( 312963 )  2025/08/03 06:17:38  
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岐阜の「池田温泉旅館 たち川」が突然の閉鎖、事業者が夜逃げした(左は旅館のInstagramより) 

 

 のどかな田園風景に囲まれた岐阜県揖斐郡池田町。町の南部に位置する「池田温泉」は、地元の人だけでなく多くの観光客からも親しまれる天然温泉だ。 

 

 7月30日の夜、暗闇に包まれた温泉施設に併設された人気旅館「池田温泉旅館 たち川」には、定休日にもかかわらず煌々とあかりが灯っていた。 

 

 中で忙しなく作業するA氏が段ボールを次々と運び出し、入り口に止めた軽トラックとバンに詰め込んでいく。NEWSポストセブンの記者がA氏に話しかけると、同行した弁護士が記者の質問を遮り、こう言ったのだった。 

 

「まあ、もういいんじゃないですか? 終わるんだから」——「池田温泉旅館 たち川」の、“夜逃げ”の瞬間だった。【全3回の第1回】 

 

「池田温泉」が位置する池田町は、古くは室町時代から“茶の町”として栄えた、歴史ある町だ。町について知るライターが語る。 

 

「1988年、当時の竹下登内閣が発案した『ふるさと創生事業』で給付された『ふるさと創生基金』を活用し、町は1995年に温泉の掘削に成功。ヌルヌルとした肌触りの泉質が特徴のアルカリ性単純温泉で、翌年の『池田温泉』創業から多くの利用者を集めました。 

 

 年々増える利用客に応えるため、2003年には宿泊施設も備えた『池田温泉 新館』がオープン。以来多くの観光客が温泉に訪れるなど、町の観光産業の中心として機能してきました。本館と新館の1階にある日帰り温泉には日々地元のお年寄りが集まり、憩いの場となっているんです」 

 

 本館、新館の温泉はそれぞれ町が運営してきたが、その後徐々に観光客は減少。町は2019年、「株式会社たち川」に新館の2階・3階部分に併設されたレストランと宿泊施設の管理・運営を委託した。同年に誕生したのがレストラン「食事処たち川」と、宿泊施設「池田温泉旅館 たち川」だった。 

 

「『株式会社たち川』のオーナー・A氏は地元出身で、医療関係を含めた複数の会社を運営する“やり手経営者”です。全ての部屋に部屋風呂を設置し、マイクロバブル炭酸が出る装置をおくなど、施設を一気にグレードアップさせました。 

 

 部屋によって異なりますが、部屋料金のみで1人あたり1泊2万円ほど、夕食・朝食の食事料金として2万2000円ほど、合計で4万〜5万円かかる『高級旅館』と姿を変えたのです。大手宿泊予約サイトのランキングでは度々1位になるなど、人気宿として評判を集めました。 

 

 また、旅館の運営を請け負ってから、A氏はブームに乗って『高級食パン』を扱うパン屋や喫茶店も開業し、旅館でパンを販売するなどグループ経営にも力を入れていた」 

 

 しかし、その内実は“崩壊寸前”だったようだ——「池田温泉旅館 たち川」の従業員は7月下旬、NEWSポストセブンの取材にこう打ち明けていた。 

 

 

「今年に入ってから、一部の従業員の給料への未払いが続いているんです。未払いが続いたある日、痺れを切らした従業員が『いつもらえるんですか』と聞くと、A氏は開き直ったように“会社は潰れる”“国からもらってください”といったことを言い出した。 

 

 それからは『7月30日以降の客は全てキャンセルしろ』『それ以降はここには入れないからね』などと従業員に説明がされました。そしてなぜか、『町にはバレないように、ホームページは直前までそのままにしておく』などと、町が運営する『池田温泉』に黙って、レストランや宿泊施設を閉める計画をスタートさせたんです」 

 

 なぜ町に黙って“夜逃げ”を図るのか——その理由のひとつは、A氏のもとに届いていた「督促状」だったようだ。NEWSポストセブンが入手したこの督促状には、池田町長からA氏に当てて、こう書かれている。 

 

〈5月分までの施設使用料等の未納が7月25日時点で2,288,097円ございますので、(中略)7月31日(木)までに金融機関または役場会計課にて納入していただきますようお願いいたします〉 

 

「A氏は『町が客を集めないから悪い』というようなことを言っていました。未納金についても払う気がないといった態度で、納入の期限までに“夜逃げ”する手筈を整えたんです」(前出の従業員) 

 

 そして温泉の定休日である7月30日、A氏は冒頭の描写のように“夜逃げ”を遂行したのだった。翌日、人影のない新館の入り口には、担当弁護士の名前とともに、次のように記された一枚の紙切れが貼られていた。 

 

〈株式会社たち川は、事業を停止することとなりました〉 

 

〈株式会社たち川が占有していた場所及び当該場所内の動産については、当職らが専有管理いたしますので、無断の立ち入り及び搬出等をすることを固く禁じます〉 

 

 前述の通り、新館1階は町営の日帰り温泉である。〈占有していた場所及び当該場所内の動産〉とは2階、3階部分のことを指すのだろう。翌日、この張り紙を見た町の関係者にとっては“寝耳に水”だった。突然の“夜逃げ”に、池田町は混乱状態に陥っている。 

 

「池田温泉旅館 たち川」のホームページは、8月1日までに閲覧ができなくなった。「池田温泉」のホームページからも、これまで掲載されていた「池田温泉旅館 たち川」に関する内容が、8月1日にまでに消えている。旅館は閉鎖されてしまったのだ。 

 

 さらにこの従業員は、『株式会社たち川』が行なっていた部屋風呂の“温泉偽装”についても、赤裸々に明かした——第2回記事では、「重曹風呂」の実態と、A氏への直撃取材の様子について報じる。 

 

(第2回につづく) 

 

 

 
 

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