( 314268 )  2025/08/08 03:40:12  
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開幕早々、暴力事件の発覚や選手の熱中症など、波乱続きの「第107回高等学校野球選手権大会」(画像:阪神甲子園球場公式Instagramより) 

 

 原爆投下から80年となる8月6日朝、広島で平和記念式典が行われているとき、ネット上ではまったく別の事態に広島県民が衝撃を受けていました。 

 

■「辞退すれば」「隠蔽体質」がXのトレンド入り 

 

 その事態とは、5日夕方に開幕したばかりの「第107回全国高等学校野球選手権大会」(以下、甲子園大会)に出場中の広島県代表・広陵高校における不祥事の発覚。 

 

 今年1月に当時2年生部員から1年生部員への暴力事案があり、日本高等学校野球連盟(以下、日本高野連)から3月に厳重注意を受けながら、チームも選手も出場を辞退せず、被害生徒が転校したことなどが明らかになりました。 

 

 SNSでは暴力事案の内容や加害者とみなされた部員の名前・写真などがあげられる事態に発展。 

 

 Xには「辞退すれば」「隠蔽体質」「高野連副会長」「ネットのおもちゃ」などの関連ワードが次々にトレンド入りし、平和記念式典と合わせてランキング上位を広島絡みのワードが占める異例の状況が見られました。 

 

 そして高校野球をめぐる6日の騒動はこれだけにとどまりません。 

 

 甲子園球場で行われている大会2日目の第1試合で、宮城県代表・仙台育英の捕手が守備中に足をつって背負われたままベンチに下がり、途中交代。続いて同校の右翼手が倒れ込んで動けなくなり、担架で運ばれて交代しました。 

 

 さらに第2試合でも島根県代表・開星の打者が足に変調を訴え、担架で運ばれて交代。いずれも熱中症の疑いが強いことからネット上には「なぜやるのか」「限界」などの批判があがったほか、「自力歩行困難」などのワードがトレンド入りしました。 

 

 くしくも6日に起きた2つの事態に、高校生運動部の活動にすぎない甲子園大会がこれほどの反響を集め、「ネットのおもちゃ」にされる背景が見え隠れしています。 

 

■学校と日本高野連の「ガバナンス不全」か 

 

 広陵高校の不祥事に関しては、加害者とみなされた選手たちが名前と顔をさらされるなどの無法状態が継続中。 

 

 「叩かずにはいられない」「人生潰して」「悪いことしたんだから仕方ない」「ネットから消えないし就職にも響く」「一生ネットのおもちゃ」などの物騒なコメントが書き込まれています。 

 

 ただ現時点では、6日に急きょ広陵高校が発表した文書に「インターネット上では調査結果とは異なる事実、憶測に基づく投稿や、関係しない生徒への誹謗中傷も一部見受けられます」と書かれていたように、多くの情報が真偽不明という段階にすぎません。 

 

 

 広陵高校の対応にはまだまだ疑問が残るものの、まるで“推定重罪”のように責め立てる様子には残酷さを感じてしまいます。 

 

 自分が名前と顔をさらした人物は本当に加害者で確定なのか。その情報はどこまで信頼に足るものなのか。「被害者のため」という免罪符を本人に確認せず使っていないか。 

 

 これらがクリアになっていないのなら、ネット上の書き込みも誹謗中傷の加害者として訴えられてしまうリスクがあることを覚えておくべきでしょう。 

 

 この件における最大の問題は、そんな“推定重罪”で叩くムードを招いた背景。ここまでの対応は「学校と日本高野連のガバナンスに問題があった」と言われても仕方がないところがありました。 

 

 学校側は、聞き取り調査の結果を広島県高野連と日本高野連に報告したこと、加害者とみられる生徒への指導・処分を行ったこと、再発防止に努めていることなどを明かしました。 

 

 「すでに処分済みの事案であり、今後に生かしていく」というスタンスがうかがえますが、重大事案であるにもかかわらず外部への発表はなし。暴力事案が話題になりはじめてからのここ1週間あまりも、試合前日の6日までこれといった対応はありませんでした。 

 

 6日に急きょ発表された文書に「被害生徒及び加害生徒の保護の観点から公表を差し控えておりました」というフレーズがありましたが、学校へのダメージや出場辞退などを恐れた隠蔽とみなしている人が少なくありません。 

 

 さらに「被害者が転校を余儀なくされた一方、加害者が軽い処分で済み、晴れの甲子園大会でプレーするという選択は間違った教育ではないのか」などのコメントも散見されます。 

 

 また、監督などの事態を把握している人物からのコメントがないことも不信感を抱かせている理由の1つでしょう。 

 

 もし「今後もこの事案についてこれ以上、語るつもりはない」、あるいは「チームの試合がすべて終了するまでは何も話さない」という姿勢なら、さらに批判は加熱しそうです。 

 

■「試合前夜の緊急会見」が対応の遅さを象徴 

 

 一方の日本高野連も、広陵高校に厳重注意したことを認めながら、日本学生野球憲章に基づく規則を持ち出したうえで、「注意・厳重注意は原則として公表しないと定めています」などの説明にとどめていました。 

