( 313738 )  2025/08/06 04:39:54  
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石破首相 ©時事通信社 

 

「 

 

」というハッシュタグがXで目立つ。官邸前ではやめるなデモもおこなわれている。声を上げる人は自民党支持者以外も多いようだ。タグを追っていくと「高市早苗政権誕生だと極右になる、だから石破辞めるな」という言説をよく見かける。 

 

 あとは旧安倍派についての言及も多い。裏金問題があったのだから選挙の敗北は石破首相一人の責任なのか?というもの。よりによって裏金問題の震源地だった旧安倍派の面々が石破おろしを仕掛けているのも火に油を注いでいる。たとえば萩生田光一氏は「政治家の出処進退は自分で決める」とブログで石破首相に退陣を迫ったが、政治とカネ問題をめぐり「萩生田氏の政策秘書を略式起訴へ」というニュースが日曜に流れた。「政治家の出処進退」という自身の言葉が刺さる。確かに間抜けである。 

 

 安倍派以外にも茂木敏充氏が石破首相について「スリーアウトチェンジ」と発言したことも面白い。ポスト石破への気持ちが隠せないようだが、じゃあ自分は何アウトなんだろう。飛んで火にいる夏の虫。 

 

「 

 

」には歴史認識問題もある。最近だと参政党の初鹿野裕樹氏(神奈川選挙区)が旧日本軍による南京事件を否定するというトンデモぶりが明らかになった。無教養にプラスして歴史改ざんの恐ろしさが忍び寄るなか、石破首相は「歴史修正主義」を「何を意味するかわかんない」と回答した。 

 

 TBSラジオの参院選特番で、第二次世界大戦での日本軍の死者に言及し「兵隊さんで亡くなった方々の6割は戦って亡くなったわけじゃないんです。病死や餓死だったということを考えねばならんと思います。やはりきちんと過去の直視を忘れてはならんのだと思っています」と述べた。再評価されたが、首相が歴史と向き合うだけで見直されるなんてどれだけヤバい状況なんだ。 

 

 首相自身も石破おろしには怒っているという。旧安倍派が活発に動いていることに対し、周囲に「こんなでたらめをやられてたまるか。だれがここまで自民党を駄目にしたんだ。自分のことしか考えていない」と強い憤りを見せていると朝日新聞は伝える(7月26日)。 

 

 

 こうした時系列をみると石破首相は党内で戦っているように思える。極右化への歯止めとして期待されるのもわかる。しかし時系列をさらに遡ると、むしろ保守派に媚びを売り、取り込まれてきたのは石破氏その人ではなかったか。 

 

 思い出すのは首相就任直後の野党へのあいさつ回りだ。「石破カラーをちゃんと出して頑張ってください」と声をかけられると、「出したら打たれるでしょ」「出すと国民は喜ぶ。党内は怒る」とあっさり語っていた。自分がトップになっても自民党は変わらないと早々に宣言したも同然だった。 

 

 実際に首相になると持論を言わなくなり、自民党らしさを受け継いだ。商品券10万円を配布して、企業団体献金の見直しは結論を先送り。さらには「『違法外国人ゼロ』に向けた取組みを加速化」と掲げた。 

 

※施策の前提となる「ルール」を守らない外国人に関する客観的データは十分とは言えないと報道されていた(6月10日・朝日新聞)。 

 

 さらに参政党の「外国人対策」がウケているとなったら参院選が始まると外国人政策に関する政府の新組織発足を表明した。これについても「外国人の増加と治安の悪化に相関関係があることを示す明確なデータは見当たらないのが実情だ」(7月16日・信濃毎日新聞)と指摘されている。 

 

 石破氏なら自民党の極右化を止められるというが、やってきたことを並べると石破氏も立派な「一員」にみえる。参院選で杉田水脈氏の公認をしたのも石破政権だ。 

 

 石破氏は元々「保守層」に嫌われていた。それなら腹を決めて党の外(一般世間)に自分らしさを訴えればよかったものを、党内の「保守層」に媚びた。でも効果がなかった。結局、無党派層や中道も含めてあらゆる層から嫌われた。参院選で負けたのは当たり前である。 

 

 そもそも本来の保守とは寛容さではなかったか。排外主義的な言説を支持する「保守層」が自民党の外に流れたならむしろ良いチャンスだったのではないか。政権発足を機に、穏健保守を立て直す機会にすればよかったのだ。やはり責任は重い。 

 

 それでも政権の座に粘る石破首相を好意的に解釈するなら、8月15日の終戦の日に自分らしいメッセージを出したいのだろうと予想できた。 

 

 しかし先週金曜夜に朝日新聞は『石破首相の戦後80年メッセージ文書 終戦の日も9月2日も見送りへ』と報じた。 

 

 メッセージ発出で保守派のさらなる反発を招き、「石破おろし」が加速しかねないと判断したという。結局は自分の地位を守るための判断なのか。 

 

 ただ朝日新聞は「メッセージを文書で出すことを見送る方向で調整に入った」と書いている。これだと「文書」は出さないが何らかのコメントは出す可能性もあるとも読める。 

 

 このあたりをどう読めばよいのか? 時事通信社解説委員の山田惠資氏に聞くと、石破首相が3月に防衛大学卒業式でおこなった訓示にヒントがあるという。首相は訓示の最後で文庫の『戦艦大和ノ最期』(吉田満)を卒業生に勧めていた。 

 

 山田氏はこれを「戦争の悲惨さを伝えようとしている」とし、「石破氏は常々、日本は戦争の総括をしていないと口にしている」ことに注目する。首相個人のメッセージについては、文書で出すには私的諮問機関を設置して検証が必要なので、コメ問題やトランプ関税、選挙で時間がとれなかった物理的な要因もあったのでは?と。「もし9月以降も政権が存続するならば、秋以降にメッセージ文書の検討を続けたいのでは」という。保守派に配慮して「談話」をやめた時期から、直近はやる気モードになっているのでは?とも。 

 

 

 もう一人、『石破茂の「頭の中」』という著作があるジャーナリストの鈴木哲夫氏に聞いてみた。鈴木氏は朝日新聞の一報が出たあとの先週土曜夜に首相本人に取材していた。「8月15日かどうかは別にして必ず出したい」と本人は言っていたという。これが最新の石破茂の「頭の中」らしい。こうしてみると「談話」なのか「メッセージ文書」なのか、ただの「コメント」なのか、曖昧だったことも情報が錯綜する要因となったように思える。要はどんな形であれ「見解」を出したいようだ。 

 

 自民党総裁になった直後、石破氏がこれから戦うのは過去の自分だろうと思った。今までの言動が問われるからだ。ある意味「過去が殺しに来る」のだ。するとこの10か月、石破氏はほぼ何もしなかった。厳しいことを言うなら理想はあるが実行力や胆力は無い人に見えた。 

 

 そこで「 

 

」を叫んでいる方々に提案したいのだ。政策転換(持論遂行)も条件に付けたらどうだろう? 今の石破氏は単なる自民党内の権力闘争をやっているようにしか見えないからだ。もし世間を巻き込みたいなら持論を展開するべきではないか。裏金問題の徹底解明や、選択的夫婦別姓制度をやっぱりやりたいんだ!と言えばいい。一般世間(無党派の人など)には今よりずっと響くのではないか? そうした条件を本人に突きつければ「石破やめるな」もさらに広がりが出るのではないか。 

 

 ただ、そこまでの器はやはり石破さんにはなかった、誰が自民党総裁になっても同じ、というオチも浮かぶのだが。 

 

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プチ鹿島 

 

 

 
 

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