( 316531 )  2025/08/16 05:19:31  
00

日本マクドナルドがハッピーセットに付属した「ポケモンカード」の転売問題で謝罪し、再発防止策を講じたが、過去の「ちいかわ」騒動から学んでいなかった点が指摘されている。

大量の転売と店舗周辺の混乱、食品廃棄が問題となり、親たちは不満を募らせている。

4月の時点で転売目的の購入を抑制する施策をとるべきだったとされ、その信頼性が問われている。

また、他企業が行う転売抑止策の例を挙げつつ、基本的な管理体制を整える必要があると主張。

今後のブランドへの影響が懸念される中、企業としての姿勢を見直す必要があると結論づけている。

(要約)

( 316533 )  2025/08/16 05:19:31  
00

Photo:PIXTA 

 

 日本マクドナルドがハッピーセットの「ポケモンカード」転売騒動で謝罪に追い込まれた。再発防止策を打ち出したものの、5月に同様の「ちいかわ」騒動を起こしていたのだから、事前対策はもっとできたはずだ。何より、同社には「言動不一致」な点があり、企業として信頼度を著しく損ねる行為だと思わざるを得ない。(未来調達研究所 坂口孝則) 

 

● マクドナルドのハッピーセット ポケモンカード転売は予測できたはず 

 

 日本マクドナルドは過去から何を学んだのだろうか――。今度は、「ポケモンカード騒動」が勃発した。8月9日からポケモンカードが付くハッピーセットを発売したものの、たった1日で売り切れ(販売終了)となった。 

 

 問題は、転売目的の大量買い占め、店舗と周辺道路の混乱、そして大量の食品廃棄が発生したことだ。ポケモンが好きな子を持つ親など、欲しくても買えなかった“普通の人”たちが不満を募らせる一方で、いわゆる転売ヤーにより、フリマサイトの「メルカリ」や海外のサイト(二次流通市場)では1枚数千円〜数万円もの値がする出品があふれた。 

 

 10日、11日になっても騒動は収まらない。SNSには“外国人転売ヤー”の目撃情報談や、ハンバーガーやポテトが大量に廃棄される写真が数多く投稿され、ハッピーセットをめぐって一大議論が巻き起こっている。 

 

 それを受けて11日、マクドナルドは公式サイトで謝罪し、再発防止策を発表した。しかし率直に言って、こうなることは最初から十分予想できたのではないだろうか。ポケモンカードの“威力”がどれほど強いか、マクドナルドほどの企業なら知っていただろう。 

 

 何より、5月末には全く同じ「ちいかわ」騒動を起こしたばかりなのだ(参照記事『ハッピーセット「ちいかわ」転売問題、経営のプロが考えた「転売対策」がド正論すぎてファン激怒』)。 

 

 実は、筆者の小学生の息子もポケカの大ファンで、マクドナルドにハッピーセットを買いに行った。しかしそこでは、大人たちによる残念な光景が繰り広げられていたという……。 

 

 

 息子いわく、「日本人じゃない感じの人が5個買って、外に出て、また並びに戻ってきた」「もうマックの袋を持っているのに、並んでいる人もいた」……。恐らく後者は、他の店で買ったハッピーセットを片手に並んでいるのだろう。とにかく混雑していたので、息子は2回も並ぶ気にはならなかったという。 

 

 ここで今回のマクドナルドの事前準備を評価するならば、ハッピーセットの購入を1人5セットに制限したことだ。前回のちいかわ騒動を踏まえれば1セットでもいい気がするが、子どもが2人、3人いる家庭も当然ある。本来のターゲット層へ配慮がなければ本末転倒だ。 

 

 また、前回よりも入念に、転売目的の購入を控えるように注意喚起をしていた。さらに一歩前進したのが、メルカリと連携したことだ。両者で情報共有し、利用規約に反している悪質な出品(つまり転売)を削除すると7日時点で宣言していた。 

 

 しかし結果的には、メルカリ上で大量の転売が確認された。そもそも両社の提携内容も、対処療法であって根本解決にはならない。 

 

● SDGsだCSRだというわりに フードロスに対する本気度が見られない 

 

 ちなみに私は、転売行為そのものを真っ向否定するわけではない。転売は法律で禁じられていない。継続的な営利行為であれば古物商の許可を取得する必要があるものの、そうでなければ必要ない。さまざまな意見が出ているが、高額で転売するのがモラルに反するというなら、プラス1%ならOKとか10%はNGとかの基準が必要だと思う。とにかく転売は全てダメだと主張するならば、独占禁止法の改正を訴えるべきだろう。 

