( 313233 )  2025/08/04 05:59:07  
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流山の街とともに拡大を続けている「流山おおたかの森S・C」(筆者撮影) 

 

「千葉のニコタマ」と呼ばれることもある、流山おおたかの森。異なるふたつの街が重なるのは、背後にいるデベロッパーの活躍があるのかもしれない--。 

さまざまな街にある商業施設を、「どのようにして街を変えたか」という観点からレポートする本連載。今回は「流山おおたかの森」周辺を歩く。 

 「私が結婚して家を買った20年近く前、流山は今のような街じゃ全然なかったんです。土地は安かったし、駅前もまだ開発途中だった。今では、なぜか流山って『ああ、あの流山ね』『千葉のニコタマね』みたいな感じで言われるでしょ?  そんなふうに発展するとは全然思ってなかったんですけどね」 

 

 これは、とある流山おおたかの森民が、筆者に語った言葉だ。 

 

 日本各地で人口減少が進む中、千葉県流山市は2016〜2021年の6年連続で人口増加率が1位となった。特に、子育て世代の流入が続いている。 

 

 2005年の「つくばエクスプレス」開通を機に発展した新しい街・流山。人口増加率の要因は「つくばエクスプレス」だけではない。商業施設「流山おおたかの森S・C」も大きな功績を残している。 

 

■多くの人を惹きつける上質な商業施設 

 

 詳しくは後編で解説するが、前編でも軽く流山市の歴史を振り返ろう。 

 

 住宅が開発され始めるまで、大部分が田畑や山林であった流山。昭和30年代半ばに大型の団地が建設され始めると、人口が急激に増加。1967(昭和42)年に市制が施行され、千葉県で20番目の市として「流山市」が誕生した。 

 

 流山市を含めて千葉県は急激なベッドタウン化が進むなかで、JR常磐線以外の鉄道の必要が叫ばれるようになり、2005年には「つくばエクスプレス」が開通。「流山おおたかの森駅」が新設されることになった。 

 

 つくばエクスプレス、そして東武アーバンパークラインが乗り入れる「流山おおたかの森駅」の南口を出ると、「流山おおたかの森S・C」が見えてくる。南口から連絡通路で「流山おおたかの森S・C」の2階につながっている。ここは2007年にオープンした本館だ。 

 

 「流山おおたかの森S・C」は本館以外にもいくつも棟があり、なんと10施設から成り立っている。つくばエクスプレスと東武アーバンラインは十字に交差しており、東武アーバンラインを境として南西側に施設が点在している。 

 

 

 ところで流山おおたかの森について話す時、よく「二子玉川と似ている」と言われる。確かに、駅周辺の雰囲気には、通じるものがある。 

 

 「似ている」と感じる人が多いのは、開発したのがともに「東神開発」だからだろう。東神開発は、日本初の本格的な郊外型ショッピングセンターといわれている「玉川高島屋ショッピングセンター」の開発に伴って設立された高島屋系の会社であり、二子玉川という街をブランディングしてきた立役者なのだ。 

 

■高級感漂う「タカシマヤ」 

 

 「流山おおたかの森S・C」は子連れファミリーに配慮しつつも、全振りはしていない。キッズやティーン向けのテナントはあまりなく、テナントぞろえや内装、外観から、ワンランク上の上質さを演出していると感じる。 

 

 その代表格が「タカシマヤフードメゾン」。ここには、デパ地下を彷彿とさせる高品質な食物販が集まっている。 

 

 2007年の開業当初は、高級ファッションブランド「ARMANI EXCHANGE」が出店していたが、その後姿を消している。今となっては、高価格帯のファッションブランドが出店するような高級ショッピングセンターではないが、上質さを残している。 

 

 近隣に競合もある中、平日にこれだけ集客しているのは、“成功している商業施設”といえよう。 

 

■次々と機能を強化していく 

 

 本館の次に開発されたのが「ハナミズキテラス」。2013年にオープンした。エリアでは最も端にあり、駅から5分ほど歩く立地だが、クリニックやフィットネス、塾など、目的性の高いサービス店舗が集積している。 

 

 翌年、2014年には「ANNEX1」がオープンした。「ANNEX1」は、家電量販店「ノジマ」や「スーパースポーツゼビオ」が中心となっている。本館に収まり切らなかった大型テナントを補強した格好だ。 

 

 さらに翌年の2015年には、「こもれびテラス」がオープンした。保育所や学童保育など、子ども向けの機能を強化している。 

 

■高架下の開発も担う 

 

 「流山おおたかの森S・C」がひとつの転機を迎えるのが2018年。この年には、8年をかけて協議、計画された高架下商業施設「こかげテラス」がオープンした。 

 

 「こかげテラス」に直結の改札も新設され、つくばエクスプレスの線路によって分断されていた駅の西側と南側がつながった。 

 

 

 高架下なので実際には“こかげ”ではないのだが、確かに陰になっていて暑い日でも歩きやすい。高架下を”こかげ”と名付けたセンスが光る。 

 

 流山おおたかの森の開発は、20年代になっても続いた。2021年に、「FLAPS」と、複合オフィスビル「アゼリアテラス」が、続く2022年には「ANNEX2」と、小型施設「GREEN PATH」がオープンした。 

 

■高架下の商業施設開発でも珍しいタイプ?  

 

 近年、高架下の商業施設開発はよく見られるが、その多くは鉄道会社によるものだ。路線を持たないデベロッパーが手がけるのは珍しい。 

 

 高架下も含め、ひとつの街にこれだけの施設を開発しているのは、東神開発が街の信頼を得ているからだろう。 

 

 そして、2023年には駅直結の「TXグランドアベニュー」をリニューアルオープンしている。 

 

■東神開発が流山おおたかの森の街をつくった 

 

 流山おおたかの森駅周辺を歩いていると、ぱっと目に入る建物がすべて新しい。この街がいかに近年、イチからつくられたかを感じる。 

 

 駅から少し歩くと戸建ても増えるが、やはり築年数の浅そうなお宅が多い。 

 

■人口増が止まらない流山 

 

 千葉県の毎月定住人口調査月報によると、「流山おおたかの森S・C」が開業した2007年3月時点での流山市の人口は15万5191人であった。それが2025年6月には21万4237人と、約38%も増加した。 

 

 総務省統計局の人口推計を見ると、日本の人口は2007年から2024年で約3%減少しているため、流山市の人口増加がいかに圧倒的かがわかる。 

 

 流山おおたかの森駅周辺で開発をしているのは、東神開発だけはない。スターツグループも、マンションやホテル、商業施設、公共施設を開発している。 

 

 このように、東神開発以外にも流山おおたかの森駅周辺で開発しているが、いずれも後発で、かつ規模はそこまで大きくない。 

 

 流山おおたかの森駅周辺の街の基盤をつくったのは、東神開発といって過言ではないだろう。ひとつの駅に、ひとつのデベロッパーが、これほど何年もかけて開発を行う例は極めて少ない。 

 

■街に貢献している「流山おおたかの森S・C」 

 

 「流山おおたかの森S・C」はさまざまな機能を補い続け、街の魅力を高めてきた。その功績もあり、流山市の人口は急増した。 

 

なぜ、「流山おおたかの森S・C」はこれほど拡大できたのか。東神開発は、流山おおたかの森の街をつくることができたのか。後編の記事―【後編】流山はなぜ“人口急増の街”に変貌? 「流山おおたかの森S・C」から考える、商業施設の生みの親と育ての親の重要さ―では、流山の街の歴史とともに、その理由に迫る。 

 

坪川 うた :ライター・ショッピングセンター偏愛家 

 

 

 
 

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