( 312933 )  2025/08/03 05:41:19  
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第27回参議院選挙で初当選した日本保守党の北村参議院議員は件のX投稿について、撤回も謝罪もしていない Photo:KYODO 

 

● 北村氏の大放言に歓喜する人たち 「何も間違っていない」 

 

 「当たり前のことを言って何が悪い!誰が見てもそう感じるだろ」 

「こうやって次は北村さんを潰そうってことか。これだからマスゴミは」 

 

 個人別得票数で約97万票も獲得して参院選に当選後、石破茂首相に対して「醜く奇妙な生き物」「間違いなく工作員」とXに投稿して炎上した北村晴男弁護士を「擁護」する人々が続々とあらわれている。 

 

 

 彼らの主張によればまず「醜く奇妙な生き物」というのは“マスゴミ”や反日勢力が北村弁護士を潰すために仕掛けている「言いがかり」だそうだ。 

 

 後に北村氏本人も説明しているが、この「醜い」というのは党内から辞任せよという声が上がっているのに、首相の座に居座り続ける石破首相の「内面」のことだという。政治家としてなんの問題もない論評をしただけなのに、「一線を超えた」とか「度を超えた誹謗中傷」などと大騒ぎをして叩くというのは、「反日左翼勢力」が北村氏を「脅威」と捉えて、よってたかって潰そうとしているというのである。 

 

 また、「間違いなく工作員」も同様だ。「女性自身」(光文社)で、この言葉の真意を問われた北村氏は石破首相が「左派活動家」であると断言。自らの意思なのか、誰かの命令なのかまではわからないが、自民党内部に潜り込んで崩壊させて、左派政党に変えるために様々な工作活動をしていると主張。これに対しても「何も間違っていない」「言いたいことを言ってくれてスカッとした」と支持する人もいる。 

 

 このような擁護の声の後押しもあってか、北村氏は今日に至るまでこれらの発言の撤回も謝罪もしていない。 

 

 それどころか、そのブレない姿勢が「圧力に屈しない真の政治家」などと賞賛され、同じような政治信条の人たちの間でさらに支持を広げることになっているのだ。 

 

 「あれ? なんか似たような展開が最近あったような…」と思う人も多いはずだ。「日本人ファースト」を掲げた参政党がメディアやアンチから「排外主義」「ナチス」などと批判されたときも、候補者や支持者の皆さんは反論をしながら自分たちの主張を貫いた。結果、比例代表で743万票も獲得して14議席と大躍進したのである。 

 

 海外メディアから「陰謀論の極右政党」と言われる参政党と、北村氏という「日本保守党」の政治家が、同じような政治手法で求心力を高めているということに対して、いろいろ言いたいことのある人もいらっしゃるだろう。 

 

 ただ、そういう政治的な話はちょっと脇に置いて、自分の熱烈な支持者やシンパを増やしていくプロパガンダ(宣伝活動)という一点のみに注目をすると、個人的にはどちらも「お見事」の一言に尽きる。 

 

 人類の歴史を振り返ると、経済的に困窮していたり、政治的不満を抱えたりしている人々から熱狂的な支持を受けた者は、以下の3つを妥協なく実践していることがわかる。 

 

 1.今の状況・問題を生み出している「敵」を明確にする 

 2.その「敵」は「自分たちと同じ人間ではない」と強調して憎悪を煽る 

 3.批判や反論は「正義を実行する我らを貶める陰謀だ」で黙らせる 

 

 今回のやりとりをみると、北村氏と擁護派はしっかりとこの3つを押さえている。まず、今の日本の状況を生み出しているのは、石破茂首相と左派活動家である、と「敵」を明確に設定している。 

 

 次にその敵を「醜い性根を持つ奇妙な生き物」「工作員」と罵ることで、自分たちのような「美しい大和魂を持つ日本人」とは“同族”ではないと強調して、憎悪と同胞意識を刺激している。 

 

 ちなみに、これはロシアとウクライナ、パレスチナとイスラエルにおいて現在進行形で行われているプロパガンダだ。敵国の兵士が一般市民にどれほど非人道的なことをしたのかを「報道」の形で自国民と国際社会にアピールすることで、「相手は人間ではないので、どんな残虐な兵器を使ってもいい」という社会ムードを醸成して、戦意を高揚させている。 

 

 

 そして最後の極め付きが、批判や反論を「陰謀論」扱いすることだ。これはある意味で最強の弁論術で、もし支離滅裂な話をしたり、データも根拠もないデマを流したりして批判を受けても、自信満々に次のように言ってのければ「議論終了」にできる。 

 

 「それは我らを貶める陰謀論だ」 

 

 トランプ米大統領が都合の悪いことを言われたりすると「フェイクだ」と一蹴するが、まさしくあれと同じである。 

 

 もちろん、多くの人は「おいおい、ヤバイやつだよ」と呆れて去っていく。しかし、この人を熱烈に支持している“信者”からすれば、これほどスカッとする話はない。「ざまあ、秒で論破されたぞ」みたいな感じでさらに心酔していくのである。 

 

● 妄想にとらわれた人間が 行き着く「最悪の結末」 

 

 こういう一連の流れを聞くと、「エコーチェンバー」という言葉が頭に浮かぶ方も多いはずだ。 

 

 「閉鎖された情報空間の中で似た価値観同士によって交流することで意見や思想が増幅し、それが社会全体に共通するものだと勘違いしてしまう現象」のことで最近は、ネット掲示板やSNSを「過激化」させていく元凶とされる。 

