( 313293 )  2025/08/04 07:10:07  
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結局、トランプ大統領がTACOだと想定して上昇していた米株式市場が正しかった(8月1日、ホワイトハウスの記者会見にて) Jessica Koscielniak-REUTERS 

 

トランプ米大統領は、日本に続いてEUとの関税交渉においても関税率を15%に引き下げて妥結した。日本の基幹産業である自動車の関税率も15%に引き下げた今回の決定は、筆者を含めた多くの市場参加者にとってサプライズである。 

 

トランプ氏はいわゆるTACO、「Trump Always Chickens Out(トランプはいつも怖気づく)」との揶揄には不愉快だったようだが、4月初旬に掲げた高い関税率は概ね引き下げられ、結局はTACOであったということだ。 

 

ディールを有利に運ぶための材料として高関税政策の脅しを使っていた、ということになる。日本や欧州が承諾した米国に対する大規模な投資へのコミットが、米国が獲得した成果の一つである。 

 

とはいえ、米国への投資判断は民間企業によって行われるので、政府には、政府系金融機関による融資拡大など側面支援しかできない。この出資や融資が返済されなければ日本の損失(=米国への資金支援)になるリスクがある。 

 

ただ、詳細は不明だが政府系金融機関の出資比率が抑制されていることを踏まえれば、大きな問題にならない融資規模にとどまり、自動車に25%の関税を課されるダメージのコストのほうが明らかに大きいと判断される。 

 

また、自国への自傷政策でもある高関税政策を断行するリスクをベッセント財務長官らが理解しており、トランプ大統領は必ずしも教条的な高関税主義者ではなかったようだ。株式市場の上昇は続いている一方で、トランプ大統領の支持率が停滞し続けているため、「ディールによる成果」を獲得したい政治事情も妥協を急いだ大きな理由だろう。 

 

いずれしても、自動車への25%関税賦課は避けられないと筆者は予想していたが、トランプがTACOであり続けることを想定して上昇していた米株式市場が正しかった、ということである。 

 

ただ、日本や欧州が米国とのディールに至ったわけだが、もちろん手放しで褒められるものではない。一方的に米国から15%の高関税を課されること自体が不合理で、自動車など輸出産業がダメージを受けるし、その上で公的資金による米国への融資を強いられるのが実情である。 

 

25%の関税賦課という厳しい事態は回避されたが、米国第一主義を掲げる横暴なトランプ政権が世界経済のリスクであることは変わらない。 

 

日本経済に目を転じると、2024年央から個人消費にブレーキがかかり低成長が続いている上、為替市場で2024年までの超円安が転換して、対米輸出の高関税賦課に直面する輸出企業の環境は厳しくなる一方である。 

 

日本経済を一段と成長させるには、個人消費を刺激する財政金融政策が必要になっている。7月20日の参議院選挙での自民党の大敗は、小規模の給付金支給という政策を打ち出した、経済官僚に依存する石破政権への不信感が最大の要因だった。 

 

インフレ率が高まる中で「行き過ぎた徴税」が続いているのだから、家計に対して恒久的な減税を行う必要があると筆者は考えている(7月22日コラム「続投宣言の石破首相は理解できない、有権者が『現金給付』に嫌悪感を抱く理由」参照)。 

 

 

石破政権は続投の意向を示しているが、近いうちに自らの議席確保に危機感を抱く自民党議員から見放される、と引き続き予想している。そして、石破政権への失望で自民党から離れた有権者を引き寄せるために、安倍晋三元首相の後継者と目される高市早苗氏が次期総裁の有力候補になるだろう。 

 

高市総裁となれば、減税政策を一貫して主張している国民民主党との政策協力で、予算が可決する可能性が高まる。そうなれば、日本の緊縮的な財政政策運営が拡張方向に転じるゲームチェンジャーになる。期待を込めて筆者はこれを蓋然性が高いメインシナリオと想定している。 

 

もちろん、次の自民党総裁の有力候補としてはほかに、現閣僚である小泉進次郎氏、林芳正氏なども挙げられるが、この場合は石破政権が続投するケースと経済政策は変わらないだろう。 

 

このシナリオでは、減税を掲げる国民民主党との政策協定は実現せずに、極めて限定的な財政政策にとどまるのではないか。この場合、円安の修正やトランプ関税の逆風に直面する日本経済の停滞は続く見通しである。 

 

2025年の猛暑が続く夏に、日本経済は重要な転機を迎えている。 

 

村上尚己 

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト 

 

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません) 

 

 

 
 

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