 

 一方、私がマクドナルドに対して強烈な違和感を抱く点がある。同社はSDGs(持続可能な開発目標)やCSR(企業の社会的責任)に熱心な態度を取ってきた。フードロスへの取り組みについても当然、熱心なはずだ。ちいかわの前例があるのだから、ポケモンカードが付いたハッピーセットを発売したら、ハンバーガーを食べずにカードだけを抜く転売ヤーが殺到することは十分予想できたはずだ。 

 

 食べものという人の命を支えるものが無下にされ、食材、調理のためのエネルギー、人の手、ありとあらゆるものがムダになる――。こんなもったいないことが、あるだろうか。マクドナルドの言動不一致は、企業の信頼度を著しく損ねる行為だと思う。 

 

 

● 他社の対策を見習えなかったのか ハッピーセットという商品の限界 

 

 繰り返すが、私は転売ヤーを絶対悪だとは思っていない。転売を完全になくすことはできない。転売を根絶したかったら、そもそも商品の販売をやめることだ。 

 

 一方、企業が不正な転売を少しでも減らしたいなら、努力すればできる施策はあると思う。 

 

 例えば、スターバックスは正月の福袋の販売に関して、事前登録した上で抽選する仕組みを導入した。エントリーは1人1回まで。もちろん、やろうと思えば複数アカウントで登録や応募は可能だ。しかし、こうした企業のひと手間が、悪質な転売の抑止力になっていることは間違いない。また、任天堂のNintendo Switch 2(ニンテンドースイッチ 2)も同様で、購入希望者はニンテンドーアカウントを作成し、抽選に応募する。 

 

 マクドナルドだって、公式アプリを使って1アカウントで1セットのみを販売する管理方法を考えられたのではないか。実行すれば少しは抑止力になったと思う。 

 

 他社の対策事例としては他に、購入者の身分証を確認し、商品のシリアルナンバーとひも付ける方法がある。あるいは購入時にパッケージに油性マジックで印を付けるなど、あえて少し汚すことで転売のモチベーションを下げる。人気プラモデルでは、購入者にその場で袋を開けてパーツを分離してもらう施策も実施された。いずれも転売をゼロにはできないが、減らすことにはつながる。 

 

 決定的な対策は、値上げすることだろう。今回のような超プレミアなハッピーセットは1万円、いや10万円で販売してみたらどうだろうか。きっと転売目的の買い占めは激減するだろうし、それでも販売数量が通常のハッピーセットとさほど変わらなければ、マクドナルド側の価格設定としても「あり」かもしれない。 

 

 と、こんなことを書くとまた読者から怒られてしまいそうだ……。そもそもマクドナルドのハッピーセットとは、ハンバーガーとサイドメニューと飲み物に、子どもが好きなオマケまで付いてワンコイン程度、親も子もハッピーになれるという商品なのだ。 

 

 低価格ゆえ、多額の追加コストがかかる厳密な販売管理はできないだろう。しかし、やはりSDGsだCSRだと強く世の中に訴えてきた企業だからこそ、自社の目指す世界観を実現するためにも十分な対策が必要だったと思う。 

 

 現時点では業績への悪影響は懸念されないし、過去の転売騒動でブランド離れが起きたとか、そういう話は聞かない。一方で、SNSには「もうマクドナルドには行きたくない」といった声もある。その声がデタラメだとは思えない。モノやサービスの購買行動に、企業姿勢を重視する傾向は確かにあるからだ。 

 

 ハッピーセットの転売騒動が、今後もずっと繰り返されたら……。熱狂的な大ヒット完売御礼は、長期的なブランド毀損や消費者の不満の代償に見合うものなのか、甚だ疑問である。 

 

 収益は低くても地道でスムーズな販売のほうが、ブランド力の維持向上に寄与するかもしれない。また、アプリなどによる抽選システムの開発を単なる追加コストではなく、ブランド保護と顧客リレーションシップに欠かせない経費として考えれば解決につながるかもしれない。 

 

 子どもの笑顔ではなく、メルカリの出品数ばかり増えても、どうしようもないことだけは確かだ。 

 

坂口孝則 

 

 

 
 

IMAGE