( 314783 )  2025/08/09 07:59:13  
00

写真はイメージです 

 

公衆トイレなどに掲示されているピクトグラム(絵記号)は、日本では男性用トイレは青、女性用トイレは赤に色分けされているのが一般的でしたが、最近は、男女とも黒のピクトグラムをよく見かけるようになりました。スタイリッシュなデザインが目を引く反面、一見して性別の判断がつかず、男女を間違えて入ってしまう人もいるようです。読売新聞が運営するユーザー投稿サイト「発言小町」には、ピクトグラムを色分けしないことを疑問視する男性からの投稿が寄せられました。トイレのピクトグラムのルールについて、ユニバーサルデザインに詳しい東洋大学名誉教授の高橋儀平さんに聞きました。 

 

投稿者の「月」さんの職場に、顧客用トイレが新設されました。そのトイレには男性用・女性用の文字表記がなく、ピクトグラムのみが掲げられています。その上半身は男女ほぼ同じ形状で、男性はズボン、女性はスカートをはいたような下半身。どちらも黒一色です。 

 

男女のトイレが並んで配置されていないことも相まって、利用者から「男性用か女性用か分かりにくい」とのクレームがありました。会社側は、「青は男、赤は女」という決めつけは良くないとの判断から、男女とも黒のピクトグラムにしたといいますが、トピ主さんは「だったらスカートとズボンのシルエットも決めつけではないかと思うのです。そうなると、性別を表すピクトグラムは存続の危機ということでしょうか」と、発言小町に問いかけました。 

 

トピ主さんに呼応したのは、「みやん」さんです。「『男女とも平等に』なんて言いますけど、日本(のトイレ)は、男は青、女は赤でいいんじゃないかと。結局これが一番分かりやすい。決めつけだと他方で言われますが、切羽詰まった時にマークなんて見てられません」と主張します。 

 

レス(反響)の中には、トイレを間違えたことがあると告白した人もいました。「あまりにもオシャレなマークで、男性トイレへ入った経験があります。私は女性だけど、これが逆なら捕まりますよね。一歩間違えたら犯罪になってしまう。それを誘発するのはいかがなものか」と、「30代」さんは疑問を投げかけます。 

 

「トイレ近いのです」さんも、「新しくできた施設のトイレ、左右に男女トイレが分かれているのですが、マークが同じ色。しかも小さい。先日、シニアの男性が入ろうとしたので『こちら女性トイレですよ』と教えたら、『ええ? すみません』と慌てて引き返していかれました」と話しました。 

 

 

国土交通省によると、公共交通機関、公共施設、観光施設などで掲示される案内用ピクトグラムは、視覚的に情報を伝える「案内用図記号」として、国家規格(日本産業規格=JIS)に定められています。トイレの案内用図記号は、男性はズボン、女性はスカートを着用した図形になっています。 

 

高橋さんによると、このJISのピクトグラムは、公共的な施設で使用することが推奨されているものの、必ず従う義務はなく、色も青や赤のほか、黒やグレーなどのモノトーンを選んでも問題ありません。 

 

高橋さんは「公共交通機関や公共施設では、発注者がJISのピクトグラムをベースにして、設計者にデザインを指示するのが一般的です。一方、民間の観光施設などでは、観光協会やレストラン事業者などが、観光地の特色に合わせて独自に個性的なピクトグラムをデザイナーに提案してもらう場合もあります」と説明します。 

 

決まった人が出入りする事務所などの建物だと、トイレの位置は次第に利用者に認識されていきますが、不特定多数の人が利用する観光施設や商業施設などでは、トピ主さんの勤務先のトイレと同じように、「分かりにくい」といった声が届くことがあります。「その場合には、一度設置したピクトグラムですが、分かりやすさを優先して色を付けたり、デザインを変えることを考えても良いかもしれません」と高橋さん。 

 

ピクトグラムは、1964年の東京オリンピックがきっかけで広く認知されるようになったと言われています。当時から男性用は青でズボン、女性用は赤でスカートだったため、日本人にはそのイメージが根強く残っているのでしょう。 

 

高橋さんは「ピクトグラムで一番大切なのは、分かりやすさです。特に駅のトイレなどでは、急におなかの具合が悪くなり、駆け込む人もいます。公共的な施設では、私もできるだけJISのピクトグラムを使用した方がいいと思いますし、今後、トイレに限ってはそのように統一されていくのでは」と考察します。 

 

その一方で、民間施設では、柔軟な発想を持っていいとも。「トイレは多くの人が頻繁に利用するので、場所は少しずつ認知されていきます。個人的な意見としては、トイレのピクトグラムも含めて、楽しくて魅力のある施設にするための工夫をしていった方がいいと思います」 

 

利用者が男性用と女性用を間違えることを防ぐには、トイレの配置を考慮することも重要です。「例えば、右側が男性用、左側が女性用と施設内で統一して周知を図れば、視覚障害者をはじめ、誰にでも分かりやすくなります。分かりやすいトイレを作る時は、ピクトグラムだけではなくトータルに皆で考えていくことが大切です」と、高橋さんは話していました。 

 

(読売新聞メディア局 長縄由実) 

 

 

 
 

IMAGE