( 314978 )  2025/08/10 06:32:22  
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トランプ大統領=ロイター 

 

 【ニューヨーク=小林泰裕】米国で偽・誤情報の拡散が放置される風潮が強まっている。SNS事業者や報道機関が情報の真偽を調べる「ファクトチェック」の力が弱まっているほか、トランプ米大統領が自ら根拠のない情報を発信していることが背景にある。 

 

 米紙ワシントン・ポストでは7月末、政治家の発言の真偽を検証する「ザ・ファクトチェッカー」を長年担当していた著名編集者が退職した。後任は未定という。米国におけるファクトチェック・ジャーナリズムの代表格とされていたコーナーで、トランプ政権への追及が鈍る恐れがある。 

 

 フェイスブックやインスタグラムを運営する米メタは4月、第三者機関を通じたファクトチェックを米国で廃止した。X(旧ツイッター)も、陰謀論やヘイトスピーチに関する規制を緩めている。いずれも、投稿への「検閲だ」と批判するトランプ氏への配慮があるとみられる。 

 

 こうした対応は、「エリートと官僚機構が結託した『ディープステート(闇の政府)』に米国が操られている」などといった陰謀論の拡散にもつながっているとみられる。英調査研究機関「戦略対話研究所」によると、X上で陰謀論に言及した投稿は6月に約73万件と前年同月の6倍に増えた。多くが米国のアカウントから投稿されていた。 

 

 一方、トランプ氏は自身に都合の悪いニュースを発信する報道機関や政府機関への圧力を強めている。 

 

 7月には記事で名誉を傷つけられたとして、損害賠償を求めて米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの発行会社などを提訴した。同紙は、未成年人身取引罪などで起訴された米実業家エプスタイン氏とトランプ氏の交流を報じていた。 

 

 8月には、雇用統計で過去のデータが大幅に下方修正され、労働市場の冷え込みが示されたことを受けて「共和党と私の評判を落とすために不正に操作された」と根拠を示さずに非難。米労働省のマッケンターファー労働統計局長を解任するよう指示した。 

 

 米非営利団体「ポリティファクト」によると、トランプ氏は1月の就任から7月までの約半年間で、虚偽を含む発言や投稿を少なくとも33回繰り返した。戦略対話研究所は「公的な人物が裏付けのない主張を流布したり、信頼できる報道機関をおとしめたりすることが、社会の『不信の空気』に拍車をかけている」と指摘。「陰謀論は暴力行為の正当化などにつながり、社会の混乱や分断を助長しかねない」と警鐘を鳴らす。 

 

 

 
 

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