 

 例えば、「石破首相は左派活動家」という主張を繰り返すYouTuberのチャンネルには、当たり前だが同じような政治信条・思想の人たちが多く登録をする。その人たちは石破首相の悪口を聞けば聞くほど溜飲が下がるので、視聴回数やコメントを見たYouTuberの発言はどんどん攻撃的になっていく。チャンネル登録者もそれを求めているので諌めないどころか、もっともっとと求めてくる。 

 

 そうやって石破首相に対する悪態で盛り上がっているうちにYouTuberとチャンネル登録者たちは「これこそが国民の声に違いない」と思い込む。閉ざされたコミュニティ内で似た者同士で騒いでいるだけなのに、いつの間にか自分たちを「全国民の代表」と勘違いしてしまうのである。 

 

 このような話をすると、「こいつは参政党や日本保守党の支持者をバカにしているのか」と不愉快になる方もいらっしゃるかもしれないが、そういうつもりは毛頭ない。 

 

 

 イデオロギーや思想に関係なく、社会の中に「エコーチェンバー」はいくらでもある。しかも、もっと言えば、そういう“勘違い”が時に集団の結束とエネルギーを生み、本当に社会を動かすということもあるので、悪いことばかりではないと思っている。 

 

 ただ、このように政治運動をする人たちの中で「エコーチェンバー」が活発となることで心配していることがひとつある。 

 

 それは「暴力テロ」だ。 

 

 政治家や政治活動家は、支持者拡大などの目的から、敵に対する憎悪を煽っているだけなのだが、支持者の中にはそれを真に受けてしまい、本当にその敵の命を奪おうとする者が一定数現れる。 

 

 戦前・戦中に、軍の青年将校たちが「皇室中心の軍事国家樹立」や「戦争継続」という妄想にとらわれて、首相や政治家を殺害するテロが続発したが、あれはまさしく軍人コミニティ、右翼コミニティの「エコーチェンバー」が原因である。そして令和の今は、妄想にとらわれた個人が暴力テロを起こす。わかりやすいのは、安倍晋三元首相を殺害した山上徹也被告だ。 

 

 彼は旧統一教会への恨みで犯行に及んだということになっているが、事実を客観的に精査すると「エコーチェンバー」によって安倍元首相への憎悪を煽られすぎて被害妄想にとらわれていた可能性が高い。 

 

 事件当時、マスコミが朝から晩まで流した「山上徹也同情論」の中で挙げられた動機は、ネット上の「安倍元首相が旧統一教会のシンパ」という話を真に受けていたところ、教団関連イベントに安倍元首相がビデオメッセージを送ったことを知って犯行を決意したということだ。 

 

 しかし、もし彼にまともに自分で情報を調べる力があれば、これが「石破首相は左派活動家」と同じレベルのビミョーな話であることに気づいたはずだ。 

 

 過去にメディアでも報じられているが、安倍元首相は「崇教真光」の機関誌で信者であることを告白している。また、旧統一教会は50年以上前から自民党の支持団体のひとつで、「日本会議」に名を連ねる宗教団体と同じく、選挙支援をしていただけだ。憲法改正やLGBTQ法反対などは保守系宗教であればみな訴えている。 

 

 ビデオメッセージを送ったことが「ズブズブの動かぬ証拠」だと決めつけられ、安倍元首相は殺されてしまったわけだが、これも自分に都合のいい情報だけしか見ない典型的な「妄想」だ。 

 

 

 筆者は今年、旧統一教会のイベントを実際に現地で取材しているが、会場にはトランプ大統領の宗教顧問ポーラ・ホワイト牧師や、共和党の重鎮ギングリッジ氏、コロンビアのアンドレス・パストラーナ元大統領、ナイジェリアのグッドラック・ジョナサン元大統領など普通に海外VIPが多数参加していた。 

 

 しかも、安倍元首相と同じようにビデオメッセージを送っていたのは、カメルーン元首相で現在、国連総会議長を務めているフィレモン・ヤン氏である。「安倍元首相が旧統一教会のシンパ」というネット情報のロジックに照らし合わせたら、国連もアメリカも旧統一教会に支配されている。日本の解散命令など簡単に吹き飛ばしていないとおかしい。 

 

 しかし、「安倍元首相が旧統一教会のシンパ」というコミニティの中でエコーチェンバーによって憎悪がふくらんだ山上には、もはやそういう冷静な見方はできなかった。そこに加えて、彼は社会に憎悪を抱く「インセル」でもあった。 

 

 「小学生の列に車で突っ込み、電車内で包丁を振り回す…「非モテの独身男」による無差別殺傷事件がこれから増えるワケ」の中で詳しく説明したが、山上は犯行前にXをやっていて、そこでは「非モテの独身男」を意味する「インセル」を自認していた。 

 

 日本人はあまり知らないが、「インセル」は西側諸国では無差別テロや拡大自殺を行う「過激主義者」として監視すべきという意見も出るほど、危険視されている。 

 

 また、映画「ジョーカー」に憧れて、ジョーカーの思いに寄り添い、社会的弱者の男性の境遇を呪うような投稿を繰り返している。 

 

 このように過激主義者だった山上は自分と似たような境遇の人々と意見交換し、似たように旧統一教会を憎む人々の情報を読み漁って、エコーチェンバーの中で一方的に安倍元首相への憎悪を膨らませていったのである。 

 

 実はこのあたりは、京都アニメーション火災事件を起こした青葉真司死刑囚とそっくりだ。 

 

 

 
 

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