( 316248 ) 2025/08/15 05:02:43 0 00 Photo:Eugene Gologursky/gettyimages
「ドラゴンボールのテーマパークは作るべきではない!」――『週刊少年ジャンプ』伝説の編集長・鳥嶋和彦さんが吠えた。背景にあるのは、「ジャンプ作品は日本の子どもが育てた」という考えだ。読者を置き去りにしたビジネスの行方、原作を軽視する映像化の問題、そして出版社の責任とは。(ライター 池田鉄平、ダイヤモンド・ライフ編集部)
● ドラゴンボールのテーマパーク 作るべきじゃない!
――中東サウジアラビアの政府系会社と、東映アニメーションが「ドラゴンボール」のテーマパークを開業する予定です。鳥嶋さんは関わっているのでしょうか?
いや、僕は一切かかわっていません。僕がまだ集英社にいたら、あの企画は絶対にOKしていませんよ。理由はシンプル、日本の子どもが行けない場所だからです。
――外国の子どもは行けるのでは?
そうかもしれない。でも、政情も不安定な地域ですし、日本の子たちはまず行けないでしょ。
漫画をつくるのは出版社と作家ですが、育てるのは読者です。読者が応援し、買ってくれたからこそ成立しているわけで、目先の金儲けだけで動くのは本質を見失っている。
――でも、ディズニーランドのように老若男女が楽しめるテーマパークなら問題ないのでは?
日本のディズニーランドなら、日本の子どもは行けますね。でも、サウジアラビアは違うでしょ?お金がある大人向けの話になってしまっている。
『週刊少年ジャンプ』は、日本の子どもたちが支えてきた文化です。世界中で、子どもが自分のお金で買う雑誌なんて、日本の漫画雑誌だけなんですよ。だからこそ、日本の子どもたちが育ててきた文化を無視するようなことは、僕はすべきじゃないと思っている。
もし、パーク側で日本の子どもたちを無料で招待するようなプログラムがあるなら、話は別ですよ。キャラクターを通して日本の子どもとサウジアラビアを結びつけるような意義ある仕掛けがあるなら、まだ理解できるけど、そうじゃないでしょう?
大谷翔平選手が全国の小学校にグローブを寄付したような、そういう志がないなら、僕は納得できません。
この件はニュースで初めて知りました。関係各所は必ずしっぺ返しを食らうと思いますよ。ファンが支えてくれたキャラクターの上に、あぐらをかいているだけ。自分たちの手柄と勘違いしている。
――漫画がドラマ化や映画化される際、原作に即しているかがよく議論になります。最近では日本テレビのドラマ『セクシー田中さん』が、原作者の意図に反した内容だったのをきっかけに大問題が起きました。鳥嶋さんは、どのように考えますか?
あのような問題が起きるのは、そもそもビジネスとしての仕組みが未整備なままメディア展開が進んでしまうからです。僕だったら、アニメ化やドラマ化の話が出た時点で、必ずメリットとデメリットを整理して徹底的に考えます。
アニメ化すれば印税が入るし、単行本の売り上げも伸びるでしょう。でも、原作と異なる描写が出る可能性は当然ある。アニメ制作は集団作業なので、漫画のように作家ひとりの意志だけではつくれません。
だからこそ、準備段階で「この日までにイエス・ノーあるいは意見を出してください」と締め切りを設けて、「それ以降は制作に任せます」といったルールを明確にすべきなんです。キャラクター設定や世界観については原作者としっかり詰めるけど、それ以降はもう任せるという区切りも設けるべきです。
それができないなら、最初から断るべき。ビジネスとしての原理やルールを、出版社や編集者がしっかり確認して説明すべきです。
――『ONE PIECE』もさまざまな形で展開されていますが、作家はメディアミックスにあまり関わらない方がいいのでしょうか?
僕が「ワンピースのアニメに(原作者の)尾田栄一郎さんが関わりすぎている」と発言したことがある理由は、作者に過度な負担をかけるのは、作品にも作家の健康にも悪影響だからです。
基本的には、作家は作品に集中すべきです。メディア展開は出版社がマネジメントし、作家は必要な範囲で関わればいい。収益の一部が出版社に入るとしても、それは、編集者や仕組みを使うための手数料みたいなもの。もしそれが嫌なら、自分でスタッフを雇って、契約も交渉も全部自前でやればいいんです。
――例えば芸能界とテレビ局も大きな変革を求められていますが、漫画家と出版社の関係も変化していくと思いますか?
変わるのは簡単ではないと思います。芸能も漫画も、属人的な側面とビジネス的な側面が複雑に絡み合っているので、完全に切り分けるのは難しい。
ただ、お金や契約に関する話はきちんとしておかないと、後々トラブルになります。お互いの信頼があったうえで、親しき仲にもルールありが鉄則です。
池田鉄平/ダイヤモンド・ライフ編集部/鳥嶋和彦
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