 

 しかし6日22時すぎ、日本高野連は緊急会見を実行。 

 

 

 「SNSなどで拡散されている事案の内容と広陵高校からの報告内容に違いがあった」ものの、「6日に学校側からこれまで報告していた内容以外に新たな事実関係はない」という表明があり、「大会出場の判断に変更はない」ことなどを明かしました。 

 

 ただ被害者側から「7月に被害届が出されている」という報道もあり、刑事事件となりうるケースでも本当に「厳重注意のみ」「一方からの聞き取りのみ」でいいのか、疑問の声があがるのは当然でしょう。 

 

 日本高野連の処分基準の詳細はホームページに記載されているものの、かなりの長文かつ形式的な記載であり、「世間の人々にこれを読んで理解してもらう」のはほぼ不可能。 

 

 世間が求める「なぜチームや選手は出場停止でないのか」「過去の飲酒・喫煙による不祥事との違いはあるのか」などに言及しない限り、ネット上での批判は避けられないでしょう。 

 

 試合前夜に緊急会見を開いた対応の遅さも含め、ガバナンスの危うさを感じさせたことが、「広陵高校の校長が広島県高野連の副会長だから軽い処分になったのでは」というさらなる疑惑を招くことにもつながってしまいました。 

 

 今年はフジテレビのガバナンスが問題視され、スポンサーがCMを控えるなどの危機的状況に陥る様子を目の当たりにした人々の情報量や知識は明らかに増しています。それだけに高校と日本高野連の対応が変わらない限り、沈静化に向かうことは難しいのではないでしょうか。 

 

 もう1つの問題である猛暑への批判は、ある意味で不祥事よりも複雑かつ根深いものに見えます。 

 

 そもそも今大会は暑さのピークを避けるために、午前と夕方の“2部制”を2024年の3日間から6日間に倍増。さらに開会式も史上初めて夕方から行い、開幕戦もナイター開催に変更されました。 

 

 それ以外でも、第2試合が13時30分、第4試合が22時を超えたら翌日以降の継続試合に移行、5回終了時に冷房の効いたスペースでのクーリングタイム、試合前ノックの選択制と短縮、飲料やアイススラリー、経口補水液、補食の提供、医師・看護師の準備などの猛暑対策が施されています。 

 

 審判、応援団、観客などへのケアも含め、猛暑対策が年々強化されていることは間違いありません。 

 

 さらに出場校もアンダーシャツや帽子などを黒などの濃い色から白などの薄い色に変えたり、試合前後の練習を効率化したり、塩分補給と栄養管理を徹底したりなどの猛暑対策を進めています。 

 

 

■なぜ「甲子園での開催」にこだわるのか 

 

 ただ、ここまでやっても猛暑対策が十分ではないことは、相次ぐ負傷からも明白でしょう。 

 

 くしくも選手宣誓に「自然環境や社会の状況が変化していく中で高校野球のあり方も問われています」というフレーズがあったように、選手たちもそのリスクや逆風を感じているようです。 

 

 「高校生活のすべてを甲子園にかけてやってきた」という選手たちの思いや、チームメイトとの絆、懸命なプレーなどに疑いの余地はないでしょう。しかし、最も守られるべきは選手を筆頭に監督やコーチ、応援団、観客、運営スタッフらの命であり、万が一の事態を避けるために「涼しいドーム球場での開催」を求める声が増えています。 

 

 選手たちが「憧れの甲子園でプレーしたい」という強い思いを抱くのはいつからなのか。中学生が高校入学後の甲子園を夢見るのなら彼らの思いを尊重して3年後にドーム球場へ変更する。 

 

 一方で小学生の野球少年には「君たちは安心安全なドーム球場を目指そう」と早くから予告しておくなどの配慮は可能でしょう。 

 

 「子どもたちのために甲子園から変更できない」というのはどう見ても大人の建前であり、本当の理由は他にもあるように見えてしまうのです。 

 

 では猛暑の中、甲子園での大会にこだわる理由は何なのか。それは継続を前提とする保守と経済的なメリットの2点でしょう。 

 

 まず「甲子園大会」というブランドは、プロのイベントを含めても、歴史・開催期間・参加者数・盛り上がりなど、さまざまな点で国内最高峰。 

 

 「影響力の大きさを保っているため、できるだけ形を変えずに継続していく」ことが前提であり、大会形式の調整ならまだしも、場所や時期などの変更は受け入れづらいというスタンスが感じられます。 

 

 一方、経済的なメリットに関しては、各所の思惑が絡み合うような複雑な状態。観客の入場料だけで数億円の利益をあげながら、学生の大会である以上、特定の企業・団体が莫大な利益を得ることはありません。 

 

 まず主催の日本高野連と朝日新聞社は、阪神電鉄が所有する甲子園球場の使用料支払いが無料。中継局のNHKとABCからも放映料を得ていないなど、大幅な利益を得るような商業利用が避けられてきました。 

 

 また、日本高野連は非営利の公益財団法人のため、内部留保こそあるものの、基本的に誰かが稼ぐことは難しいようです。 

 

 

 
 

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