( 313543 )  2025/08/05 06:17:47  
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オリエンタルランドは酷暑下でも楽しめるイベントを模索する 

 

 東京ディズニーリゾート(TDR、千葉県浦安市)が夏の集客に苦戦している。運営するオリエンタルランド(OLC)によると、新エリアを開業したにも関わらず、2024年4~9月の入園者数は新型コロナウイルス禍以降、初めて減少した。夏の猛暑や公式アプリ導入による煩雑さが顧客満足度の低下を招いているようだ。 

 

 「汗が止まらない」「焦げそう」ーー。  

 

 最高気温が30度を超えた7月上旬の休日、東京ディズニーランドを訪れると、そんな声があちこちから聞こえてきた。アスファルトの照り返しで足元からじわりと熱が立ち上ってくる。パーク内は日陰が少なく、歩くだけでじっとりと汗が背中を伝う。 

 

 入園後すぐにミニーマウスのカチューシャを買って頭に付けたが、写真撮影をするとき以外は日傘を差したままだ。かわいいカチューシャが日傘で隠れても、暑さにはかなわない。レストランには人気アトラクションかと見まがうほどの長い列――。テラス席は空席なのに、室内席は満席だ。「少しでも涼しい場所へ」。考えることはみんな同じのようだ。 

 

 OLCは4月、TDRの24年度の入園者数が約2760万人だったと明らかにした。前年度比でほぼ横ばいだった。だが、24年4~9月の入園者数は1220万人と前年同期比で2.4%減少した。テーマパーク事業の売上高は前年同期比では増加したものの、想定を7.4%下回る約2390億円となった。コロナ禍による外出自粛の影響がなくなって以来、4~9月で初めて入園者が減少した。旅行需要の減少や猛暑などの影響が想定よりも大きかったという。 

 

 同社は24年6月、東京ディズニーシーで約3010億円を投じた新エリア「ファンタジースプリングス」を開業したばかりだ。「アナと雪の女王」をはじめ人気コンテンツのアトラクションを4つ投入した。だが、上半期だけで見れば、開業前と比べて2つのパークの合計入園者は落ち込んだ。 

 

 集客を阻むのが年々厳しさを増す猛暑だ。同社は入園者数を取り戻そうと暑さ対策に力を注ぐ。「猛暑は私どもがどうこうできるものではなく、ずっと暑いと認識している。その中でも、ゲストが快適にお過ごしできるように考えている」とオリエンタルランドの高橋渉社長は話す。 

 

●「水が多くかかる場所は?」 

 

 ディズニーランドでは、7月2日から新パレード「ベイマックスのミッション・クールダウン」を開催している。公演は1日3回、各約35分間だ。「ベイマックス」を乗せた台車などがパーク内を移動し、大量の水を広範囲にまきちらす。夏の暑さを緩和させる取り組みの1つだ。 

 

 

 同パレードは23年から実施しているが、使用する水の量は年々増えている。「水が多くかかる場所はどこですか?」。あるゲストはそうキャストに尋ねていた。記者はあまり水がかからないようベイマックスから少し離れていたつもりだったが、服やカバンがびっしょりぬれた。一時的に暑さが和らいだ。 

 

 水にぬれるパレードの他にも、さまざまなかたちで猛暑対策を講じる。パークの屋外ベンチの真上には、日差しを防ぐ布「タープ」を掛け、各所に日陰をつくっている。ミストシャワーの設置に加え、25年からウォーターサーバーの試験導入も開始した。暑さをしのいだり水分補給を促したりすることで、ゲストの熱中症を防ぐ。 

 

●休日午後3時から入園、10年ぶり復活 

 

 多様化する来園ニーズに応えるため、販売するチケットの幅も広げる。 

 

 休日午後3時から指定したパークに入園できる「アーリーイブニングパスポート」と、平日の午後5時から入園できる「ウィークナイトパスポート」をどちらも全ての曜日で購入できるようにした。ウィークナイトパスポートは4500~6200円で、現在最も高く設定されている1デーパスポートの価格、1万900円の半額ほどで手に入る。 

 

 ゲストは暑さのピーク時間帯を避けて、比較的低価格で入園できる。2種類のチケットが全曜日で購入できるようになったのは約10年ぶり。OLC経営戦略本部リゾート統括部の土手就光氏は「自身の体調に合わせて夏の暑さをしのぎながら入園してほしい」と狙いを話した。 

 

●公式アプリ「使いこなせない」 

 

 TDRでは暑さ対策以外にも、パークの満足度や利便性を高める取り組みを進められている。その一つが、18年に導入した同社の公式スマートフォンアプリだ。チケットの購入をはじめ、待ち時間が短縮されるパスの取得など、従来は対面で対応していたものの多くがアプリで完結できるようになった。 

 

 アプリを活用すれば、より効率的にパークを満喫できる。例えば短い待ち時間でアトラクションを楽しめるパス。現在は、「40周年記念プライオリティパス」という名称で、ランドとシーの両施設で特定のアトラクションに対して使用できる。以前は同様のパスを発行するために、アトラクション付近まで直接足を運ぶ必要があった。現在はスマホの操作一つで取得できる。アプリ上で同行者とデータを連携させることで、一度に人数分のパスが発行可能だ。 

 

 しかし、デジタル化が急速に進んだことに戸惑いの声が見られる。約2年半ぶりにディズニーランドを訪れたという20代の女性は「とりあえず公式アプリを入れてみたものの、使い方がよく分からずほとんど開いていない」と話した。SNS上でも「楽しむためには高度な下調べが必要」「私が知っているディズニーではなくなった」という声が散見される。 

 

 効率的なパーク体験につながるはずのアプリに対してこのような不満の声が出るのはなぜか。スマホを開く場面が増えたことで、パークの体験価値が低下している恐れがある。非日常を楽しむために入園したはずが、パスの取得やショーの応募などでアプリを度々開くことになり、日常と切り離すことが難しくなったようだ。TDRでは20年に紙の園内マップの配布を廃止した。パーク内を歩くにもスマホが手放せない。 

 

 さらにスマホを手放しにくくしているのが、「キャンセル待ち」機能だ。待ち時間を短縮できるパスは、それぞれその日の発行枚数が決まっている。しかしアプリ画面を根気よく更新していると、キャンセル分のパスが獲得できることがある。アトラクションによってはパスがないと列に並ぶことができない場合もあるため、パークでの体験を楽しむには一定時間、スマホ画面から目が離せない。 

 

●満足度がUSJと横ばいに 

 

 日本生産性本部サービス産業生産性協議会のJCSI(日本版顧客満足度指数)調査によると、TDRの24年度の顧客満足度は前年比で1.1ポイント低下した。21年度には3.1ポイントあったユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)との差も、24年度は0.8ポイント差と大きく縮まっている。 

 

 両施設のチケットはどちらも最も高い日で1万円を超えており、価格に大きな差はない。OLCが取り組む運営のデジタル化は、満足度低下の一因となっている可能性がある。レジャーやサービス業界に詳しい関係者は「行き過ぎたデジタル化は満足度の低下につながる」と指摘する。 

 

 OLCは25年度、前年度比約40万人多い2800万人の入園者数を見込む。消費者のニーズがめまぐるしく変化するなか、TDRは値段に見合った体験価値を提供し続けられるか。夢の国は転換期を迎えている。 

 

関 ひらら 

 

 

 
 

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