対策が具体的であるかだ。現状のミセス側の発表は、あくまで「事前準備は入念に行っていたが、結果的に騒音を予防できなかった」と説明しているだけだ。
今後の対応については、「今回の事態を真摯に受け止め検証を行い、再発防止に努めてまいります。同時に、地域の皆様にご理解とご協力をいただけるようなライブイベントの開催に尽力していく所存です」と、抽象的な内容にとどまっている。
たしかに検証を行うには、それなりの時間を要する。ただ、もし想定しうる検証方法と、その報告時期について書き添えていたならば、まだ前向きに受け止められていただろう。なお各社の記事によると、山下ふ頭を管轄する横浜市港湾局は今後、検証結果の報告を求めるとしている。
こうした「不完全な謝罪」を通して、ミセスに対してマイナスな印象を抱くネットユーザーは少なくない。というのも、1年ちょっと前にも、炎上騒ぎを起こしていたからだ。
2024年6月に配信した「コロンブス」のミュージックビデオ(MV)において、「コロンブスが類人猿に物事を教え、馬車を引かせる」といった描写があったことから、「奴隷商人だったコロンブスを賛美する内容はいかがなものか」「類人猿は先住民をなぞらえているのか」などの批判が相次ぎ、すぐさまYouTubeで非公開に。この曲をキャンペーンに使用していた日本コカ・コーラもふくめての“大炎上”となった。
筆者は当時、東洋経済オンラインのコラム「ミセス『コロンブス』MV大炎上への強烈な違和感」で、炎上後の対応はスピーディーだったと評価しつつ、だからこそ「なぜこのMVが公開に至ったのか」不思議に感じると論じた。そして、以下のように指摘している。
「もしかしたら重大な問題だと気づいていた人も、中にはいるのかもしれない。しかし集団心理の中で言い出しづらかったり、すでに大金が動いていたり、権限がなかったりなどの理由で、ストップをかけられなかったのだとすれば、その病は深くまで根を張っている」
今回の「音漏れ炎上」は、初日から問題視されていたにもかかわらず、公式が触れないまま、2日目まで走りきった。その背景に、もし「気づいていても言えない空気」があったのなら残念だ。いずれにせよ、今回の件も併せて、「事前のチェックの甘さ」が印象に残ったのは間違いないだろう。
■一部のファンの“過剰な擁護”も話題に
さて、ここまでミセス公式側の問題点について触れてきたが、それ以上に余波が出そうなのは「一部ファンの過剰な擁護」だ。SNS上ではファンからの投稿が、近隣住民の感情に寄り添ってないとして、多数拡散されている。
X上では「野外だから仕方ない」「ライブとはそういうものだ」「アンチの声に負けるな」といった、開き直りにも受け取れるファンの投稿が見られる。
もちろん、そうしたファンは少数で、心あるファンからは「バンドの顔に泥を塗る行為だ」との忠告も見られるが、世間は一部の「悪目立ちしたファン」で評価する。もしも「厄介なファンを抱えているバンド」といったイメージが定着してしまえば、今後プロモーションにも影響が出るだろう。
■覆水盆に返らず、だが「今すぐできる対応」も
ここで少しだけ肩を持つと、騒音はあらゆる要素が絡まることで発生するため、ミセス側だけの問題ではない。起きてしまったものは仕方ない。ただ、「その後の対応」が評価を分けることを忘れてはならない。
謝罪が遅れたことも、もうどうにもならない。これも今後の姿勢を見てもらい、取り返していくしかないだろう。時間をかけてでも「被害の範囲はどの程度だったのか」「健康被害が起き得る内容だったのか」「どのようなメカニズムで発生したのか」「取り得る再発防止策は何か」といった部分が検証されない限り、もしかすると今後、ミセスに限らず全国各地で行われる野外ライブに、必要以上の規制が課せられるおそれもある。
一方で、「今すぐできる対応」もある。(自称もふくめた)ファンによる「他責投稿」をコントロールすることだ。あくまで非は、バンドやイベントの運営サイドにあり、住民は巻き込まれた側であると明示する。不必要な「あおり」を行わないよう求める。そうした呼びかけを行わない限り、一部のファンもろとも、バンドのイメージダウンは避けられないだろう。
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城戸 譲 :ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー
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