( 313558 ) 2025/08/05 06:37:05 0 00 (※写真はイメージです/PIXTA)
定年を迎え、都会の喧騒を離れて自然豊かな場所で暮らす。多くの人が一度は夢見る、穏やかなセカンドライフ。しかし、その夢を実現しようと地方の格安物件に飛びついた結果、想像もしなかった「悪夢」に苛まれる人も。特にバブル期に建てられた「リゾートマンション」には要注意です。本記事では、波多FP事務所の代表ファイナンシャルプランナー・波多勇気氏が、高瀬さん(仮名)の事例とともに、負動産の落とし穴について解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
「これが15万円で買えるなんて、信じられないよ」
そう語ったのは、68歳の元会社員・高瀬一雄さん(仮名)。定年後のセカンドライフを楽しむため、貯蓄280万円の中から“わずか15万円”で新潟県湯沢町のリゾートマンションを購入し、都内から移住しました。
会社員時代の年収は、約500万円。年金額は月に12万円程度です。地道に働き、子ども2人を育て上げ、ようやく自分のために時間を使える老後が始まったはずでした。
「都心のワンルームなんて何千万円もするでしょう? それに比べて湯沢のリゾートマンションは激安でした。15万円で住まいが買えるんですよ?」
友人に勧められ、現地を訪れたその日に購入を決断。山々に囲まれた景色に心が躍り、「これぞ第二の人生の始まりだ」と確信したはずでした。しかしその半年後、高瀬さんはこの決断を疑うようになります。
「冬の暖房代が、月に3万円以上かかるなんて聞いてなかった……」
購入後すぐに直面したのが、想像以上のランニングコストでした。築30年以上の建物は断熱性も弱く、冬場の光熱費が高騰。特に驚いたのは、なにもしなくてもかかり続ける固定費です。管理費と修繕積立金は毎月合わせて2万5,000円、1年間で30万円。これに固定資産税が年1万5,000円程度上乗せされます。
わずか1年で、高瀬さんの手元には重い支出の記録が残りました。
「冬場はほとんど家にこもっていたのに、年間の維持費だけで30万円を超えてしまった。暖房を本格的につかったら40万円以上でしょう。購入価格は安くても、これでは“持ってるだけで毎年大赤字”ですよ」
しかも、マンションはほとんど空室。人の気配はなく、エレベーターは古び、廊下の電灯は一部切れたまま。共用部の管理は十分とはいえず、夜は薄暗くて不安になるほどです。
「ご近所付き合いもなくて、逆に寂しくなってね。妻以外、誰とも話さない日もざらでした。“買うんじゃなかった”と、日に日に後悔が募っていったんです」
加えて、マンションの老朽化にともなう将来的な修繕費負担も不安材料です。総戸数の多くが空室のため、現実には「居住者だけで費用を負担」しなければならず、管理組合の運営も機能不全に陥りつつあります。
実際、こうしたリゾートマンションのなかには、売却しようにも買い手が見つからず処分不能になっている例も少なくありません。特に、湯沢町のようなスキーリゾート地では、かつてバブル期に1,000万円超で売られていた物件が、いまはネット上で「格安物件」として並んでいるケースも。
「子どもたちにも“相続したくないから名義を変えるな”っていわれました」
終の棲家のつもりで手にしたリゾートマンションが、いざというときの足かせになる――。全国的に広がる空き家問題にも通ずるものがあるでしょう。
総務省の調査(2023年住宅・土地統計調査)によると、全国の空き家率は過去最高の13.6%。このうち「別荘などの二次的住宅」は41万戸にのぼります。今後ますます高齢化が進むなか、「管理されない別荘」が地域の課題としても浮上しています。
筆者自身、ファイナンシャルプランナーとして数多くの定年後の住まいをどうすればよいか、という相談を受けてきました。「安いから」という理由だけで不動産を購入するのは、極めてリスクの高い判断です。購入前には、以下の3点を必ず検討すべきです。
1.ランニングコストを“年単位”で見積もる
管理費、修繕積立金、光熱費、固定資産税など、持っているだけでかかる費用を把握し、「本当に住むのか」「セカンドハウスとして使う頻度」と照らし合わせましょう。
2.出口戦略(売却・処分方法)を事前に考える
将来売れる見込みがあるのか? 子に相続する場合はどうするか? 「持ち続けるリスク」と「手放せないリスク」を想定しておくことが大切です。
3.“見栄”や“憧れ”ではなく、“生活実態”に合うかどうか
リゾートマンションは夢を見せてくれますが、現実を生きる場所ではないことも多いです。老後の住まいは、通院・買い物・生活インフラへのアクセスがなによりも重要です。
移住から半年が過ぎたころには、高瀬さんの心はほとんど折れていました。しかし、「すぐに逃げ帰るなんて格好悪い」という意地だけで、そこからさらに半年間、湯沢での孤独な生活を続けたのです。
そして移住からちょうど1年後、高瀬さんはついに湯沢の家を引き払い、再び都内の古い団地に戻ることを決断。地域の高齢者会に参加しながら穏やかな生活を送っています。湯沢のリゾートマンションは空き家のまま、固定費だけが家計を圧迫し続けています。
「夢を見たことは、後悔していない。でも、もっと計画的に、“自分の生活”に合う選択をすべきだったと思いますよ」
誰にとっても、老後は「夢の実現」と「現実の生活」のバランスを問われる時期です。格安の誘惑に流されず、冷静な判断と長期的な視点で、“後悔しない住まい選び”を心がけていただきたいと思います。
波多 勇気
波多FP事務所
代表ファイナンシャルプランナー
波多 勇気
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