( 316303 )  2025/08/15 06:05:25  
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政府が半世紀にわたり続けてきた減反(生産調整)を主軸とするコメ農政を大転換する。昨年夏からの米価高騰は収まる気配を見せず、減反の限界が露呈。失政を認めて、増産にかじを切り、安定供給を図る姿勢を明確にした。ただ、増産実現には農家支援や担い手不足解消にどう取り組むかという難題が立ちふさがる。米価下落を危惧する自民党農林族などの反発が障害となる可能性もある。 

 

■農水省が需給見誤る 

 

「生産量に不足があったことを真摯(しんし)に受け止める。増産にかじを切る」 

 

石破茂首相は5日、コメの安定供給に関する関係閣僚会議でこう宣言し、コメ政策の転換を打ち出した。 

 

「『令和の米騒動』とも言われる状況を作った(責任の)一端は間違いなく農林水産省にある」 

 

小泉進次郎農水相は8日の記者会見で、農水省がコメの需給見通しを誤ったことが米価高騰の一因だと認め、謝罪した。 

 

令和5年の猛暑でコメの収穫量が落ち、6年には米価が急騰し令和の米騒動に発展。農水省はコメの生産量は足りていると強弁し、政府備蓄米の放出が遅れた。人口減少で需要が減ると信じ、訪日客の消費増などを見抜けなかったと弁明した。 

 

政府は昭和45年、コメ余りを受け作付面積を制限して価格を維持する減反を開始。平成30年に農家の競争力向上が叫ばれ廃止されたが、その後も生産量の目安の提示や転作補助金を通じ事実上の減反が続いた。需給変動に柔軟に対応できなくなった脆弱(ぜいじゃく)な構造の転換が急がれる。 

 

増産に向けては今後、耕作放棄地の活用や農地の大区画化、自動で耕すロボットトラクターなど先端技術を活用したスマート農業の導入を推進する考え。輸出の大幅拡大も目指す。信頼性を高めた需給見通しの作成にも取り組む。 

 

■予想される「反発」 

 

ただ実現には課題が多い。増産が予想以上に進めば、農家は価格下落のリスクに直面する。セーフティーネットの整備が不可欠だが、与野党からは補助金や保険などさまざまな意見が出ている。 

 

農業従事者は高齢化が深刻さを増し、将来の担い手を確保することも急務だ。農業法人の参入促進の議論も必要になる。 

 

 

長く続く政策の見直しには反発も予想される。自民党農林族は価格下落による農家の収入減を懸念し「作りたいだけ作っても何とかならない。需要を作る政策をしなければならない」(上月良祐農林部会長)と訴える。 

 

首相は農水相時の21年にも減反の廃止に取り組んだが、重鎮の族議員や農業協同組合(JA)グループに反発され、頓挫した過去がある。 

 

当時はコメの作付面積の約半分が2ヘクタール未満の小規模農家だった。中山間地域などに位置して生産が非効率な農家も多く、減反の廃止で離農が増える可能性があった。農林族は票田を失うことを恐れたとされる。 

 

JAは米価を維持して販売手数料収入を確保しつつ、こうした農家から預金も集め収益につなげているとの指摘がある。 

 

政府は令和8年夏頃までに具体的な政策の方向性をとりまとめ、9年度以降に増産を実現する考え。反対意見をどう説き伏せ、どこまで道筋をつけられるかが注目される。(中村智隆) 

 

 

 
 

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